吉本 俊二

最近は読書感想文が多いです。ごくたまに時事問題、映画・アートなどの話題も取り上げます。…

吉本 俊二

最近は読書感想文が多いです。ごくたまに時事問題、映画・アートなどの話題も取り上げます。趣味で撮っている写真も時々アップします。

マガジン

  • 本読みの記録(2024)

    ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2024年刊行の書籍。

  • 本読みの記録(2023)

    ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2023年刊行の書籍。

  • エセー

    社会の出来事について、身辺の些事について、おりおりに思ったことを綴っていきます。

  • そして映画はつづく

    ZAQブログ『コラムニスト宣言』に発表した映画レビュー記事がベース。ZAQ-BLOGariのサービス停止に伴い、記事に加筆修正をほどこしたうえでこちらに移行しました。DVD化されている作品に関するテキストを収録しています。封切り作品に関するレビューも随時加えていきます。

  • フォト・アルバム『非決定的瞬間』(2023-)

    私が撮った写真あれこれ。なおマガジンのカバー画像は、2023年2~5月に大阪・国立国際美術館で開催された「特集展示:メル・ボックナー」の作品展示の一部を撮影したものです。

記事一覧

未来に光はあるのか!?〜『人類の終着点』

◆エマニュエル・トッド、マルクス・ガブリエル、フランシス・フクヤマほか著『人類の終着点 戦争、AI、ヒューマニティの未来』 出版社:朝日新聞出版 発売時期:2024年…

吉本 俊二
1時間前

老舗には日本の伝統と文化が宿っている!?〜『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』

◆福田和也著『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである コロナ禍「名店再訪」から「保守再起動」へ』 出版社:河出書房新社 発売時期:2023年4月 今年9月、惜しまれつつ…

吉本 俊二
1日前
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何のために並ぶのか!?〜『列』

◆中村文則著『列』 出版社:講談社 発売時期:2023年10月 長くいつまでも動かない列に人々が並んでいる。先が見えず、最後尾も見えない。何のために並んでいるのかも分か…

吉本 俊二
3日前
1

休まぬことの愚かさ〜『休むヒント。』

◆群像編集部編『休むヒント。』 出版社:講談社 発売時期:2024年4月 私のような怠け者からすると、何とも不思議な書名です。休むのになんでヒントがいるのでしょう。現…

吉本 俊二
5日前
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新たな時代の権力者に対抗せよ!〜『大転生時代』

◆島田雅彦著『大転生時代』 出版社:文藝春秋 発売時期:2024年8月 SFやライトノベル界隈では「異世界転生」はおなじみのテーマらしい。あいにく私はその方面には疎い…

吉本 俊二
5日前

いくつものハードルを可視化する〜『なぜ日本は原発を止められないのか?』

◆青木美希著『なぜ日本は原発を止められないのか?』 出版社:文藝春秋 発売時期:2023年11月 なぜ日本は原発を止められないのか? この問いに答えようとした書物はもち…

吉本 俊二
7日前

横に育て、縦に育てる〜『哲学の問い』

◆青山拓央著『哲学の問い』 出版社:筑摩書房 発売時期:2024年8月 哲学とは問いを育てるもの。これが本書の核心となる基本認識です。その育て方には「横に育てる」「縦…

吉本 俊二
10日前
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破壊と創造の日々を振り返る〜『イーロン・ショック』

◆笹本裕著『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』 出版社:文藝春秋 発売時期:2024年8月 著者はイーロン・マスクによってTwitter J…

吉本 俊二
2週間前

ひとりひとりのささやきは無力ではない〜『彼女たちの戦争』

◆小林エリカ著『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』 出版社:筑摩書房 発売時期:2024年2月 様々な分野で活動した女性たちの〈戦い〉の軌跡を列伝の形で素描した本…

吉本 俊二
2週間前

風景画がもたらした美しい景色への感動〜『名画の力』

◆宮下規久朗著『名画の力』 出版社:光文社 発売時期:2024年7月 美術史家によるエッセイ集で、産経新聞に連載しているエッセイを中心にまとめたものです。同紙連載から…

