見出し画像

人類社会の平和を考えるための鍵言葉!?〜『共感革命』

◆山極壽一著『共感革命 社交する人類の進化と未来』
出版社:河出書房新社
発売時期:2023年10月

共感力。これが本書のキーワード。人類の歴史において「認知革命」の前に起きた「共感革命」こそがその後の人類史に大きな影響を与えたというのが本書の基本認識です。

共感革命とは何でしょうか。
人類は言葉の発明以前に共感する力を身につけた。共感によって仲間とつながり、大きな集団を形成し、強大な力を手にした──。その一連の過程を本書では共感革命と呼びます。

人類が二足歩行を選択したのは、仲間の存在、気持ちを想像し、仲間のために離れた場所から食物を運ぶため。それは弱みを強みに変える人類特有の生存戦略の出発点でした。それ以来、私たちは長い間、共感によって他者とともに暮らしてきたのです。

しかし、そうやって進化したはずの人類は現在、大きな危機に瀕しています。端的にいえば共感力がマイナスに作用しているというのです。

 ……私は、長い狩猟採集生活を通じて人間の生存確率を高めるために必要だった共感力が、言葉の登場と定住化によって方向性を変えて力を増し、文明の発達とともに所有権を争う暴力となって噴出し始めたのではないかと考えている。(p169)

山極の認識に従えば、暴力が最大限に拡大する戦争は共感力の暴発としてとらえられます。そこで重要なのは、戦争の頻発をもって人間の本性を暴力的だと思い込むのは謬見だという点です。

戦争のように、集団のために命を投げ出して同種の敵と戦うような行動は「人間にとって極めて新しいもの」です。ゆえにヒトの戦闘性というようなものはその意味ではまだ変更可能な性質なのです。

 ……狩猟に用いる攻撃性(経済行為)と集団間の争いに用いる攻撃性(社会行為)は明らかに異なり、それが混同されるのは言葉が現れてからである。(p169)

余談ながら、このあたりの考察は、ホッブズの思想を参照していると思われます。ホッブズは人間の大きな特徴として言語の使用を挙げ、言語がさまざまに悪用された一つの帰結として争いがもたらされると考えました。

そこで山極が強調するのは、そもそも共感力は小規模な社会でしか適用しないものだという点です。その認識に立脚するならば、共感力を賢く使っていくためにどうしたらいいかもおのずと明らかになるでしょう。

 人間が持つ、動く自由、集まる自由、対話する自由という三つの自由をうまく使いながら小規模な集団をつなげていけばいい。個人が複数の集団を渡り歩きながら、その個人が媒介となって対立する集団間をつないでいく。集団間で人が動いていけば、文化をつなぐことができる。(p216)

これからは所有と定住を手放すことが重要だと山極はいいます。この二つを手放すためには、人がどんどん移動する傾向を強めることです。

むろん本書の問題提起は現代の複雑化した社会で実践していくには容易なことではないでしょう。が、人類社会の未来を構想するとき、傾聴に値する提言ではないかと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?