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仕事屋

 この世界と時間軸を同じとするパラレルワールドでの話。
 どんな問題でも瞬く間に解決してしまう、かつてないほどに優秀な人間が現れた。
 彼にはその比類なき能力相応の大志があった。
「この世界にあるすべての問題を解決したい」
 それが彼の野望である。
 高校時代から学業の傍らで会社を経営していた彼は、大学在学中に更なる会社の規模拡大を果たす。
 彼がトップである以上、社内外問わずどんな問題も解決できてしまうので、徐々に他の企業の仕事は無くなっていった。
 仕事が無くなった企業は、彼の企業に吸収されていった。

※※※

 彼が大学を卒業し、いよいよ仕事一筋でがんばろう、と意気込んでいた頃のこと。彼は思わぬ問題に直面する。
「仕事が残り少ない、だって?」
 そう、あまりに彼が優秀であったため、すでに解決しなければならない問題そのものが残り少なかった。つまり、仕事が底を尽きそうだった。
 仕事が無ければ、働こうにも働けない。
「これからが私の本番だというのに」
 さすがの彼も頭を抱えた。
 が、数秒後にはその頭を上げていた。
 あまりに優秀な人間にとっては、「問題が無い」ことすら「問題にできる」。
「これは、期だな」
 彼は思わず高笑いをしそうになった。思わぬチャンスの到来に、胸を躍らせずにいられなかったのだ。
 アイデアを紙に書きだした彼は、すぐさま秘書に声をかけた。
「役員を呼んでくれ。新事業立ち上げの打ち合わせを始める」 

※※※

「仕事買取部門の成績は上々です」
 秘書からの報告を、納得の表情で彼は受ける。
 彼が新たに考案した事業とは、仕事買取という事業だった。市民から新しい問題を提供してもらい、提供してくれた市民にお金を払う。
 提供してもらう問題が難題であればあるほど、高額で買い取る。
 既存の解決法で対応できる問題に対しては他部門に依頼し、安価で仕事を請け負う。
「これでしばらくは仕事が回せる」
 彼の目論見は外れることなく進んだが、やがて仕事が底を尽くかもしれないという未来もイメージしていた。
「なんとかしなければならない日は来るだろうな」
 悲観的なイメージは、彼の頭の中に常に在り続けた。

※※※

「大変です、社長」
 仕事買取部門が上々の成績を上げていたさなか、思わぬ展開となる。
 なんと、とてつもない難題を持ってくる企業が現れたのだ。
 誰にとっても盲点と言えるような問題を見つけ出し、新たな仕事を発掘する。
「へえ、問題発掘企業「仕事屋」か」
 仕事屋のトップは、おそらく自分と同じように優秀な人間なのだろう。
 彼はそう確信していた。
「これは面白いな」
 彼は仕事屋にアポを取り、すぐさま先方の本社へ向かった。

※※※

 仕事屋部門では今日も「どんな問題を生み出すか?」が話し合われては、絶えず問題解決部門に仕事を回している。
 彼が仕事屋本社を訪問してから、数年が経っていた。
 彼の訪問の理由は、互いに手を組むこと。その交渉のためであった。
 話し合いの場が設定されたその日、その場で、契約は交わされた。
 現在では同じ会社となり、仕事屋部門が問題を見つけては、問題解決部門で解決法が生まれ、その後もその繰り返しであった。
 市民はその恩恵を享受し続け、問題なく問題があり続ける、完璧に不完全な未来へと、世界は加速していった。

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