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短編小説

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2023年8月の記事一覧

【約4,000字短編】無限大の君へ

【約4,000字短編】無限大の君へ

 君と僕は、一緒に星空を見上げる仲だった。

 小さい頃から、ずっと一緒だったんだ。夢見がちな君、現実主義者の僕。相対する性格の僕らだったけど、不思議と、側にいて不快なことは無かった。きっとバランスが取れていたんだろうね。

「あの星、なんて名前?」
「ああ、あれは――」

 なんでも知りたがる君に、僕は、なんでも教えた。星の名前、星座の名前、季節ごとに移り変わる夜空の仕組み。

 知っての通り、

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【期待の果て】

【期待の果て】

 いじめは、卒業したら終わるだろう。
 一学期は、夏休みが来たら終わる。
 途中からつまらなくなる長期休みは、新学期が始まれば、終わり。
 キツイ部活も、引退して終わりだし、就活も内定もらえたら終了。会社員は定年になるまで。

 ……ああ、終わるのを待ってばかりだ。まだ何も、始まってすらいないのに。

【時効】

【時効】

 自慢だが、昔から美形だとほめられた。幼い頃に死んだという母も、よほどの美人だったのだろう。

「実は、お前の母さん、生きてるんだ」

 大人になり、父から明かされた衝撃の事実。

「たぶん、顔はよく見てるぞ」

 そういえば最近、18年前に既に結婚していたことが発覚した、大女優がいたよな、俺に似た。

【誰が幽霊?】

【誰が幽霊?】

 友人と二人で心霊スポットへ。僕ら以外にも、人影がちらほらと見える。
「これじゃ、どれが幽霊か分かんねえな」
 などとしばらく語っていると、背後から声を掛けられた。
「あの。さっきから誰と話してるんですか?」
 誰って……と隣を見ても、友人の姿は無い。あれ、そもそも、友人なんて僕に居たっけか。

【忘れられない夜】

【忘れられない夜】

 飲んだ勢いで、同僚の彼と一夜を共にした。昨夜のことは忘れて。それだけ言い残し、先にホテルを出る。

 休日明け、その彼とはち合わせる。なんとなく気まずくなる私。「覚えてる?」
 なんて聞いてしまった。
「酔ってて覚えてない」
 と彼。約束を守ってくれたはずの彼に、どうしようもない感情が渦を巻く。

掛け違うふたり

掛け違うふたり

 いつからか、掛け違えていた。

 僕は、彼女が好きだ。こう言い切るのはアレだけど、彼女だって、僕のことを好きだ……と思う。だから尽くすし、たとえ離れていたって幸せを願うはずだ。家事だって、お互いに気をつかって、どちらかに負担がかかり過ぎないように上手くやっている。

 それなのに彼女は、彼女の表情は、ちっとも幸せそうでは無かった。

 洗濯物をたたんでも、食事を作っていても。どことなく、彼女の表

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【大輪の花】

【大輪の花】

 隣に彼女、夜空に花火。次で最後のしだれ柳。音に合わせて告白しよう。失敗してもごまかせるから。
 ひゅう、と昇ってく花火玉。開く寸前を見計らい、

「好きだ……あれ?」

 爆音が鳴らない。

「遅れて開くんだよ」

 と笑顔の彼女。

「ちゃんと成功するから」

 そして目を閉じ、爆音の中、僕らは長いキスをした。

【ヘアドネーション】

【ヘアドネーション】

 私は呪いの人形。人々は私の髪が伸びるというだけで不気味がり、たらい回しにした。どうせ今の持ち主もすぐに私を捨てるだろう。そう思っていたのに。

「ありがとう。あなたのお陰でみんな笑顔よ」

 かけられるのは感謝の言葉。なんでも、私の髪で作るウィッグで小児がんの子どもたちを助けているらしい。

【うり坊】

【うり坊】

 イノシシ狩りに来た。山を散策していると、イノシシの子――うり坊を見つけた。どうやら親を亡くしたらしい。
 情が沸き、一旦帰って妻に預け、エサ取りに再度外出。
 帰宅すると、妻が夕食を作ってくれていた。あまりの美味しさに感嘆を漏らす。
 ところでうり坊はどこ?
「どこって……今食べてるじゃない」

【パチンカスクズへの信用】

【パチンカスクズへの信用】

「ただいま」
「お帰り。浮かない顔ね」
「あ、ああ……」
「負けたんでしょ、パチンコ」
「な、なぜそれを!?」
「今知ったわ」
「くっ……すまん、もう行かないと約束してたのに」
「あなたを信用してなかった訳じゃないわ」
「え?」
「逆に信じてたわよ。あなたは必ず、もう一度パチンコを打ちに行くって」

【透きとおる肌】

【透きとおる肌】

 突然訪問してきた化粧品メーカーの男。彼に現在使っている化粧品について語ると、
「……失礼ですけど、まだそんなの使ってるんです?」
 なんて煽られた。
「これ、試してみてください。マジで透き通ります」
 渡された試供品を試し、驚く。
 鏡に映る私の肌は、血管や骨、筋肉が見える程透き通っていたのだ。

【冒険の始まりと終わり】

【冒険の始まりと終わり】

 異世界に転生した。チート能力を授かった俺は、さっそくその能力を試した。
 二本角の禍々しい老人姿の魔物は、俺の魔法で爆発四散。よし。ちゃんと無双できるだろうし、魔王を倒す旅へ出よう。
 まずは情報収集。魔王がどんな姿か聞いてみる。

「はい、二本角を生やした、禍々しい老人の姿をしております」

【国家規模マウント】

【国家規模マウント】

「タマヤー!」
「夏と言えば花火よね」
「花火と言えば、日本のアニメ映画を思い出しマース」
「あー、アレっしょ? 打ち上げ花火、下から見るか、横から見るか?」
「? 日本の花火、下から唾吐くか、上から見下すか、じゃないんデスカ?」
「やたらスケールの大きさでマウント取ってくるじゃん」

【アメリカンジョーク】

【アメリカンジョーク】

「ワァオ! 日本の花火キレイデース!」
「でしょ?」
「はるばる日本へ来たかいがありマース」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
「こういう時、夜空に向けて言うセリフがありマスネ?」
「たまやー、でしょ?」
「ワタシはこう習いまシタ」
「ん?」
「へッ、きたねぇ花火ダ」
「アメリカンジョークやめろ」