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装丁用のロゴ作り

最近、SKIMAでイラストやデザインの仕事を受付し始めました。
が……「こんなものがデザインできますよ〜」の見本にできる作例が、少ししかない!
特に、文芸同人誌などの装丁や装画やロゴデザインを受け付けている割には、作例も経験も足りていなくていかん……と思ったので、今、自分の技術の特訓も兼ねて「架空の同人誌の装丁」のデザインをしているところです。
架空の同人誌とはいえ、作品のイメージが何もなければ作例にも練習にもならないので、「自分が昔執筆していた小説を同人誌にするなら?」という設定でデザインしていくことに。

自分の過去作は中長編が多くて、そのほとんどが未完になっている(長いお話を書くのが本当に難しくて……)。書き終わらなかった経験を渋く思いながらいくつかの物語を思い出して、そのうちの一つ、タイトルが未定だったものに『海市にて』という題をつけた。

『海市にて』の舞台は架空の地球。我々で言うところの近代と現代の境の時期に、大洋の一部が巨大な蜃気楼のようなものに覆われてしまい、世界が南北に分断されている。蜃気楼のようなものは海市(かいし、蜃気楼の古い呼称)と呼ばれていて、その中は時空が歪んでおり、南北での人や物の行き来、通信を難しくしている。
主人公は、自分の出自が謎に包まれていることに悩む青年で、海市の南側の区域「南冥」に住んでいる。
あるとき主人公は、海市の向こうの世界「北冥」に自分と瓜二つの青年がいるらしいと知るが、その者のことを探れば探るほど、子供の頃の朧げな記憶が気にかかってくる。その記憶は、自分と同じ顔で歳上の、兄のような人物と一緒に暮らしていたというもので……。

……というものです、『海市にて』。ちなみに、このnoteに載せている『緑の縁』や『樹洞より』と関連したお話。未完だけど……。
で、今回はこの『海市にて』のお話を本にするなら? というていで装丁の作例を作っていく。
制作するのは、表紙に入れるイラストと、タイトルロゴのデザイン、それらを使った表紙デザイン。
この記事では、主にロゴ制作の部分を記録してみる。

表紙用イラストのラフ。

まずはイメージを掴むために、表紙のイラストから描いてみた。
描いたのは主人公ではなく、主人公の思い出の中の「謎の兄」みたいな人。物語の設定上、登場人物全員の性別がはっきりしていない仕様で、この人物も兄といいつつ女性的な見た目にしている。

線画が完成したところ。

この人物は人ならざる何かみたいな感じで、体の端々を煙や水飛沫、植物、模様など、混沌としたものに変化させることができる。
それで、勝ち気な子供のような性格で、よくこういう表情で踊っている。それらのイメージで描いてみた。

仮の着彩をし、仮のロゴを描いてテキストと一緒に配置、構図を確認したところ。

この絵を描いてみて、線に現れたクセを自分で拾っていく。
「のびやかな弧の形の端がいきなり複雑に縮れている」「体の形の一部が正しくあらずに、水流や気流にたわまされたようになっている」「左下から右上へ直線的に跳ね上がるエネルギーがある」といった特徴があるかもしれない。
その特徴から、仮のタイトルロゴを描いてみた。
いくつかの明朝体や書道の本を参考にして、まず「海」の字を描く。「字を刷った薄紙を揺れる水面に浮かべて、それが溶けて流されていく様を見送るとき」というようなイメージで描いた。
そのイメージで他の字も描いていく。「市」の字はかなり左右対称に近いものだから、揺らがせるのが難しかった。

仮のロゴの画像データをベクター化しているところ。

ロゴはこの状態では普通の画像データで、仕上げや加工が難しいので、CLIP STUDIO PAINTでベクター線のものに書き直す。
本当はAdobe Illustratorで作業するのがいいのだけど、高くて買えずにいる。

ベクター線の輪郭の中を着色したところ。クリスタはベクター線の内側を常時自動で塗り潰して表示する機能がないので、ちょっと不便かな。
「にて」が右上に向かって尖りすぎていたため、少し修正した。

ここらで一旦誰かに見てもらおうと思い、父にロゴを見せてみた(今回は仕事ではなく個人制作なのでできること)。そうしたら読むのが大変そうで、特に「にて」が読めずに困っていた。
「海市」は一般的に馴染みのある語ではないにもかかわらず、「"かいいち"? それとも"うみいち"?」と一応読んでくれたので、その上で「にて」が読めないというのは、このデザインにかなり問題があることになる。
父に詳しく聞くと、「に」が「12」に見えてしまって、読みがわからなくなっていたそうだ。た、確かに……!

「に」の2・3画目を切ったところ。

流れるような感じを出そうと「に」の2・3画目をつなげてみていたけれど、「12」に見えるだけでなく、少々古めかしくなりすぎていたので、思いきって分断してみた。父も読みやすくなったとのこと。
ひとつのベクター線の図形を分割するのは難しいかと思っていたら、クリスタの機能で充分に足りていて、意外とすぐにできた。

調整して、完成!

「に」の修正をしたあと、あちこちの部位の大きさや配置を修正して完成。

「海」は全体的に気が抜けていたから、右上の屋根部分と「母」部分の間の隙間を小さくした。一番の特徴として左右の間にぽっかり空けていた空間は、「母」部分の突き抜けた横線で少し遮った。

「市」は「海」より少し小さく、漢字の割に「にて」と同化してしまいそうだったので、「巾」部分を大きくした。すると「巾」の右縦線が太すぎること、左縦線に変な溜まりがあることに気づき、修正。

「に」は2画目が右上につんのめっていたので、そこを抑えつつ、3画目を上品そうに見える位置に収めた。この「こ」部分の調整、本当に難しくて……少し動かすだけでポップになったりシックになったり、表情がコロコロと変わった。

「て」はあまり細かく変形させなかったけど、しんがりの文字が小さすぎては頼りないと思い、少し大きくしてみた。

ロゴを仮の表紙に入れてみた。

出来上がったロゴを改めて表紙に入れてみると、絵と同じリズムをしているからか、単体で白地に映して見た時よりもいい感じになった。あとはこの絵を塗り終わったら完成です。

ロゴ作りの記録、あんまりちゃんとまとめたことがなかったな。こうやって途中の思考過程をふりかえってみると楽しかったので、また習作などを作る時は記事に書いてみる。