見出し画像

ミラーパン

 君はカウンターにかけてパンを食べていた。硝子の向こう側にはもう一つのパン屋さんがあり、人々はトングを手に真剣な顔で好きなパンを選んでいた。迷わず次々とトレイにパンを載せていく人がいる。いつまで経っても選べずに、ただトングだけを持ったまま固まっている人がいる。迷いながら話しながらさまようトングを持った人々がいる。

 ベルが鳴る。新しいパンが焼き上がり商品棚の中を新しい形で満たした。また新しい人たちが、狭い店内に押し寄せてきた。焼きたてのパンのよい香りが、硝子を突き抜けて君のいるところまで届いた。
 思い詰めたような表情でパンを選ぶ人。あんなに真剣な目をしなくてもいいのに。パンを一つ選ぶくらいのことで……。

「あれは自分だ!」
 君は硝子の向こう側に過去の自分を見つけてしまう。そこに見えているのは過去のパン屋さんだった。違う。それじゃない。
君は過去の自分とは違う選択をみせた。
あれはもう一つの世界だ。

わかるよと
互いに通う
詩の上で
触れあう
粘土作りのキリン

折句「渡し舟」短歌


#掌編小説 #パン屋 #小説 #短歌

#エッセイ #姿勢 #多様性 #ショートショート

#時間旅行 #詩 #自由詩 #選択詩

#人間ドラマ #人間心理 #人間観察


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?