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不死の狩猟官 第10話「作戦開始といこうか」

あらすじ
前回のエピソード

翌朝、港区と魔都品川区の境界線上に大きく立ちはだかる巨大な壁の前にて、四台の黒塗りの高級車が一列になったままゆっくり停まる。
けた外れに大きい壁の前にはまるで城門のように重厚な鉄製の門がそびえる。
門の横には狩猟官と思しき武装した黒スーツの男女が背筋を伸ばして敬礼している。
最後列に位置する車の後部座席の窓が開く、窓から吹きこんだ風がクリーム色のポニーテールを揺らす。

レイ「作戦開始といこうか」

がらがらと大きな音を立てながらゆっくりと開く門の先を見すえるレイ。
四台の車は大きな門をくぐり抜け、いよいよ魔都品川区に乗りこむ。
しばらく縦走したのち、四台の車は分かれ、それぞれの地点に向かって走り出す。



A地点に向かう一台の黒塗りの車。
助手席に座るキルスティンは二本の剣を背負いながら窓を開ける、細くしなやかな黄金色のシニヨンヘアーがさらさら揺れる、ゴーストタウンと化したうす暗い無人のオフィスビル街を眺める。

キルスティン「この仕事をしてるとさ、ときどき死が怖くならない?」

運転席に座る黒上はハンドルを握ったまま静かに廃墟と化したゴーストタウンを進む。

黒上「……」
キルスティン「命が惜しいってわけじゃあないよ。ただ、私は皆がいる三課が好きなんだ──ごめん、シラフで何いってんだろ」

黒上はハンドルから片手を離し、おもむろにジャケットの内側から一枚の便箋を取りだし、紙面に目を落とす。

黒上「俺は死なないですよ。目的を果たすまでは」

便箋には柔らかい丸文字で「お兄ちゃんへ」と書かれている。
とつじょガシャンと重い衝撃音とともに車体が激しく揺れる、粉々になったフロントガラスが飛び散る、脱輪したかのように車が蛇行する。
キルスティンはあまりの衝撃にダッシュボードにごんと頭をぶつける、額に手を当てると血がついている。

キルスティン「いったい何よ……」
黒上「三種です」

落とした便箋をすばやくしまい、ボンネットの上に視線を向ける黒上。
体長十メートルはあろうか、まるで何人ものの死体と死体を繋ぎ合わせてできた百足のような醜悪な化物が口から涎を垂らしながら破れたフロントガラスから顔を覗かせているではないか。

百足の不死者「久しぶりの肉ダ」

死臭ただよう大口をあんぐりと開け、ハンドルを握る黒上に襲いかかる。

黒上「──!?」

とっさにフロントドアを開け、外に上半身を逃がす黒上。アスファルトの上を走るタイヤが目の前に飛びこむ、黒髪がさか巻きながら地面にこすれる。

キルスティン「残念だけど、肉なるのはそっちだよ」

百足の不死者の横顔に一本の剣を突き刺すキルスティン。
車内に血の雨が降り注ぐ、百足の不死者はたまらずうめき声をあげ、悶えながらボンネットの上から地面へ転がり落ちていく。
黒上はすぐさま上体を起こし、勢いよくハンドルをきりかえし、アスファルトの上を転がる百足の不死者に向かってアクセルを踏む。

黒上「俺がヤツの気を引く。トドメは任せました」
キルスティン「おーらい」

黒上はアクセルを踏んだままジャケットの内側から銃を取りだし、破れたフロントガラスから銃口を突きだし、百足の不死者に銃弾を浴びせる。

百足の不死者「あぎゃぁぁあ!」
黒上「今です──」

キルスティンは一本の剣を手にしたまま破れたフロントガラスにがつんと足をのせ、百足の不死者に勢いよく飛びかかる。

キルスティン「襲う相手が悪かったね」

ざざざと両足で地面をこすり上げながら着地するキルスティン、三枚おろしになって打ち上がる百足の不死者、ひび割れたコンクリートの上に肉塊が転がる。
黒上は銃をしまい、車を停め、キルスティンの下へ向かう。

