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不死の狩猟官 第11話「先輩、目を貸してください」

あらすじ
前回のエピソード

まるで瞬間移動でもしたかのように音もなく仮面の不死者の背後から姿を現すキルスティン。しゅたっと地面に着地するやいなや、仮面の不死者の身体が八つ裂きになる。
しかし、決して血は出ない。
仮面の不死者は黒い霧となって四散するも、すぐに黒いわだかまりが集まり、両目がくり抜かれた白い仮面が姿を現す。


仮面の不死者「おそろしく速い業だ」
キルスティン「やっぱり身体を斬ってもダメか」

立ちこめる黒い霧を観察するキルスティン。あることに気づく。霧はただ法則性がなく漂っているわけではない。仮面のもとに引き寄せられるように集まっている。

仮面の不死者「あぎゃぁぁあ!?」
キルスティン「ビンゴ」

両目がくり抜かれた白い仮面の前に瞬時に移動するやいなや、仮面に深々と剣を突き刺すキルスティン。
闇が集まってできた身体はいくら斬っても血が出なかったのに、仮面に剣を突き刺した途端、まるで臓器でも潰したかのように大量の血が吹き出したではないか。

仮面の不死者「あががががが」
キルスティン「勝負ありね」

ひび割れたアスファルトの上にドロドロと溶けてゆく仮面の不死者の姿にほっと一息つくキルスティン。

仮面の不死者「アヒャヒャヒャヒャ」
キルスティン「え──」

とつじょ鈍い音とともに鮮血が地面に滴る。
キルスティンは眉をひそめながら己の肩に目を落とす。どういうことだろうか、顔面に無数の釘が刺さった不気味な白い仮面が肩に深々と牙をたてながら噛みついているではないか。

仮面の不死者「ああ、口の中に血があふれる」
キルスティン「いつの間に……」

銃声が響く。無数の釘が刺さったグロテスクな白い仮面に銃弾がかすめる。
キルスティンの肩に噛みついていた釘の仮面が剥がれ落ち、そのまま地中にぬめりと姿を隠す。
黒上は負傷した腕をおさえながら耳を頼りに仮面の不死者の位置に銃口を合わせていた。

黒上「大丈夫ですか」
キルスティン「あんがと。助かったよ」

肩に負った酷い咬傷に手をあてようとするキルスティン。しかし、奇妙なことにうまく手を伸ばせない。それどころか、握っていた剣を力なく落としてしまう。
黒上はからんからんと響く金属音に眉をひそめる。

黒上「……?」
キルスティン「おかしい。感触がまるでない……」
黒上「視覚の次は触覚──」

二人の前に黒い霧が再び立ちこめる。
まるで痛みを象徴したような無数の釘だらけの白い仮面が姿を現す。

仮面の不死者「アヒャヒャヒャ。久しぶりに身体が疼くさねぇ」

立ちこめる闇からさらに三つの仮面がぐぐと顔を出す。口が縫われた白い仮面、鼻が潰れた白い仮面、耳に無数の針が刺さった白い仮面、全部で四つの仮面が身体を一にしながらひしめき蠢く。
キルスティンは痛ましい咬傷を負った肩を押さえながら眉をひそめる。

キルスティン「仮面が四つに」
黒上「そうか……仮面ごとに能力が違うんだ」
キルスティン「最初は視覚、次は触覚を奪われた。つまり──」
黒上「五感を奪う。それが敵の能力でしょう」
仮面の不死者「さぁ、全力で奪い合おうさね。命を! 血を!」

仮面の不死者は水がしみこむようにずずと地中に潜り、気配を消す。
黒上はおもむろに歯でシャツをちぎり、血がとめどなくあふれ出る腕の傷口を縛り、再び銃を構える。

黒上「先輩、目を貸してください」



キルスティンは身体の感覚を失いながらも、ぎこちなく片手をあげ、指で丸い輪をつくる。

キルスティン「おーらい。黒ちゃんはただまっすぐ撃てばいい。私が導くよ」
仮面の不死者「隙だらけさね」

うごめく闇が黒上の足元を覆う。
ひび割れたアスファルトの上に広がる大いなる闇から、にちゃあと糸を引きながら大口を開ける仮面の不死者が姿を現す。
キルスティンは指でつくった丸い輪の中に黒上を捉える。

