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文章の練習

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文章の練習をしております。
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#創作

御伽噺の裏話。

友達とおにごっこやかくれんぼをすると、いつも一番最初に鬼に捕まっていた。足が遅くて逃げ切れないのが原因だ。いつか逃げてみせるぞ、と走る練習したが、ちっとも速くならない。そのせいで徒競走なんかではいつも最下位だった。どれだけ頑張っても速く走れなくて泣いていると、先生が「いつも最下位だとしても、最後まで走り切ることがすごいんだぞ」と声をかけてくれた。どうせ最下位だという結果が見えている時に、諦めて走る

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大阪の女。

彼氏と付き合って今月で丁度3年。
一緒に暮らしてからは、だいたい2年。
もうすぐ契約の更新が来るはず。
将来のこと考えて引っ越すんやったら、丁度ええタイミングやと思うねん。
あたしも今年で32歳。そろそろ身ぃ固めてもええ頃やと思うねん。
でもな、やっぱりこういうやつは、男から言ってもらいたいやん?あんたも多分「男の俺が言うべきや」って思ってるんかもしらへん。
出来るだけ自然とさ、そろそろどうやろな

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ある日のこと。

連絡がなくなってから、いくらの月日がたったろう。
自分は相も変わらずに暮らしていけてるし、相手もきっとそうだろう。
子供はどうしたのだろうか。結局なにもわからないままだ。
「妊娠したかもしれない」
その文面だけでは、相手が何を伝えたかったのかわからなかった。
結婚しようと言うべきだったのか、病院に一緒に連れ添うと言えば良かったのだろうか。
まだ若い彼女のことだから堕ろす費用を出せということだったの

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不器用

朝のアラームは全部とめちゃう
洗濯物は洗ったまんま
脱いだクツも散らかりっぱなし
お皿洗いは気が向いたとき
お菓子の袋は歯で開けちゃう
顔を洗うと服までびしょ濡れ
靴下の相方はいつも行方不明
外にでると鍵をなくし
家に帰ると傘をなくし
世間話に花が咲かない
スマホの充電はいつも少なめ
なにかひとつやると
なにかひとつが抜けていく
落ちないように気をつけるけど
ポロポロこぼれたことすら気付けない

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五線譜のメロディー

真っ白な五線譜に切ないメロディーが溢れ出す。
カッターナイフなんかより、鋭いカミソリの方が良い音が沢山流れ出るの。
イヤなことがあった日も、つらいことがあった日も、奏でるメロディーは心を支えてくれる。
別に死にたい訳じゃないの。
ただ生きている証がほしいの。
傷つけたい訳じゃないの。
これしか術をしらないの。
一瞬の痛みを味わえば、生きてる実感がするの。
流れる音符が、私の生きている証なの。

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悲しき男の一生。

仕事が終わると、まずは家の近くの墓地に寄る。
愛する人がいつも墓石の前で待っていてくれる。
「おかえり、今日も早かったのね」
まだ泣くことしかできない赤ん坊を抱いて、妻が微笑んでくれる。
「ほら、こないだ会社で自殺があったろう?あれ以降無理な残業や呑み会がなくなったんだ」
吉村はネクタイを少しゆるめ、目の前の妻に話しかける。
今日あった出来事、駅の改札に挟まったこと、公園の猫がはなしかけてきたこと

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牧場の娘の朝は早い。

牧場の娘の朝は早い。
毎日仕事で早起きだ。だが、それ以上に、愛する男に連絡を取れるタイミングが、ここしかないために早起きをしている。
娘が男と出会ったのは、街の小さな酒場であった。
夜更けに出歩くことがない娘が、たまたま通りがかった酒場から聞こえる素敵なメロディーに寄せられたのが始まりだった。
中に入るとそこには、ギターを奏でる男が、美しい声で歌っていた。
酒が飲めない娘は、ミルクを注文し、男の歌

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過去。

人間は生きていれば
必ず過去がつきまとう

うれしい過去も
かなしい過去も
つらいことや
なきたいことも

すべてひっくるめて
いまの自分が存在するなら
過去を否定しないでほしい

あなたの愛する相手の過去が
たとえ殺人者であっても
たとえ詐欺師であっても

すべてを受け入れた相手を
見捨てないで

相手を憎むものもいれば
愛するものもいる

なにもかもがつながった世界に

過去だけがつきまとう

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夢。

会いたかった。
そんなこと言うと重たく感じる。
だけど
会いたかった。

もしかしたら会えるかもしれない。

そんな淡い期待
叶わないのがオチ

だけど会えた。
一目見れた。

ただそれだけで幸せな乙女。

声が聞けた。

それだけで幸せ。

その声が私に向かうことは
ないと思っていた。

今の幸せは夢のよう。

声は私に向けられて
あなたは私の横で微笑んでいる。

まるで夢でも見ているよう。

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はな。

真っ白な浴槽に広がる

       真紅の 花

茎をたどっていくと

しなやかな

     女性の手首に

からみついた

時間がすすむにつれて

彼女の腕から

花がたくさん咲いていく

僕は

止めることが

       できない

この

 美しい

   景色を

ずっと眺めていたかった

彼女が何故こんな所で倒れているのか

わからないが

僕には

この花 全てが

 彼女の人

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贈与物。

誕生日に何をあげよう

私の誕生日は飛びっきりのプレゼント
用意してくれるって言ったのに

今まで一度も
覚えてなかった

そんなやつには
ハバネロをやろう

辛いのが苦手
そんな事は承知の上

甘いものの方が喜ぶ
そんな事も承知の上

ちょっとくらい
痛い目をみればいいんだわ

でもさすがにハバネロだけだと
可哀想よね

だったら飛びっきり
甘いケーキを用意しよう

彼は甘いケーキに惑わされ

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灰。

真っ白な世界に

真っ黒な闇があって

その狭間に

ゆらゆら揺れている

自分は灰色で

この世界に

色はなく

頬を伝う涙すら

灰色

色のない世界の隙間から

外の世界を垣間見ると

あら不思議

外は色があふれている

隙間から入ってきた彼女は

真っ白なワンピースだが

ところどころ赤で飾っている

なぁにこのせかい

つまんないの

こっちに出てごらんよ

彼女に手をひかれ

隙間

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甘い。

君の中身はシュークリーム

全部食べるには甘すぎて

僕には食べきれない

甘いものが苦手な僕には

なかなか手が出せない君は

きっと一度食べたら

ドロリとした口に残る甘さで

僕を支配するのだろう

いつまでも残る

カスタードの甘ったるい味が

君を忘れさせないだろう

もしも忘れてしまっても

僕は君の甘さが気になって

食べきれないのに

手を出して

また甘い味が僕を支配して

やめ

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