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不死の狩猟官 第17話「地下」

あらすじ
前回のエピソード

魔都品川区奪還作戦から一週間が過ぎようとしていた。
長きにわたり不死者に占領されていた品川区はレイ・アルトリア一等狩猟官が率いる第三強襲課の活躍により陥落した。
この大いなる朗報は連日テレビ新聞に取り上げられた。しかし、その栄光の裏にあった尊い犠牲については紙面にわずかに触れられるばかりであった。



東京港区──
早朝。雨が降りしきる中、静かに傘を差しながら墓地に集まる黒スーツの参列者たち。


墓地 Copyright © 2023 不死の狩猟官



参列者に囲まれながらひとつの棺が慎ましく横たわっている。

「壬生 司 三等狩猟官の魂が安らかに眠ることを」

牧師の言葉とともに、参列者たちは故人に思いを馳せているようだった。

霧崎「壬生先輩」

霧崎はおもむろに肩からぶら提げていた紐付きの鞘を手に取り、鞘に納まった不死殺しの刀を見下ろす。泥だらけになりながら特訓した日々が思い起こされ、思わず鞘を握る手に力が入る。
一方、右腕を失くした隻腕の黒上は片手にて傘を差したまましばらく静かに棺を見つめた後、ふと隣の女性に視線を向けた。

黒上「大丈夫ですか」
ナギ「大丈夫。気にしないで」

黒スーツを着た小柄な少女は棺を見下ろしたまま俯き加減にそう言った。
色素が薄いショートカットの黒髪が目に被り、表情は読み取れない。しかし、その佇まいからは深い悲しみが漂っていた。
一方、眼帯をつけた白髪まじりの中年男性は傘を差したままタバコに火をつける。

相良「……」

ベテランゆえか、相良には特別に深い悲しみは見られない。おそらく狩猟官としてのキャリアを積み重ねていくなかで、何度も仲間の死を経験したのだろう。
一方、額にガーゼを貼った金髪のシニヨンヘアの女性は、棺ではなく、参列者たちに意識がいっているみたいであった。

キルスティン「三課は私が守るよ」

折り目が美しい黒スーツを着たクリーム色のポニーテールの女性は傘を差しながら参列者たちの間を抜け、棺の前にひざまずくと、棺の上にひとつの花束を添える。

レイ「壬生君、ご苦労様でした」

レイはそう言って、棺の上に花束を残して立ち上がり、牧師を一瞥する。
牧師はこくりと頷く。
静かな墓地に土を掘る音が響き、参列者たちは雨に打たれながら故人を見送る。
その日はまるで参列者たちの想いが天に届いたかのように雨が降り続けた。



同日午後、レイが待つ第三強襲課の執務室にひとりの黒スーツの男が呼ばれていた。

黒上「話とはなんでしょうか」
レイ「黒上君、民間企業に興味はないかな?」

雨に濡れる大きな窓を背にチェアに腰かけながらアイスコーヒーを飲むレイ。その視線は失われた黒上の腕──だらりと垂れたジャケットの袖に向いている。
黒上は怪訝そうに眉をひそめながら失われた片腕に手を伸ばす。

黒上「辞めろって言いたいんですか」
レイ「悪く思わないで欲しいけど、利き手を失ったいまの君に狩猟官は務まらない」
黒上「冗談ですよね。俺はまだやれます」
レイ「これは君だけの問題じゃない。チームにも影響が出るからね。分かって欲しいんだ」

黒上は不服そうに眉を吊り上げる。

黒上「足手まとい扱いですか。言ったはずです。俺は三課に救われた身、この命は三課のために使うつもりです。それに、俺にはやらなきゃいけないことがあります」
レイ「死ぬつもりかな?」
黒上「もとよりその覚悟です」
レイ「ふーん、そっか」

レイはそう言って、木目調が美しい執務机の上にて手を組み、黒上の覚悟を確かめるように鋭い視線を向ける。
黒上は拳を握りしめ、レイに頭を下げる。

黒上「何でもやります。続けさせてください」
レイ「もし」
黒上「?」
レイ「腕が戻るかもしれないといったらどうするかな。もっとも、最悪死ぬかもしれないけど」

黒上はゆっくり頭を上げ、力強く深い紺碧の瞳を見つめる。

黒上「もちろん。やりますよ」
レイ「そう。それなら今から行こうか」

レイはそう言って、おもむろにチェアから腰を上げ、執務室の扉に向かってゆっくり歩きだす。
黒上は怪訝そうに眉をひそめながら、今まさに執務室のドアノブに手をかけるレイの横顔に視線を向ける。

黒上「行くって、どこに行くんでしょうか?」
レイ「地下だよ」

黒上は少し驚いたように目を見開き、唇の下に手を置く。

黒上「地下……まさか国家不死対策局にそんなのがあるなんてな」

二人はこうして執務室を後にした。

第17話「地下」完
第18話「醤油派? ソース派?」




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