吉本 俊二
3週間前
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人生のやめどきは別のもののはじめどき!?〜『最期はひとり』

◆上野千鶴子、樋口恵子著『最期はひとり 80歳からの人生のやめどき』 出版社:マガジンハウス 発売時期:2023年7月 NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長の…

吉本 俊二
3週間前

悪政に利用されないための議論〜『スポーツウォッシング』

◆西村章著『スポーツウォッシング なぜ〈勇気と感動〉は利用されるのか』 出版社:集英社 発売時期:2023年11月 スポーツウォッシング。「為政者などに都合の悪い社会の…

吉本 俊二
1か月前
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私たち自身の問題として考える〜『中学生から知りたいパレスチナのこと』

◆岡真理、小山哲、藤原辰史著『中学生から知りたいパレスチナのこと』 出版社:ミシマ社 発売時期:2024年7月 パレスチナの問題は素人にはわかりにくい。わからないので…

吉本 俊二
1か月前
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いつまでも迷子であり続けるために〜『迷子手帳』

◆穂村弘著『迷子手帳』 出版社:講談社 発売時期:2024年5月 「いつまでも迷子であり続ける人のための手帳」という触れ込みのエッセイ集。不本意ながら迷子になっている…

吉本 俊二
1か月前
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経済・政治・教育の三分野を考える〜『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』

◆西田亮介、安田洋祐著『経済学✕社会学で社会課題を解決する 日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』 出版社:日本実業出版社 発売時期:2024年6月 日本の未来を考…

吉本 俊二
1か月前

多彩な宮内ワールドを楽しむ〜『国歌を作った男』

◆宮内悠介著『国歌を作った男』 出版社:講談社 発売時期:2024年2月 宮内悠介の短編集。13篇が収録されていますが、SF、ミステリ、名作のパロディ、純文学的作品と…

吉本 俊二
1か月前

未来に光はあるのか!?〜『人類の終着点』

◆エマニュエル・トッド、マルクス・ガブリエル、フランシス・フクヤマほか著『人類の終着点 戦争、AI、ヒューマニティの未来』 出版社:朝日新聞出版 発売時期:2024年2月 朝日地球会議での議論を書籍化したものです。エマニュエル・トッド、フランシス・フクヤマ、マルクス・ガブリエル、スティーブ・ローのインタビュー、メレディス・ウィテカー+安宅和人+手塚眞の鼎談、岩間陽子+中島隆博の対談で構成されています。 国際安全保障とAIが本書の二大テーマ。 トッドの議論はいかにも「親ロ

老舗には日本の伝統と文化が宿っている!?〜『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』

◆福田和也著『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである コロナ禍「名店再訪」から「保守再起動」へ』 出版社:河出書房新社 発売時期:2023年4月 今年9月、惜しまれつつ他界した文芸批評家の最晩年のエッセイ。サンデー毎日に掲載された文章を収めています。 コロナ禍の下ではフィジカルディスタンスが叫ばれ、そのあおりでとくに飲食店の経営が悪化しました。これは由々しき事態です。飲食店は料理や酒を出して利益を得ているだけの存在ではないというのが福田和也の持説です。 そこで福田は自身が

何のために並ぶのか!?〜『列』

◆中村文則著『列』 出版社:講談社 発売時期:2023年10月 長くいつまでも動かない列に人々が並んでいる。先が見えず、最後尾も見えない。何のために並んでいるのかも分からない。男もまたその列にいた──。 カフカばりの展開で緊張感たっぷりに読み進んでいく仕儀となるのですが、第二部では雰囲気はガラリと変わり、男の素性が明かされ、猿の研究者としての日々が描かれていきます。それを挟んで、第三部では再び列の描写に戻ります。 自分よりも前に並んでいる者が一人でも列から離れるだけで、す

