『樹洞より』4・べにの間
春の胸 春の始まりの暖かさは、きっと世界のどこであっても、胸に心地良いものなのでしょう。
遠ヶ崎の街で迎える春は、山深い巻砂のものと比べれば、幾分か知ることの難しいものです。目白の集う桜の木も、花の房をたわわに下げた小米柳も、巻砂ではありふれていたものでした。しかしこの街では、よそのお店の庭を覗いて、やっと見ることのできるものたちです。
それでも、道行く人々の表情が和らいでいること、お日様が早く顔を出し遅くに去っていくことに、私は心を暖かくせずにはいられないのです。
(今