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[要旨]

事業環境の不確実性・複雑性が高まる状況では、ある特定の個人に頼るのではなく、チームに属する全員がリーダーとなって、チームの成果を最大化する方が、チームのパフォーマンスが高まると考えられています。そして、職場やチームに所属するメンバー全員が、チームの成果を高めるために必要なリーダーシップを発揮している、チームの状況を、シェアド・リーダーシップと言います。

[本文]

今回も、前回に引き続き、立教大学経営学部の中原淳教授の著書、「チームワーキング-ケースとデータで学ぶ『最強チーム』のつくり方」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、チームの成果を高めるためには、自己中心性バイアスを排除し、各メンバーがチームを俯瞰して全体像をつかむための視点を持つことが必要ということについて説明しました。これに続いて、中原教授は、チームメンバーば、「全員リーダー」の視点を持つことも重要ということについて説明しておられます。

「全員リーダーというコンセプトは、リーダーシップの最新理論として、近年、注目を集める、『シェアド・リーダーシップ』の考え方に由来しています。(中略)シェアド・リーダーシップの考え方によれば、リーダーとは、ある特定の人物を指すものではありません。カリスマ性があり、革新的なビジョンを掲げて組織を率いる、一人のリーダーのリーダーシップに頼るのではなく、『職場やチームに所属するメンバー全員が、チームの成果を高めるために必要なリーダーシップを発揮している、チームの状況』を指して、シェアド・リーダーシップと言います。

それでは、なぜ、いま、多くの組織やチームで、シェアド・リーダーシップが求められているのでしょうか?その背景には、事業環境の不確実性・複雑性の増大が挙げられます。いくら有能なリーダーといえども、一人の個人で対処することには限界があり、日々刻々と変化する事業・組織の課題に対処することは不可能と言えるでしょう。むしろ、そうした事業環境の不確実性・複雑性が高まる状況では、ある特定の個人に頼るのではなく、チームに属する全員がリーダーとなって、チームの成果を最大化する方が、チームのパフォーマンスが高まると考えられています」(72ページ)

このシェアド・リーダーシップの効果についても、ほとんどの方は容易に理解されると思いますし、また、同意されると思います。そして、このことは、現在は、ますます、組織的な活動が重要になってきていることの証左であると思います。すなわち、ひとりの活動では、自分の得意分野でしか他者に対して優位に立つことができませんが、シェアド・リーダーシップを発揮している組織では、複数の分野で他者に対して優位に立つことができる可能性が高くなるわけです。まさに、「1+1+1>3」という組織の論理を示すものでしょう。

このシェアド・リーダーシップの事例で、私が思い起こす組織は、プロ野球のソフトバンクホークスです。2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で活躍した、甲斐拓也捕手や、2022年までソフトバンクホークスで活躍し、2023年からニューヨークメッツに移籍した千賀滉大投手は、育成選手出身でしたが、ソフトバンクホークスの組織的な育成力により、日本球界を代表する選手にまで成長しました。これについては、野球データアナリストの岡田友輔さんが、日本経済新聞に寄稿した記事で、次のように述べておられます。

「『チーム強化』とは大枚をはたいての補強ばかりではない。充実したファーム施設、次から次へと150キロ投手を生み出す育成ノウハウも必要だ。多彩な人材の獲得と厳しい生存競争を実現する3軍からは千賀滉大、甲斐拓也ら多くの主力が巣立った。ドラフトのほか、外国人、フリーエージェント、トレードと選手獲得でもすべてのチャネルをフル活用している。IT企業の強みを生かしたきめ細かいデータ収集と分析も大きな武器だ。様々な要素が組み合わさり、組織としての総合力を高めている」

とはいえ、中小企業では、シェアド・リーダーシップを発揮できる組織をつくることは、一朝一夕には難しいでしょう。ただ、組織的な活動ができなければ、事業活動の競争力を高めることはできないということを念頭に、経営者の方は組織づくりに注力していくことは避けることはできないと、私は考えています。

2023/5/6 No.2334

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