休まぬことの愚かさ〜『休むヒント。』

◆群像編集部編『休むヒント。』 出版社:講談社 発売時期:2024年4月 私のような怠け者からすると、何とも不思議な書名です。休むのになんでヒントがいるのでしょう。現代ニッポンでは休むことがそれほどに困難になっているのでしょうか。 というわけで、私が本書を手に取ったのは、「休むヒント」をもらおうなどという切実な必要からではなく、「休むヒント」というお題で各界の論客たちがどのような文章芸を見せてくれるかという関心からにほかなりません。 よく知らない書き手が多く居並ぶなか、

新たな時代の権力者に対抗せよ!〜『大転生時代』

◆島田雅彦著『大転生時代』 出版社:文藝春秋 発売時期:2024年8月 SFやライトノベル界隈では「異世界転生」はおなじみのテーマらしい。あいにく私はその方面には疎い。文学全般に詳しい読者ならば、「異世界転生」が純文学の土俵で料理された場合の妙味はいかにという関心から読むことになるのでしょうが、残念ながら私にはそのような問題意識から出発するほどの素養は持ち合わせていません。 島田雅彦自身のセールストークによれば、異世界転生モノに他者との葛藤という要素を導入することで、従来

いくつものハードルを可視化する〜『なぜ日本は原発を止められないのか?』

◆青木美希著『なぜ日本は原発を止められないのか?』 出版社:文藝春秋 発売時期:2023年11月 なぜ日本は原発を止められないのか? この問いに答えようとした書物はもちろんこれまでも少なからず書かれてきました。本書が何か目新しい事実を発掘したというわけでもないと思いますが、本書に価値があるとすれば、歴をさかのぼって関係者の生の声を幅広くひろいあげ、政官業報から成る原子力ムラのありさまをわかりやすく示した点にあるでしょうか。 福島原発事故の被災者や東電の社員のほか、鈴木達治

横に育て、縦に育てる〜『哲学の問い』

◆青山拓央著『哲学の問い』 出版社:筑摩書房 発売時期:2024年8月 哲学とは問いを育てるもの。これが本書の核心となる基本認識です。その育て方には「横に育てる」「縦に育てる」の二種類があるといいます。本書は前半は〈対話〉編、後半は〈論述〉編になっていますが、いわば「横に育てる」を対話形式で、「縦に育てる」を論述形式で実践しているわけです。 本書で取り上げる問いはバラエティに富んでいます。 「自由のために戦わない自由は、自由の行使じゃなくて身勝手なんだろうか」 「犯罪者

破壊と創造の日々を振り返る〜『イーロン・ショック』

◆笹本裕著『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』 出版社:文藝春秋 発売時期:2024年8月 著者はイーロン・マスクによってTwitter Japan社長の座を追われた人物。イーロンが乗り込んできて退職するまでを綴っています。騒動の渦中にいた当事者の手記ですから、当然、読み物としての面白さを期待したのですが、具体的なファクトの記述は断片的で、おまけに主観的な寸評が入り混じっているため、イーロンの人物像が明瞭に立ち上がってきません。

ひとりひとりのささやきは無力ではない〜『彼女たちの戦争』

◆小林エリカ著『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』 出版社:筑摩書房 発売時期:2024年2月 様々な分野で活動した女性たちの〈戦い〉の軌跡を列伝の形で素描した本です。登場人物はまことに多彩。アナキストの伊藤野枝。DNAの二重らせん構造のX線写真撮影に成功したロザリンド・フランクリン。パリで物理学を研究した湯浅年子。芸姑から女優になった貞奴。彫刻家のカミーユ・クローデール……。 彼女たちにはそれぞれにそれぞれの「戦い」がありました。その戦いのあらましが簡潔に記されてい

風景画がもたらした美しい景色への感動〜『名画の力』

◆宮下規久朗著『名画の力』 出版社:光文社 発売時期:2024年7月 美術史家によるエッセイ集で、産経新聞に連載しているエッセイを中心にまとめたものです。同紙連載からの書籍化としては五冊目になるらしい。 基本的には著者自身が観た展覧会のレビューが軸になっていますが、テーマやコンセプトごとに編集に工夫を凝らしているので、単調な感じはしません。古代エジプトの「死者の書」から現代アートまで、文字どおり世界の美術史をざっくりとカバーした内容です。 とりわけ印象深かったのは〈知ら

