ロールスロイス

22歳/就活中/小説  ジャンル問わず、書きたいものを書きたいときに

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超人

 前方に構える「異星人」との距離は、ざっと五メートルほどと言ったところか。幸い、奴の後方は行き止まり。仕留めるなら、ここしかない。  路地裏は狭いが、やはり戦いやすい。 「…最後に、何か言い残したことはあるか?」  俺の問いに、異星人は答えない。ただ、苦悶の表情(らしきもの)を浮かべ、月明かりに吠える。 「き…貴様は、何故、私たちを滅ぼそうとするのだ」 「それに、答えはいるのか? 地球は、お前たちのような外来種が住む場所ではないんだよ」  宇宙からやって来た知的外生命体——通

    • アンラッキーセブン 5話/最終話

      「…お前、何があったんだ」  昨日の弱々しい姿の宮原と、とても同一人物だとは思えなかった。一日で、ここまで人は変わるものなのか。  動揺している白山の元に、宮原が近付いてくる。宮原には、どこか近寄り難い荘厳なオーラさえあった。 「監督、俺、もう大丈夫です。昨日、あの後もう一度、愛莉と話し合いました。そこでお互い言いたいことを言い合って……その、復縁したんです。本気で愛莉のことを幸せにしたいって思ったら、めっちゃ力が湧いてきて。今は多分、全盛期以上のコンディションだっていう自信

      • アンラッキーセブン 4話

         白山が末村と別れて、教員用の駐車場に向かう頃には、全体下校時間から一時間ほど経っていた。  残っている車もまばらだったが、その中で見知った黒のワンボックスカーが一台。そのワンボックスカーは、白山の姿を認めると、わかりやすくハザードランプを焚く。あまりの眩しさに目を覆っていると、車の中から男が出てきた。 「白山さん、今日は随分と長く残ってらっしゃったんですね」 「……蓑田君」  練習が終わるとすぐに帰宅する蓑田が、この時間まで学校に残っているのは珍しかった。何で、まだ残ってる

        • アンラッキーセブン 3話

          「いい加減にしろよ。やる気がないなら帰れ!」  グラウンドに響き渡った岩倉の怒声に、沈黙が走る。  四日後の日曜日に選手権予選準々決勝が控えている中、決して穏やかとは言えない雰囲気が梁仙トップチームを覆っていた。昨日と同じく、ミニゲーム形式の練習が行われいる最中に、それは起きた。  岩倉と同じチームだった宮原が、味方である岩倉からボールを奪い、単身ドリブルで相手陣営に突っ込んだのだ。およそ考えられない行動に、誰もが呆然としたが、キレもスピードもない宮原のドリブルは相手にあっさ

          アンラッキーセブン 2話

           中学生の頃から、異次元と称されてきた宮原は、まさにときの選手だった。ボールを持てば、どこまでも止まらない。二人だろうが三人だろうが、はたまた五人がかりだろうが、どんな包囲網でも突破してみせるそのドリブルを、白山が初めて見たのは宮原が中学二年生のときだ。  ーー都心部からは遠く離れた田舎の中学校のサッカー部に、とんでもない怪物がいるらしい。何でも、玉城高校のトップチームから一人で四点を奪った、と。  同業者から聞いたその話は、ただの都市伝説程度だと思っていた。玉城高校は県内で

          アンラッキーセブン 2話

          アンラッキーセブン 1話

          【あらすじ】 全国屈指のサッカー強豪校・梁仙を率いる白山監督は、ある決断を迫られていた。白山が寵愛する不調のエース・宮原をスタメンで使うか否かの決断である。頑なに宮原を起用する白山は、コーチの蓑田を筆頭に多くの選手から不信感を抱かれていた。そんな折、宮原は彼女である愛莉に振られ、精神を病んでしまう。白山は宮原復活のために、「生徒の裏情報収集」が趣味の変人教師・末村にプライドを売って、愛莉の弱みを得る。その弱みを使って愛莉に宮原との復縁を迫ろうと画策するも…。  メンバー選考

