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【ブックレビュー】夜明けのサンクチュアリ/菅沼ぜりい



夜明けのサンクチュアリ/菅沼ぜりい

【キャッチコピー】

『きらめきとざわめきを同居させたら、生まれた夜明けのサンクチュアリ。』

【あらすじ】

31音で世界を切り取る、菅沼ぜりい初の短歌集。 「ライオンもたてがみを切ることがあるやさしい人になるための朝」 「少女にも人は殺せるおぼえてて生んだのだからほろぼしていい」 など、86首を収載。
「脳幹キノコ電極堂」サークルメンバーの菅沼ぜりいが、これまでに詠んだ短歌の中から厳選したものです。恐ろしくも懐かしい世界観を、ぜひお楽しみください。

(ホームページより引用)

【感想】

 面白い歌集だな、と思った。

 なんて書くと上から目線なのですが、この歌集を面白い! と言うとこの歌集の良さがわかりにくくなってしまうのでいったん置いといてください。

 この歌集は著者の菅沼さんが書いてきた短歌の傑作選と書いてあるだけあって、読んでいてすっと読み飛ばせるような、歌集特有のぱっぱと次の歌に行って、気になったものだけじっくり読んで独自に深めていくといった読書体験とは少し違っていました。

つまるところほぼ全歌が、ページをめくる手を止めさせるものだったのです。

 まるで何か悪霊でもついているのかと言わんばかりに、ページをめくる手が重い。この歌をもっと心臓の深くまで刺してからここを通れと言わんばかりの肉薄する歌の数々は、31音で心地いいメロディとは裏腹に、おぞましさをはらんでいた。

 それがこの歌集の面白い! と思ったポイントです。

 僕らが普段生活する中で、ふっと気づくけど忘れてしまう。もしくは忘れてきた小さなきらめきを見つけてくれるような575に、俺がいたことを忘れるな! と言わんばかりにゾッとする77が続く。(開始おぞましいパターンもあります)

プリンだと思って食べたら石だった、いや食べたら胃の中で爆発したとでも言ったらいいのでしょうか。

 前半は飲み込みやすい。美しいし、キラッと輝いている。記憶の引き出しを開けられたり、覚えているワンシーンに、彼女の書いた歌のキャラクターが自然と入り込んでくる。

 これは素敵な短歌でしか味わえない感覚で、僕はこれを味わえるから、短歌をやっているし読んでいるところがある。

 だが、この歌集をさらなる高みに押し上げているのは、先述した77のゾッとする要素。


例えば

空想の海はいつでも晴れていて死んでもいいよと教えてくれる

22P

少女にも人は殺せるおぼえてて生んだのだからほろぼしていい

23P


 お母さんがたまにちょっと母を逸脱し、娘に言うべきでない言葉をなげかけてしまうような、仲の良かった年上のお兄さんから、突然いやらしい目を向けられるようになるような、ある日突然いじめのターゲットが自分に回ってきたときの朝の教室の冷えた空気、可愛がっていたペットに急に威嚇されるような……。

とりあえず驚きと戸惑いを与えられます。

 これが収録されているほとんどの歌で表れる。たまに息継ぎするように、美しすぎる歌もあるのだが、それすらも伏線だと言わんばかりに、もしくは一度ホッとしたからか、次の歌で味わう恐怖は何倍にも膨れ上がる。

 わたくしごとだが、ホラー映画を笑って観るようなタイプの僕は、作品で怖がるということから無縁だと思っていた。

しかしここにあった。とてつもなくおぞましくも輝かしい言葉たちが。

(あれ、言葉って、こんなに怖かったけ?)

 しかし読み味は嫌な感じで終わらないのも今作の魅力。

 あんなに胸動かされたのにスッと優しく溶け残る感じの読後感は、まるで飲み会帰りの明るくなりかけの薄水色がかった夜明けの空のよう。

最後に読後感でタイトル回収する様は本当に見事!

 美しかったり上手く言えていたりする短歌を読むと
「こういうのでいい」と感動することはあるが
「こういうのがいい!」と思わされた歌集は今作が初めてかもしれない。

 ちなみに個人的激推し短歌(お前のことだぞ短歌みたいでよかった)は65P。内容はぜひ実際の本で!

【作品はこちら】


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