吉本 俊二

最近は読書感想文が多いです。ごくたまに時事問題、映画・アートなどの話題も取り上げます。…

吉本 俊二

最近は読書感想文が多いです。ごくたまに時事問題、映画・アートなどの話題も取り上げます。趣味で撮っている写真も時々アップします。

マガジン

  • 本読みの記録(2023)

    ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2023年刊行の書籍。

  • 本読みの記録(2024)

    ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2024年刊行の書籍。

  • エセー

    社会の出来事について、身辺の些事について、おりおりに思ったことを綴っていきます。

  • そして映画はつづく

    ZAQブログ『コラムニスト宣言』に発表した映画レビュー記事がベース。ZAQ-BLOGariのサービス停止に伴い、記事に加筆修正をほどこしたうえでこちらに移行しました。DVD化されている作品に関するテキストを収録しています。封切り作品に関するレビューも随時加えていきます。

  • フォト・アルバム『非決定的瞬間』(2023-)

    私が撮った写真あれこれ。なおマガジンのカバー画像は、2023年2~5月に大阪・国立国際美術館で開催された「特集展示:メル・ボックナー」の作品展示の一部を撮影したものです。

最近の記事

人類社会の平和を考えるための鍵言葉!?〜『共感革命』

◆山極壽一著『共感革命 社交する人類の進化と未来』 出版社:河出書房新社 発売時期:2023年10月 共感力。これが本書のキーワード。人類の歴史において「認知革命」の前に起きた「共感革命」こそがその後の人類史に大きな影響を与えたというのが本書の基本認識です。 共感革命とは何でしょうか。 人類は言葉の発明以前に共感する力を身につけた。共感によって仲間とつながり、大きな集団を形成し、強大な力を手にした──。その一連の過程を本書では共感革命と呼びます。 人類が二足歩行を選択し

    • 思想史の大きな流れから学ぶ〜『自由とセキュリティ』

      ◆杉田敦著『自由とセキュリティ』 出版社:集英社 発売時期:2024年5月 新型コロナウイルスによるパンデミックでは、世界各国で感染症対策として種々の行動制限が行われました。それは現代社会の普遍的価値となった個人の自由と衝突する場面を増やすことになりました。もっとも日本では公衆衛生の観点から個人の自由がある程度制限されるのはやむを得ないという認識が広く共有されていたように感じられます。セキュリティを重視し個人の自由を制限する方向に一定の理解が集まったのです。 政治学者の杉

      • 安心を求めてはいけない!?〜『嘘の真理』

        ◆ジャン=リュック・ナンシー著『嘘の真理』(柿並良佑訳) 出版社:講談社 発売時期:2024年5月 「なぜ嘘をついてはいけないの?」と子どもに聞かれたら何と答えたらいいでしょうか。そもそも嘘はすべていけないものだと言い切れるでしょうか。そういえば日本では「嘘も方便」という格言がありますね。 フランスの哲学者ジャン=リュック・ナンシーが「嘘」について哲学する。哲学といっても本書は子どもを対象にした講演と質疑応答から構成されているので、字面的には難しいところはまったくありませ

        • 惨状の背景を理解するために〜『なるほどそうだったのか! ハマスとガザ戦争』

          ◆高橋和夫著『なるほどそうだったのか! ハマスとガザ戦争』 出版社:幻冬舎 発売時期:2024年4月 独特の語り口で人気を集める研究者が錯綜した中東情勢をわかりやすく解説した本です。 なぜ、産業のないガザ地区で、ハマスが生き延びてこられたのか? なぜ、タイ人の人質が多く取られたのか? ハマスはどれくらい民衆の支持を得ているのか? ……一見素朴な疑問にも答えるべく、簡にして要を得た説明で読者を引っ張っていく。例によってパレスチナの問題を宗教的な側面にのみスポットをあてて考

        人類社会の平和を考えるための鍵言葉!?〜『共感革命』

        マガジン

        • 本読みの記録(2023)
          41本
        • 本読みの記録(2024)
          21本
        • エセー
          5本
        • そして映画はつづく
          78本
        • フォト・アルバム『非決定的瞬間』(2023-)
          6本
        • 本読みの記録(2021-2022)
          8本

