見出し画像

不死の狩猟官 第15話「大事なもの」

あらすじ
前回のエピソード

霧崎は不死殺しの刀を手にしたまま、眉をひそめながら壬生と黒い魔女が交戦していた部屋を見渡す。

霧崎「なんだこれは……」

先ほどまで整然と美術品が並べられていた画廊。
しかし、今はまるで台風でも過ぎ去ったかのように床壁が派手にめくれ上がり、美術品から柱にいたるまでぐねりと大きく湾曲している。
床の上にはいくつもののカラスの死体。いや、よく見れば、一羽のカラスが床に這いつくばりながら破れた窓から外に出ようとしているではないか。

黒い魔女「冗談じゃない……原初の不死者のヤツ……に付き合うのはうんざりよ」
霧崎「お前が本体か」

全身が折れ曲がった血だらけの一羽のカラスを見下ろしながら刀の切先を向ける霧崎。
虫の息のカラスは力なく霧崎の顔を見上げる。

黒い魔女「あら……遅かったわね……」
霧崎「斬る前にあんたに聞きたいことがある」
黒い魔女「何……かしら?」
霧崎「原初の不死者とやらは何者だ。なぜ俺の命を狙う」
黒い魔女「答えても……いいわよ……アタシを斬れたらね──」

次の瞬間、死にかけていた血だらけのカラスが雪のように床の上に溶けて消えた。かと思いきや、とつじょ数十羽のカラスが現れ、破れた窓に向かって一斉に飛び出す。

黒い魔女 本体 Copyright © 2023 不死の狩猟


しかし、霧崎はその動きを見逃さない。すばやく一足飛びにてカラスたちの輪の中に飛びこみ、居合の構えをとる。

霧崎「もう一度だけ聞く。原初の不死者とやらは何者だ」
黒い魔女「あら……まだアタシ……斬られていないけど?」
霧崎「聞きたいことは山ほどあるが、素直に答えちゃくれねえか」

きんと冷たい納刀の音とともに、粉々になったカラスたちの肉片が床にべちゃりと落ちる。

黒い魔女「何よ……その居合術……君も使えたんだ……………………」
霧崎「壬生先輩からの贈りモンだ」



ミンチ肉と化した黒い魔女は止めどない血を流しながらクズ肉の中からずずと長い銀髪に覆われた顔を出す。両目は血ぬれた頭冠に覆われて見えない。

黒い魔女「おめでとう……君の勝ちね…………」
霧崎「まだ生きてたか」
黒い魔女「約束通り……答えて……あげるわよ。君……がんばったものね」
霧崎「……」

霧崎は片手に鞘を握りしめながら黒い魔女の生首を見下ろす。

黒い魔女「原初の不死者は……アタシたち不死の者たちの……生みの親よ」
霧崎「生みの親?」
黒い魔女「そう……アタシたちはその血肉の一部から……生まれたの」
霧崎「なぜソイツが俺の命を狙ってやがる」

もはや死にかけの生首を晒すだけの黒い魔女はふふと不気味に笑う。

黒い魔女「君が……不死殺しの刀を……抜いたからよ」
霧崎「この刀のせいか」

鞘に納めた不死殺しの刀に視線を落とす霧崎。
黒い魔女の生首は刻一刻とドロドロと溶けていく。

黒い魔女「これから……君たちを殺しに……多くの者が動くだろうね」
霧崎「それなら斬るまでだ。だが、なぜ化物共は原初の不死者に従う」
黒い魔女「心臓を…………握られているからよ…………」
霧崎「弱味を握られてるってことか」

視線を宙に這わせながら考えをめぐらす霧崎。
黒い魔女の顔が崩れ、顔の半分が床に沈む。

黒い魔女「最後に…………アタシからも……ひとつ質問よ」
霧崎「なんだ」
黒い魔女「今回の……作戦の指揮官は…………誰?」
霧崎「一等狩猟官のレイ・アルトリア──俺の上司だ」