黒上「ケガ大丈夫ですか」

キルスティンは剣を握ったまま、思いだしたかのように額に片手をあてる。

キルスティン「ああ、こんなもんかすり傷だよ」

黒上はスラックスからハンカチを取り出し、ぶっきらぼうにキルスティンの前に差し出す。

黒上「これ」
キルスティン「へ~男なのにハンカチなんか持ってんだ」
黒上「使わないならしまいますよ」
キルスティン「あんがと、使わせてもらうよ」

くすりと笑いながら黒上の手からハンカチをとり、額の血を拭うキルスティン。




斬りきざまれた百足の不死者の死体の側からにゅるりと黒い影のようなものがうごめく。
二人はすぐに気配に気づき、険しい表情をしながら武器を構える。

黒上「また不死者か」
キルスティン「今度は嫌な気配……」

体長三メートルはあろうか、まるで悪意を可視化したようなどろどろとしたドス黒い身体、手や足はない、ただ大いなる闇の上に両目がくり抜かれた不気味な白い仮面がぽつんと浮き出ている。

仮面の不死者  Copyright © 2023 不死の狩猟官


仮面の不死者「寒い……寒い……」
黒上「気味の悪いヤツだ」
仮面の不死者「でも、血を見ている時だけ暖かくなれる」
黒上「俺が片づけます」

仮面の不死者に銃口を合わせて引き金を引く黒上。
しかし、仮面の不死者はまるで水がしみこむように地中にずずと姿を消したかと思いきや、なんと黒上の背後に立っているではないか。

仮面の不死者「寒いんだ。その血で暖めておくれ」

目の前に立ちはだかる闇の中からあんぐりと大きな口が現れる、にちゃあと糸が引く、巨大なギザギザ歯の隙間から悪臭が立ちこめる。
黒上は銃を構えたまま慌てて振り向く。

黒上「間に合わな──」
キルスティン「マズい」

とっさに黒上を突き飛ばすキルスティン。
だが、少し遅かった。闇から出でた大きな口はぶちんと黒上の片手を引きちぎる、ひび割れたアスファルトの上に鮮血が滴る。
黒上は苦痛に顔を歪めながらとめどなく血があふれ出る損傷した片腕に手をあてる。

黒上「しくった……」
仮面の不死者「ああ、血だ。暖かい」

まるで恍惚としているかのように黒上の片腕からぽたぽたと垂れる血をぼうと見つめる仮面の不死者。
キルスティンはその隙を見逃さない、すばやく敵の懐に飛びこみ、真っ二つに胴を切断する。

キルスティン「手ごたえがない──」

まるで霧を斬ったかのように仮面の不死者は霧散する。そして、少し離れた場所にて黒い霧がたちこめる。仮面の不死者は不気味に笑いながら黒い霧の中から再び姿を現す。

仮面の不死者「アヒャヒャヒャヒャ。ああ、最高の気分さね」

黒上は損傷した片腕を押さえたまま、怪訝そうに辺りを伺う。

黒上「……どういうことだ。何も見えない」
キルスティン「急になに言って──」

剣を構えたまま隣に視線を向けるキルスティン。
その瞳はまるで生気が抜かれたかのように光を失っているではないか。
しかし、黒上は隻腕になりながらも冷静に銃を構え、耳を澄ます。

黒上「能力か」
キルスティン「つまり、二種」
黒上「そう見たほうがいいでしょう」
キルスティン「ごめんね、腕」
黒上「べつに先輩のせいではないですよ」

キルスティンは黒上を守るように前に出る、きりりと冷たい眼光に変わる、片手を前に突きだす、開いた手のひらを剣で真横にゆっくり斬りつけながら血を滴らせる。

キルスティン「仲間は死なせない」
仮面の不死者「血殺術か」
キルスティン「化物に慈悲はない。無限の剣閃、その身に刻め──」

第10話「作戦開始といこうか」完
第11話「先輩、目を貸してください」

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