        記事

          善意を空回りさせる前に読む本!?〜『利他・ケア・傷の倫理学』

          ◆近内悠太著『利他・ケア・傷の倫理学 「私」を生き直すための哲学』 出版社:晶文社 発売時期:2024年3月 進化生物学や進化心理学の研究では、人類にとって最も適した環境は数百万年前〜数万年前までの環境といわれているそうです。ヒトは、生存の危機に満ちたサバンナで生き残っていけるような心をその頃までに形成し、今日に至ったというのです。たとえば生き延びるのに有利な嗜好──糖質と塩分と脂質に対する強い嗜好──は当時の環境に適していました。しかし今はそのような嗜好は成人病の原因とな

          善意を空回りさせる前に読む本!?〜『利他・ケア・傷の倫理学』

          生の歓びをカラフルにうたう〜『生きてるってどういうこと?』

          ◆谷川俊太郎、宮内ヨシオ著『生きてるってどういうこと?』 出版社:光文社 発売時期:2024年4月 谷川俊太郎と宮内ヨシオのコラボレーションによる絵本。谷川のこれまでの詩作品のなかから「生きる」ことについてうたったものを抜粋し、それに透明水彩絵の具を使用した宮内の絵を組み合わせるという構成です。 宮内の絵は全頁に動物が描かれていて、生き物たちの生の歓びが画面いっぱいに表現されていて愉しい。谷川の前向きな詩篇と宮内のカラフルな絵はよくフィットしています。 また絵本の末尾に

          生の歓びをカラフルにうたう〜『生きてるってどういうこと?』

          「コロンブス」炎上について私が感じている二、三の疑問

          炎上してしまったMrs.GREEN APPLEの新曲「コロンブス」の件。 アーティスト以上に、スポンサーや広告企業に批判を向けている意見をいくつか見たので、以下、その点を中心に私が感じている疑問を述べます。 「コロンブス」に関連するコンテンツとして、 ①楽曲そのもの ②ミュージックビデオ(MV) ③コカ・コーラが自社広告として使用する予定だったコンテンツ ……があります。炎上したのは「②MV」で、私も批判を受けるのは当然の内容だと思います。ただ、アーティストを一連のビジ

          「コロンブス」炎上について私が感じている二、三の疑問

          令和日本で生き抜いていくために〜『死なないノウハウ』

          ◆雨宮処凛著『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』 出版社:光文社 発売時期:2024年2月 貧困問題に関する数々の著作をものし、困窮者支援の現場に身を置いてきた雨宮処凛が「死なないノウハウ」を伝授してくれる。コンセプトは明快です。六つの章に分けて、それぞれの分野に詳しい専門家のアドバイスをもとに、様々なケースにおける官民のサービスを紹介してくれています。「働けなくなったら」「お金がなくなったら」「大病をしてしまったら」「「親の介護が必要になったら」「家族や

          令和日本で生き抜いていくために〜『死なないノウハウ』

          小説という不謹慎!?〜『カーテンコール』

          ◆筒井康隆著『カーテンコール』 出版社:新潮社 発売時期:2023年10月 筒井康隆「最後の作品集」という触れ込みの短編集ですが、本当に最後になるかどうかは例によってわかりません。本書を読んでこれからもこの作家の作品を読み続けたいと思ったのは私だけではないでしょう。 筒井の文学的技巧と機知がちりばめられた25の掌編。SF。恐怖。ドタバタ。夢幻。言葉遊び。人情噺……。それぞれに趣は異なっていますが、どれもこれも筒井らしいといえば筒井らしい趣向の小品です。 他界した息子と夢

          小説という不謹慎!?〜『カーテンコール』

          日本の未来を担う人たちを支援する!?〜『だからあれほど言ったのに』

          ◆内田樹著『だからあれほど言ったのに』 出版社:マガジンハウス 発売時期:2024年3月 相変わらずマスコミからは引っ張りだこの内田樹ですが、本書は失礼ながらマンネリズムの印象を拭えません。 世の中の問題はすべて程度問題。暴力をゼロにすることはできないが減らすことはできる。愛することより傷つけないこと。……個々の見解にはとりたてて異論はないにしても、どれもこれも既刊書で論じてきた持説を繰り返したもので、その意味では本書には新しい発見も知的刺激も感じられませんでした。その程度