その名を聞いた途端、顔の半分を失った晒し首の黒い魔女が不気味に笑う。

黒い魔女「あっは。あはは。あははははははははははは」
霧崎「何がおかしい」
黒い魔女「なるほど……あの糞女が君に不死殺しの刀を渡し……ここに差し向けたってわけね」
霧崎「それの何がおかしい」

死にかけの黒い魔女は笑いを止め、深刻そうに霧崎を見上げる。

黒い魔女「一つ忠告してあげる…………あの糞女は信用しないほうがいい…………」
霧崎「どういうことだ」
黒い魔女「何も知らないんだ……あの糞女は──」

次の瞬間、ばんと一発の銃声が響く。

霧崎「──!?」

放たれた一発の銃弾は死にかけの黒い魔女の脳天を貫く。これにより、死にかけの黒い魔女は完全に消滅した。
うす暗い画廊の奥からコツコツと革靴の音が響く。足音から察するに一人だろう。霧崎のもとに誰かが近寄ってくるではないか。



ほの暗い画廊の奥から姿を現したのは、黒スーツに黒い眼帯をつけた白髪まじりの中年男性だ。片手には拳銃が握られている。

相良「化物に隙を見せんな。死ぬぞ」
霧崎「おっさん……なんでここに」
相良「レイからの命令だ」
霧崎「レイさんから? でも、おっさんはたしかC地点の制圧に向かっていたはずじゃ」

片手に鞘を握りしめたまま眉をひそめながら相良の顔を伺う霧崎。
相良は拳銃をしまい、ジャケットの内側からタバコの箱を取り出す。

相良「C地点ならとっくに制圧した。だからここに来てんだ」
霧崎「本当にひとりで拠点制圧したんすね」
相良「当たり前だ。それより壬生はどこだ」
霧崎「そうだ。壬生先輩は」

部屋の中を見回す二人。
うす暗い部屋の片隅の壁に背を預けながら床に倒れる黒スーツの男の姿が見える。
二人は壬生のもとに向かう。
まもなく見えてきたのは、力なく背をもたれかけながら血だらけの手で一枚の写真を眺める壬生の姿だ。

壬生「どうやら……倒したみたいだねぇ」
霧崎「壬生先輩……」

相良は一本のタバコに火をつけ、口元にタバコを運ぶ。

相良「……」

誰が見ても、一目で分かる。壬生はもう助からない。出血量が尋常ではない。顔面は蒼白となり、唇は紫色になっている。
霧崎は肩に刀をかけると、床に片膝をつき、壬生と向き合う。

霧崎「壬生先輩から教わった居合のおかげっすよ」
壬生「それはよかった……特訓の甲斐が……あったというわけだ」
霧崎「……」
壬生「最後にひとつ……頼みを聞いてくれるかい?」

そう言って、壬生はゼェゼェと荒い呼吸をしながらジャケットの内側からひとつの鍵を取りだし、霧崎の前に差し出す。

霧崎「これは?」
壬生「赤坂駅の……ロッカーの鍵だよ…………中にあるものを家族に………………」
霧崎「りょーかい。絶対に届けますよ」
壬生「……」

霧崎の言葉を聞くと、壬生は安心したかのようにまぶたを閉じ、がくりと首を垂らした。片手には最後まで家族との写真が大事そうに握られていた。
相良はタバコの煙を吐き、険しい表情をしながら壬生の死体を見下ろす。

相良「出るぞ、霧崎」
霧崎「先に行っててくれ」

相良は何も言わずに霧崎に背を向け、出口に向かって歩き出す。

相良「……」

霧崎は鍵をしまい、静かに立ち上がり、壬生の死に顔を見下ろす。

霧崎「先輩、俺にも大事なものが見つかったすよ」
壬生「……」
霧崎「こんな仕事だから俺も周りもいつ死んでもおかしくねえって思ってたけど、でも、先輩みたいに良くしてくれた人が死ぬのはやっぱり辛ぇわ。だから俺きめましたよ」
壬生「……」
霧崎「レイさんや三課の皆が死ななくて済むように、俺が全部の化物を斬ります」

安らかに眠る壬生に誓いを立てる霧崎。その黒い目は炎を映したように光っていた。

第15話「大事なもの」完
第16話「本番はこれから」











この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?