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不死の狩猟官 第16話「本番はこれから」

あらすじ
前回のエピソード

魔都品川区B地点深部──
曇り空に覆われたうす暗いオフィスビル街の真下、ひび割れたアスファルトの上に黒スーツの男女が互いに背を合わせながらへたりこむ。

キルスティン「ふぅ〜これでB地点は確保した」
黒上「まさか本当に奪還できるとは」

キルスティンは地面に一本の直剣を置き、隻腕の黒上はジャケットの内側に拳銃をしまう。
二人が通ってきた道には化物の死体が点々と転がっていた。

キルスティン「帰ったらさ、飲みに行こっか」
黒上「キルスティン先輩の奢りなら行きますよ」
キルスティン「もちろんって言いたいところだけど、今月カツカツで……」
黒上「冗談です。安い居酒屋、探しておきますよ」

血と汗と土に汚れた満身創痍の二人は互いの背に寄りかかりながら空を見上げる。
気づけば、先ほどまでは鈍色に染まっていた暗い空に光が差していた。

キルスティン「ねぇ、何か聞こえない?」
黒上「何の音だ」



魔都品川区中央エリア──
品川区の中央に位置する超高層ビルの屋上。


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ふたりの黒スーツの女性は柔らかな髪を揺らしながら品川区を一望する。

ナギ「先ほど相良先輩から連絡がありました。黒い魔女の死亡が確認できたとのことです」
レイ「これで品川区は奪還したも同然だね」
ナギ「はい」
レイ「どうしたの。浮かない顔だね」

ナギは肩に古めかしい狙撃銃を提げながら暗い表情をみせる。

ナギ「壬生が殉職しました」
レイ「そう。残念だね」

そう言って、レイは静かに欄干の上にアイスコーヒーが入ったカップを置く。
二人は押し黙ったまま眼下を見下ろす。
しばらくの沈黙の後、ナギは眉をひそめながら真下に広がる街の一点を見つめる。
鹿毛色の右目に浮かび上がる十字線には縦走する黒い高級車の列が映る。

ナギ「どういうことでしょうか……国家不死対策局の車が十数台、品川区に入りました」
レイ「おや」
ナギ「第一防衛課の人間でしょう。いくつか見覚えがある顔が見えます」
レイ「なるほど。どうやら今回の奪還作戦に一枚嚙む気らしい」

と、レイは寄りかかるように欄干の上に両肘を置く。
ナギは身体の向きを変え、レイの横顔を見上げる。

ナギ「どうしましょうか」
レイ「別にどうもしないよ。私たちの目的はあくまで品川区の奪還だからね。残党の殲滅は一課に任せればいい」
ナギ「分かりました。では、三課の人員には撤収するよう伝えておきます」
レイ「それじゃあ、帰ろうか」

ばさりとジャケットをひるがえし、クリーム色の細い髪をなびかせながら屋上の出口に向かうレイ。その後をナギが追う。

ナギ「はい」
レイ「これで残りは十二区。本番はこれからだよ」

レイの白面に影が落ちる。不敵な笑みを浮かべ、紺碧の瞳があやしく光る。達成感からの喜びだろうか。いや、それだけではない何かがあるように見えた。



魔都品川区C地点──
霧崎は壬生との別れを告げ、うす暗い画廊から出ると、入口の横にて相良がタバコを吸っている。それとは別に、品川駅の前にはほかの狩猟官たちの姿も見える。

霧崎「見たことない顔だ。アイツらも仲間っすか?」
相良「第一防衛課の連中だ」
霧崎「どうして三課以外がここに」
相良「手柄を主張するためだろう。いかにも一課らしい」

そう言って、相良はつまらなさそうにタバコを捨て、足でタバコの火をもみ消す。
霧崎は眉を吊り上げ、少し遠方にいる一課の狩猟官たちを睨む。

霧崎「ふざけんな」
相良「三課の邪魔をしないうちは見逃してやれ。レイからの命令だ」
霧崎「ちきしょ」
相良「帰るぞ。あとは一課に任せろとの達しだ」

駅前に停めていた黒い車に向かってゆっくり歩きだす相良。
霧崎はスラックスのポケットに手をつっこみ、黙って相良の後を追う。
ふと見上げると、太陽を覆っていた厚い雲が消えていた。

霧崎「残りは十二区……東京を奪還する日までもう誰も死なせねえ」

第16話「本番はこれから」完
第17話「地下」

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