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2020年5月の記事一覧
真犯人は僕です(冒頭小説)
その探偵の推理は、奇妙な状況から始まる。
「ちょっと待ってくれよ。犯人は僕だ」
自分が犯人であると主張する男がひとり。彼の名は正(ただし)。
「嘘でしょ。あなたはいつも嘘ばかり」
母親が言う。
「そうだ。お前の言葉は信用ならない」
父親が言う。
「いや、本当に僕が犯人なんだ。な?唯」
唯(ゆい)。そう呼ばれた妹が、首を縦に振ることは無い。
「正兄ちゃんはやってない。私がやった」
彼女の
醒めの歯(冒頭だけの小説)
歯が生えて欲しい。
そう強く願った。
虫歯が多かったから。
「銀歯が目立って嫌だ」
外見は大事。特に、歯は大事だ。
日本人は歯が汚い。
だから差がつく。手入れしている者と、そうでない者との。
僕は大人だ。だからもう乳歯なんて生えていやしない。
今口の中にあるのは、ミュータンス菌にボロボロにされた永久歯たちと、銀色のお飾り。
「本物の歯が欲しい」
瞼を閉じて願う。そして祈る。
寝
事実は小説より奇なり
今村(いまむら)が探偵になるための専門学校の存在を知ったのは、刺激を求めて転職を考え始めたころだった。
中小零細企業で事務職として働いていた彼は、日々の退屈な仕事に嫌気がさしていた。
気まぐれでミステリ小説を読んだ際に、
「そういやあ探偵なんて職業、実際にあるのかなあ?」
と疑問に思ったことがきっかけである。もちろん探偵という職業は存在する。存在するのだけれども、今村自身としては探偵と名乗