          アンラッキーセブン 1話

          エンドロールは流させない

           もし、明日世界が滅ぶとしたら、今日、私はどうしたいのだろう。  高校の屋上、深海の如く深い青に満たされた空を見上げながら、考えてみる。別に、生に対して、強過ぎる執着心があるわけではない。もし、明日死んでしまうのだとしても、多分この世に未練はない。 あ、でも、「もし」ではないのか。  悠里ちゃんが予言する未来は、必ず的中するのだから。 「明日、世界が滅びるよ」  いつものように授業をサボって屋上にやって来ると、既にそこにいた悠里ちゃんは私の顔を見るなりそう言った。明日、雨が降

          エンドロールは流させない

          特急列車が過ぎ去るとき

           今日も、佐久間琳音はアングレカムの匂いを身にまといながら、僕の隣に腰を下ろした。いつもの駅のホームのベンチ、この並びは出会ってから今日まで結局一度も変わらなかった。 「よう、一ヶ月ぶりくらいか?」  僕はワイヤレスイヤホンを耳に装着し、スマホに視線を落とす。彼女の声が聞こえなくなるから、音楽は流さない。 「そうだね、受験が終わってからだから、多分それぐらい。佐久間さんは、今日は制服で来たんだね」  横目に佐久間さんを見ると、彼女には不似合いな真新しいブレザーの制服姿が映った

          特急列車が過ぎ去るとき

          野心が枯れた日に

           渋川さんは、イメージする「無職の大人」と違って、かなりお金を持っている人だった。塾からの帰り道、いつも決まって通る公園のブランコに、今日も寂しそうに座る渋川さんの姿があった。 「渋川さん」 「おお、坊主」  僕の返事に生気を取り戻したかのように、渋川さんは明るい笑顔を見せる。けれど、渋川さんの頬は日に日にやつれていっているようにも見えた。 「坊主、今日も腹減ってるだろ? ほら、食えよ。お前の好きな店のクロワッサンだ。勉強の後は、しっかりと糖分を取っておかないとな」  定期的

          野心が枯れた日に

          最果ての先へ

           毎年、12月31日の23時59分にやって来る無人バスのゆくさきは、『最果て』。  この町に古くから伝わるその都市伝説を信じている者など、今日日、小学生でもいないだろう。今年23歳を迎えた成人女性の私が、『最果てゆき』のバスに乗ると言ったら、きっと誰もが鼻で笑うに違いない。  でも、笑われてもよかった。そんな小さな羞恥心を耐え忍ぶだけで、もう一度大夢に会えるのなら。  今年も、後数分で終わる。家からそう遠くないこのくたびれたバス停には、私以外誰もいない。みんな、年越しの瞬間を

          最果ての先へ

          王の正体

           城外が騒がしい。落城するのも、いよいよだろう。夜明けまで持つか、と言ったところか。  だが、G帝国の国王・ガルシアは、決してその状況に悲観していなかった。寧ろ、潔く受け入れていた。  彼は人類史でも類を見ないほどの暴虐の限りを尽くしてきたのだ。多くの人間が最もらしい言葉に騙され、虐げられてきた。圧迫されていた国民が謀反を起こすのも当然の報いだった。  そして部下たちも次々に反旗を翻していく中、ガルシアの元に残っているのは、百にも満たない僅かな兵士と二十年来の付き合いになる忠

          汝、人間であるが故に

           中島に彼女ができたと城山が知ったのは、退院して一ヶ月を過ぎた頃だった。  彼女である望とは、マッチングアプリで出会ったらしい。 「…よくそんな得体の知れない人間と付き合えるな」  意気揚々と望について話す中島に、やはりどうしても城山は苦言を呈さずにはいられなかった。 「城山、男の嫉妬ほど見苦しいものはないぞ」 「嫉妬なわけあるか。心配してるんだよ」  現に、城山の心には、嫉妬の「し」の字もなかった。二十年間、この男には異性へ対する憧れはなかったのだから(同性愛者でもない。た

          汝、人間であるが故に