サーキュラーエコノミーの必要性とその限界性

世界を代表するサーキュラーシティ(循環型都市)として名高いアムステルダムを例に、その限界性と本質的な解決策について考えたいと思います。

(オランダのアムステルダム市は、自治体として世界で初めてサーキュラーエコノミーへの移行に向けた詳細な調査を実施し、「遅くとも2050年までに100%サーキュラーエコノミーを実現する」という目標を掲げています。)

■そもそも100%リサイクルの不可能性を認識すること

 熱力学の世界ではエントロピーという概念があり、一般的に無限にリサイクルし続けるのは不可能だと言われています。また、リサイクルをし続けようとすればそのプロセスに多くのエネルギーを投入する必要があり、物質を永遠に循環させ続けるのは技術的に考えて現実的ではありません。
(※必要性の否定ではありません。むしろ必要不可欠です。)

■アップサイクルが抱える概念的ジレンマ

 アップサイクル(廃棄物を資源に変えることができるという考え方)は、“Normalizing Waste”(廃棄の常態化)にも繋がってしまう。
 持続可能性を考える上では、廃棄の上手な活用方法より、廃棄そのものを減らすことこそが根本的な解決策となる。アップサイクルは対処療法としては重要だが、改善策の一つに過ぎないということを認識しなければならない。

■持続可能な成長と脱成長(Sustainable Growth vs De Growth)

 SDGsが語られるようになり、持続可能な成長をどのように実現するかという議論が行われるようになっている。それは現代社会の持続不可能性に向き合うきっかけとして意味はあるかもしれないが、より本質的な議論から目を背けさせる理由になっていると考えている。
 『Sustainable Growth(持続可能な成長)』や『サーキュラーエコノミー』が話題となるアムステルダムにおいても、『De Growth(脱・成長)』ムーブメントを受け入れる議論が増えてきています。

 つまり、「永久に成長し続けられるという考え方そのものが持続可能ではなく『持続可能な成長』は幻想であり、持続可能である唯一の道は『脱成長』について議論することだ。」ということです。

 今語られるべきは、“We have an economy that needs to grow, whether or not it makes us thrive.(いまの経済は、それが私たちを繁栄させてくれるかに関わらず、成長する必要がある)”、”We need an economy that makes us thrive, whether or not it grows.”(私たちが必要な経済は、それが成長するか成長しないかに関わらず、私たちを繁栄させてくれる経済だ)-Kate Raworth-

■物質循環を特定する「The City Circle Scan」

 アムステルダム市は、物質循環を見える化する取り組みを2016年より行っている。それにより、打つべき施策の優先順位が明確になり、改善への動きを推進するきっかけとなっている。
 このような物質の視点から科学的に分析し、環境負荷を見える化することで、これまでの社会で「知らなかった」「考えないようにしてきた」正と負の影響に対して適切な評価・対策ができるようになっていくでしょう。

(詳細:マテリアルフロー分析(MFA)により、都市にどのような物質がどれだけ入ってきて(Input)、何がどれだけ出ていくのか(Output)を全て特定しようとする試み。Inputには電気や天然ガス、金属、水、バイオマスなどあらゆる物質が含まれ、Outputには廃水や廃棄物、CO2なども含まれる。)

■持続可能性を実現する『外部性の内部化』

 世界全体が持続可能な状態を実現する唯一の方法は、
「” internalize externalities(外部性を内部化する)”システムを持つこと」。
例として欧州の炭素価格があるが、現状では不十分すぎる。
本当に循環型の持続可能な経済を実現するのであれば、CO2に対してより高い価格付けが不可欠。しかし、経済活動が生む負の外部性を内部化するというのは決して簡単ではない。
 それは1つには、外部性を100%性格に把握し、価格に付加することは不可能に近いためだ。(それでもできる範囲で見える化され市場に反映される必要はある。)
 もう1つは、仮に価格に正当な外部性を付加できた場合、
既得権益や市民の生活圧迫による反発が避けられないためである。

 それでも外部性の内包(価格反映)は重要性である。

 なぜなら、現状では「持続可能性」の選択肢が、「持続不可能性」の選択肢に対して「経済的に競争力がない」状態であるためです。

 例えば、現状では再生エネルギーの方が、化石燃料エネルギーよりも高いため、再エネが選択されない。そして、全ての産業システムが安価な化石燃料や天然ガスをベースとしてしまい、再エネの拡大は進まない。
 しかし、もし炭素系エネルギーに対して外部性を付加できれば、価格は上がり、再生可能エネルギーのような持続可能な選択肢が市場において競争力を持つようになります。

 現状は負の外部性が価格に付加されていないために、持続可能ではないエネルギーやそれをもとに作られる製品が、本来支払うべき価格よりも不当に安い価格で提供されています。
 それこそが根本の問題であり、その安さは大量の消費にも繋がっています。

 外部性の内包(価格反映)は、大量消費を減らすという観点からも重要です。人々の大量消費は、商品が安く売られすぎているためです。もし外部性を価格付加することで商品価格が高ければ、消費者は毎週末ショッピングに行き、二か月ごとに新しい靴を買うようなことはしなくなるでしょう。

 消費者が、商品の”Real Price”(本当の価格)を支払うということが、行動変容においてとても重要です。
 ほとんどの人々は、『自分の生活の中でもっとも環境負荷が大きいのは日々消費しているモノ・サービス』だということを認識していません。
 まずは1人1人がそれを認識することが第一歩であり、それを気付くきっかけを社会が与えてあげられるかが重要です。

 サプライチェーンが拡大・複雑化し、生産と消費に距離が生まれ、外部性が見えにくくなってしまった現代社会において、現在の経済システムが内部化できていない 『外部性』を明確にし、それをシステムに反映させることができれば、消費者の行動も変わっていきます。
 私はこの「外部性を市場へ包摂すること」は、メディアが分断され、人々に正しく伝わるべき情報が伝わっていない。という状況においても、”消費”という人々にとって不可欠なプロセスを通して、気付きをもたらすことができる(ある種のメディアになり得る)という点で、非常に有効な方法だと考えています。

とはいえ、この市場への外部性の反映すらも、改善策に過ぎず、根本解決にはなり得ません。

今後は、現代の課題を解決するために、本当に議論すべき問題とその解決の方向性についても検討していきたいと思います。


(以下より参考・引用・加筆)
https://ideasforgood.jp/2020/02/14/sustainable-amsterdam/



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