唱歌の架け橋(第18回)

今日は、第6回の『夕焼小焼』の唱歌で登場した作曲家の草川信の再登場である。

海沼實と同じ長野県出身だが、草川のほうが海沼より先輩だった。

終戦直後の日本は、広島や長崎は言うまでもなく、空襲や激戦の舞台となった場所は、ほとんど焼け野原だった。

つまり、緑がほとんど失われ、黒く焦げた色はあっても、鮮やかな色などまったくない世界だった。

そんな状況下にあって、歌詞の中で色が具体的に使われて、聴く人や歌う人がみな、かつての美しい風景を渇望しながら、希望を持って生きようとしていた時代だった。

1948年1月に発表された『緑のそよ風』も、色に癒される歌の一つである。

【1番】
みどりの    そよ風    いい日だね
ちょうちょも    ひらひら    豆のはな
七色    畑に    妹の
つまみ菜    摘む手が    かわいいな

【2番】
みどりの    そよ風    いい日だね
ぶらんこ    ゆりましょ    歌いましょ
巣箱の    丸窓    ねんねどり
ときどき    おつむが     のぞいてる 

【3番】
みどりの    そよ風    いい日だね
ボールが    ぽんぽん    ストライク
打たせりゃ    二塁の    すべり込み
セーフだ    おでこの    汗をふく 

【4番】
みどりの    そよ風    いい日だね
小川の    ふなつり    うきが浮く
静かな    さざなみ    はねあげて
きらきら    金ぶな    嬉しいな 

【5番】
みどりの    そよ風    いい日だね
遊びに    いこうよ    丘越えて
あの子の    おうちの    花ばたけ
もうじき    苺も    摘めるとさ

以上である。

どの歌詞にも、平和な日常の光景が描かれていて、こんな日を終戦後に待ち焦がれていた当時の人たちの気持ちを思うと、胸の中がジーンと熱くなる。

作詞は、清水かつらが担当したのだが、この歌詞は、珍しい八五調である。(七五調ではない)

メロディーは、ト長調の旋律だが、明るく元気なイメージが伝わってくる。

草川信は、この歌が発表された年の9月に、55才で亡くなり、当時39才だった海沼實よりも先にこの世を去った。



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