人生のやめどきは別のもののはじめどき!?〜『最期はひとり』

◆上野千鶴子、樋口恵子著『最期はひとり 80歳からの人生のやめどき』 出版社:マガジンハウス 発売時期:2023年7月 NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長の樋口恵子と社会学者・上野千鶴子の二人が様々なやめどきを語り合いました。家族のやめどき。人間関係のやめどき。仕事のやめどき。自立のやめどき。人生のやめどき。 本書は2020年に刊行された単行本『人生のやめどき』の増補版。新たに行われた対談が一篇追加されています。 例によって年長者にも遠慮のない上野の姿勢が対

悪政に利用されないための議論〜『スポーツウォッシング』

◆西村章著『スポーツウォッシング なぜ〈勇気と感動〉は利用されるのか』 出版社:集英社 発売時期:2023年11月 スポーツウォッシング。「為政者などに都合の悪い社会の歪みや矛盾を、スポーツを使うことで人々の気をそらせて覆い隠す行為」を指します。 なるほど2021年の東京五輪開催時には、そのような言葉こそ使われなかったものの、五輪の目眩まし的な性格を指摘する声は少なくありませんでした。国際的なスポーツイベントが悪政の隠蔽に利用されることは人々の実感としてもよく理解できるこ

私たち自身の問題として考える〜『中学生から知りたいパレスチナのこと』

◆岡真理、小山哲、藤原辰史著『中学生から知りたいパレスチナのこと』 出版社:ミシマ社 発売時期:2024年7月 パレスチナの問題は素人にはわかりにくい。わからないので関連のニュースからも遠ざかり、ますます他人事になってしまう。そうした悪循環は何もパレスチナ問題に限らないのですが、本書に展開される議論を読めばそのような悪循環を断ち切る一つの契機になりうるかもしれません。 アラブ、ポーランド、ドイツを専門とする三人の研究者が登場します。三者の視点によって「パレスチナ問題」がよ

いつまでも迷子であり続けるために〜『迷子手帳』

◆穂村弘著『迷子手帳』 出版社:講談社 発売時期:2024年5月 「いつまでも迷子であり続ける人のための手帳」という触れ込みのエッセイ集。不本意ながら迷子になっている人を勇気づけるような本ならふつうに存在するでしょうが、「迷子であり続ける人のため」の本というコンセプトは貴重かもしれません。 クリスマスに自分へのご褒美として銀座の高級時計店でチュードル・クロノタイムを買った日のこと。離婚した友人から聞かされた元妻の秘密。……様々な思い出がときに悔恨や苦い思いを伴って綴られて

経済・政治・教育の三分野を考える〜『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』

◆西田亮介、安田洋祐著『経済学✕社会学で社会課題を解決する 日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』 出版社:日本実業出版社 発売時期:2024年6月 日本の未来を考えるとき、今やあまり楽観的になれる材料は見当たりません。経済は長らく低空飛行が続いている。政治も腐敗や不正がいっこうにただされる気配がない。天然資源がないのでマンパワーでやっていくしかないのに、肝心の教育も冴えない──。バブルという過去の成功体験にすがったまま、気づけば半世紀近く。「日本、本当に大丈夫?」。そこ

多彩な宮内ワールドを楽しむ〜『国歌を作った男』

◆宮内悠介著『国歌を作った男』 出版社:講談社 発売時期:2024年2月 宮内悠介の短編集。13篇が収録されていますが、SF、ミステリ、名作のパロディ、純文学的作品とテイストはバラエティに富んでいます。 とりわけ「歴史改変SF」に宮内の才気がいかんなく発揮されているように思いました。 たとえば〈パニック──一九六五年のSNS〉は、実在した作家・開高健が戦時下のベトナムに従軍特派員として赴いた際に、一時「行方不明」と報道された事実をベースにした作品。世間から「自己責任」なる