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[要旨]

人材開発は個人の能力を高めることである一方で、組織開発は仕組みとしての組織の能力を高めることですが、両者はバランスよく改善していく必要があります。また、組織の能力を高めていくことは、経営者の役割から切り離すことができない大切な役割であり、経営者の方が率先して取り組まなければならないものでもあります。


[本文]

先日、ある経営者の方から、人材開発と組織開発の違いについて質問がありましたので、その回答について、ここでシェアしたいと思います。まず、人材開発と組織開発の定義について探したのですが、明確なものは見つかりませんでした。(組織開発については、米国の心理学者のエドガー・シャインが、彼の著書の中で組織開発を定義しており、その定義が誤っているわけではないものの、難解であることから、ここで言及することは割愛します)

そこで、私が考える人材開発と組織開発について述べると、あたりまえすぎますが、人材開発とは個人の能力を高めること、組織開発は組織の能力を高めることです。ここでややこしくなるのは、組織は複数の個人の集まりなので、ひとりの個人の能力を高めることと、複数の個人の能力を高めることの違いは何なのかということです。そして、これを理解することで、組織の特徴も理解できるようになると、考えています。

個人の能力を高める人材開発は、例えば、資格を得たり、研修を受けたり、職場での経験を積むということを通して、個人の能力を高めるということは、すぐに理解できると思います。一方で、組織の能力を高めることは、組織に属する個人の能力を高めることではないということは、直感的に理解できると思います。

では、組織の能力を高めるとはどういうことかというと、「仕組み」を改善するということです。ただ、この「仕組み」とは、やや抽象的で理解しにくい面もあるのですが、例えば、組織風土、組織文化というものです。この他に、会社でいえば、人事評価制度を整備する、キャリアパスを明確にする、経営理念を明確にすることで従業員や顧客との関係を強化する、ISO9000シリーズの認証を取得することで経営品質を高めるといったことが挙げられます。

このように、組織開発とは、「仕組み」の改善であり、組織には「仕組み」の一面があるということが理解できると思います。ちなみに、組織研究の第一人者のバーナードが、組織の3要素として、貢献意欲、共通目的、コミュニケーションをあげていますが、ここでいう「組織」とは、仕組みとしての組織のことであり、その仕組みをうまく維持するには、前述の3要素が大切であるということを示しています。

話を戻して、よくある勘違いが、「会社の業績をよくしよう」と考えている経営者の方が、従業員に研修を受けさせるなど、人材育成に費用をかけることがありますが、単に、それだけでは、業績の改善にあまり効果が現れません。もちろん、人材育成も大切ですが、それとあわせて組織開発も必要です。

例えば、優秀な人材を中小企業がヘッドハンティングしてきても、そのような人が、会社になじむことができず、時間をおかずに退社してしまうというのは、人材と組織のバランスがとれていないことの現れのひとつです。できれば、それぞれを計画的に実践し、両者の平仄が合うようにすることが望ましいと言えます。

ただ、特に中小企業経営者の方にとって、組織開発は、実態として、あまり気乗りしないことが多いようです。なぜかといえば、組織開発は、経営者の方自身が、最も率先して実践しなければならないことだからです。そこで、組織開発よりも人材開発に頼ろうとしてしまうのかもしれません。

ただ、前述のように、両者はバランスよく実践しないと、効果は得られないということに注意が必要です。さらに加えて言えば、人材開発と組織開発のバランスの問題の前に、組織開発そのものが、経営者の方から切り離すことができない役割であり、組織開発に目を向けないことは、経営者の役割を果たしていないことでもあると、私は考えています。

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