キルスティン「飛べ」

闇から出でた大口が黒上を喰む。
しかし、そこに黒上の姿はもうない。
黒上は音もなく仮面の不死者の真上から姿を現し、釘だらけの仮面を見下ろしながらまっすぐに銃弾を放つ。

仮面の不死者「あぎゃぁぁ!?」
黒上「これで二つめ」

目こそ見えないものの、手応えはあったようだ。
顔面に無数の釘が刺さった白い仮面から大量の血が吹き出す。
キルスティンは指でつくった丸い輪の中に再び黒上を捉える。

キルスティン「飛べ」

先ほどまで仮面の不死者の真上にいたはずの黒上、しかし、すぐさま位置が変わる。
黒上は仮面の不死者の背面に回りこみ、すばやく銃弾を放つ。

黒上「三つめ──」
仮面の不死者「ぐぎゃあああああ!?」

口が縫われた白い仮面から噴水のように鮮血が吹き出る。
キルスティンは片手でつくった丸い輪の中に再び黒上を捉える。

キルスティン「飛べ」

先ほどまで仮面の不死者の背面にいたはずの黒上、しかし、すぐさま位置が変わる。
黒上は音もなく仮面の不死者の側面に回りこみ、銃弾を放つ。

黒上「四つめ──」
仮面の不死者「あぼばぁぁぁぁ!?」

キルスティンは黄金色の髪をなびかせながら指でつくった丸い輪の中に再び黒上を捉える。

キルスティン「飛べ」
黒上「最後だ」

仮面の不死者の真上に瞬間移動する黒上、最後の仮面に向かって冷静に銃弾を放つ。

仮面の不死者「嫌だ……死にたくない」

迫りくる銃弾から隠れるようにずずと地中に姿を消す仮面の不死者。
黒上は耳を澄ませ、遠ざかっていく気配に気づく。

黒上「逃すか──」

手に持っていた銃を口にくわえ、すばやく腰からナイフを取りだす黒上。そして、即座にナイフで手のひらを真横に斬りつける。
刹那、まるでカバンのファスナーのように手のひらからガバッと口が開き、異様に長い舌を出しながら大きな悲鳴をあげる。

仮面の不死者「どういうことさね……」

奇妙なことが起きた。仮面の不死者は地中に姿を隠して逃げていたはず。しかし、今はなぜか地中に姿を隠す前の場所に生身が晒されていたのだ。
まるで逃走した事実がねじ曲げられたかのように。そして、先ほど黒上が放った銃弾が今まさに仮面を貫く。




仮面の不死者は全身から真っ赤な血を吹き出しながらひび割れたアスファルトの上にドロドロと溶けていく。
やがて血だまりの中に無数の人骨が浮かび上がる。
キルスティンは負傷した肩に手をあてながらふうと一息つき、片手のひらを閉じたり開いたりしてみせる。

キルスティン「身体の感覚が戻った。どうやら仕留めたみたいだね」
黒上「──!?」

とっさに口に片手をあてる黒上。指の隙間から血がこぼれ落ちる。
キルスティンは思わず眉を上げ、不安そうに黒上を見上げる。

キルスティン「それって……」
黒上「能力の代償です。問題ない」
キルスティン「血殺術は使えば使うほど身体を蝕む。その身体、限界じゃないの」

黒上は腕で口の血を拭い、黒髪をなびかせながら廃ビルが建ち並ぶゴーストタウンの先を遠望する。

黒上「──だとしても、俺にはやらなきゃいけないことがあります」

キルスティンは黄金色の髪をなびかせながら憂わしげに黒上の横顔を見つめる。

キルスティン・アルバーン 三等狩猟官 Copyright © 2023 不死の狩猟官


キルスティン
「そう。それなら私も私のやり方で三課を守るよ」

第11話「先輩、目を貸してください」完
第12話「黒い魔女」

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