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【読書ノート】『十三月怪談』(『愛の夢とか』

『十三月怪談』(『愛の夢とか』
川上未映子著


何かを失うというテーマの短編集なのだけど、最後の物語は、自分の生命を失うということ。

時子は、何となく体調がすぐれなかったので、駅前のクリニックに行った。血液検査の結果、大きな病院で、詳しく検査が必要な状況であることがわかった。

こういう時、時子はいつも、最悪のケースを想定する。死んだら自分はどこにいるのか?自分が死んだら夫・潤一は、どうなるのだろう?悲しむだろうか?悲観に暮れる姿を見るのは辛いが、新たな恋人ができて、幸せになることも、やはり辛い。

そうしているうちに、あっさりと時子は死んでしまう。

そして、時子の独白の形で、死後?、自分の置かれている状況を淡々と語る。幽霊となって、自宅に住み付き、悲観に暮れる潤一を見守る。永遠の世界に時間の感覚はなく、現実社会とは、すぐ隣り合わせの空間なのに、手足の感覚はなく、潤一に触れることも、話すこともできない。その後、潤一にも彼女らしい女性が現れ、結婚して、子供が産まれ、時子は嬉しくもあり、寂しくもあるという不思議な夢の中にいるような感覚で、時子の語りは、平仮名だらけになって、消えていく。

現実の潤一の世界は、時子の語りとは全く異なり、独身を貫き、69歳で亡くなる。そして、潤一が見た死後の世界では、時子が、明るく待っていた。

キーワードを挙げてみる。

①「十三月」とは?
1. 「十三月」という言葉は、通常の暦には存在しない月を指すことがある。このような視点から、「十三月」は時間の非現実性や制約の解放を象徴する言葉と言える。

2. 「十三月」は、通常の暦に存在しない月を指すため、非現実的な存在や超越的な領域を表す。

②「怪談」
1. 怪談は人間の恐怖心や不安を刺激する要素を含む。人間の存在は不確かさや死への恐怖といった根源的な不安に満ちているわけで、このような不安を直接的に表現することで、人間の心理や存在の本質についての考察を促す役割を果たす。

2.怪談は、未知との遭遇や解明不可能な現象を通じて、人間の知識や認識の限界についての考えを喚起させる。

3. 怪談にはしばしば死や死後の存在がテーマとして取り上げられる。死や死後の世界についての神秘的な考えを探求し、人間の存在や意識の意味について考えさせられる。

キーワードから見えてくること。
生きている時に思い描いている死後の世界が、その人にとっての死後の世界になるということなのだと理解した。

物語の主題は何か?
生命(肉体)の喪失をどう受け取るのかということなのだと理解した。

生まれた瞬間から人は「死」に向かってひたすら走っているわけで、死は避けられない。ひとが幸せに死と向き合うための哲学的な視点をいくつか挙げてみる。

1.死は人生の一部だということ。死に意識を向けることで、人は自分の人生や限られた時間の価値を実感する。モーメント・モリは、人々がより充実した人生を送るために、死を意識することを奨励している。

2.死は肉体的な存在の終わりを意味するが、人間の存在は肉体に限定されないとも考えられている。死後も人間の意識や魂が何らかの形で存在し続ける可能性があると信じることで、死を超えたつながりを感じることができる。

3.聖書では、「我が国籍は天にあり」と言って、魂の営みの基本ベースは天にあるわけで、現実社会がすべてではないと信じられている。人生は愛が、テーマの芝居のごとし。生かされている間は、自分に与えられている役を演じることが、大切なわけで、幕が下がれば、天に帰る。

最後に残るのは愛なのだろうと改めて思わされた。

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