          日本の未来を担う人たちを支援する!?〜『だからあれほど言ったのに』

          驚きと不思議に開かれた感受性〜『センス・オブ・ワンダー』

          ◆レイチェル・カーソン著『センス・オブ・ワンダー』(森田真生訳) 出版社:筑摩書房 発売時期:2024年3月 レイチェル・カーソンは公害問題を告発した『沈黙の春』で知られる海洋生物学者。『センス・オブ・ワンダー』は1956年に発表された後、著者がさらにふくらませたいと考えていたものの叶わず、未完のまま死後に単行本化されました。日本では長らく上遠恵子の和訳で親しまれてきましたが、この度、森田真生による新訳が出ました。 センス・オブ・ワンダー。ここでは「驚きと不思議に開かれた

          驚きと不思議に開かれた感受性〜『センス・オブ・ワンダー』

          チロル民話が生まれ変わって絵本になった〜『ドクロ』

          ◆ジョン・クラッセン著『ドクロ』(柴田元幸訳) 出版社:スイッチ・パブリッシング 発売時期:2024年4月発行 真夜中にどこからか逃げ出したオティラが森を抜けてたどり着いたのは一軒の大きな屋敷。そこで出会ったドクロとの交流。ドクロと踊る場面など一般的には不気味あるいは滑稽と感じられそうですが、同時にリリカルな味わいが醸し出されます。あれやこれやでオティラは屋敷に泊まることになるものの、夜になると、頭のないガイコツがやって来てドクロを追いかけまわすらしい……。 作者のジョン

          チロル民話が生まれ変わって絵本になった〜『ドクロ』

          音声の力、映像の力〜『関心領域』

          映画が音声を獲得してサイレントからトーキーに移り変わろうとしたとき、少なからぬ映画人がそのことに疑義を呈しました。チャールズ・チャップリンも小津安二郎も当初はトーキー映画に抵抗を示したことはよく知られています。 映画『関心領域』を観て、ふとそのような映画史の一コマを思い出しました。本作は紛れもなく音声の効果が遺憾なく発揮された作品だからです。一見平和な日常生活を営む家族。美しい庭園の壁を隔てた向こう側での出来事は、煙突から吐き出される煙などで表現されているほかには、もっぱら

          音声の力、映像の力〜『関心領域』

          戦後体制の歪みを直視する〜『ニッポンの正体』

          ◆白井聡著『ニッポンの正体 漂流する戦後史』 出版社:河出書房新社 発売時期:2024年5月(文庫) ニッポン人の書き手がニッポン人に向けてニッポンの正体をスバリと指摘する。しかし考えてみればそれはとくに不思議な振る舞いというわけではありません。個人レベルで考えても自分のことを最も知らないのは自分自身ということはよくあることです。 白井聡がジャーナリストの高瀬毅を聞き手として戦後日本を縦横無尽に語る。これまでの著作で述べてきたことを敷衍したような発言が多く、白井の愛読者に

          戦後体制の歪みを直視する〜『ニッポンの正体』

          恐竜に誘われた人生の大転換!?〜『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』

          ◆香山リカ著『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』 出版社:集英社 発売時期:2024年2月 精神科医・大学教授としてマスコミでも活躍してきた香山リカ。2022年春、北海道南部のむかわ町穂別にある「へき地診療所」で総合診療医として第二の人生を始めました。 「へき地医療っていいかもしれない」。そんな漠然とした思いが「もうやるしかない」との明確な決断にいたったのは50歳代半ばの時。地域医療の最前線で働く同級生に再会したのがきっかけでした。 し

          恐竜に誘われた人生の大転換!?〜『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』

          昔の考え方を学ぶのは人類学的観点で〜『哲学史入門Ⅰ 古代ギリシアからルネサンスまで』

          ◆千葉雅也、納富信留、山内志朗、伊藤博明著、斎藤哲也編『哲学史入門Ⅰ 古代ギリシアからルネサンスまで』 出版社:NHK出版 発売時期:2024年4月 全三巻で西洋哲学史を概観するシリーズの一冊目。「聞き書き」形式を採っているのが入門書としては新しい手法といえましょう。斎藤哲也は主に人文思想系の本を手がけてきたライターです。本書では近代以降の哲学を理解するうえでも必須の古代ギリシアからルネサンスまでを論じています。 巻頭で哲学史を学ぶことの意義について語っているのは千葉雅也

          昔の考え方を学ぶのは人類学的観点で〜『哲学史入門Ⅰ 古代ギリシアからルネサンスまで』