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#1-1 コルトハーヘンのリフレクションとは?【MAWARUリフレクション:山辺先生#1】

みなさんこんにちは。リフレクションメソッドラボラトリー事務局です。リフレクションメソッドラボラトリー(以下RML)では「MAWARUリフレクション」というプロジェクトを行っています。

MAWARUリフレクションは、「リフレクションによる個人の気づきが周囲に循環し、社会を変える」をテーマに、教育にリフレクションを取り入れる活動を2016年から続けているプロジェクトです。(プロジェクトHPがありますのでぜひご覧ください。

近年、学校現場でも様々なリフレクションの研究が行われるようになっていますが、現場での研究は往々にして、体験ベースになりがちな現状があります。しかし私たちは、リフレクションの良い実践をデザインするためには、「理論」と「実践」の往還がとても大切であると考えるようになりました。
そのため、研究者と実践者が共に集うコミュニティを作り、対話を通じて理論と実践を結び、リフレクションの概念や実践を問い直すのを目的に、全10回の「リフレクションを対話的に再構成する~研究者と実践者でリフレクションを紡ぎなおす~」イベントを開催します!

この記事では、2022年7月31日(日)の第1回イベントの様子をお伝えします。なお、本シリーズはPodcastでも配信しています。ラジオのように音声でも聴くことができます!

第1回のゲストは山辺恵理子先生!

第1回は、都留文科大学の山辺恵理子先生に、ゲスト講師としてお越しいただきました。
山辺先生は、2009年のフレット・コルトハーヘン先生との出会いをきっかけに、コルトハーヘン先生と一緒に研究にも取り組まれている、リフレクション研究の第一人者です。(山辺先生のHPはこちらです

イベント参加者は、事務局と合わせて計10名。その全員が、現在教育を中心とする現場でリフレクションを実践し、問題意識を持つ方々でした。このイベントでは、ディスカッションを深めるために参加者を10名としましたが、結果的に3倍以上の申し込みをいただきました!そのため、惜しくも抽選に漏れた方はディスカッションに参加しない聴講者として、イベントに参加していただきました。

事前課題として、参加者は山辺先生が執筆された「コルトハーヘンのリフレクションの方法論」(『リフレクション入門』、2019年、学文社)を読み、質問を提出した上でイベントに参加していただきます。当日は山辺先生から著書の解説、質問への回答とディスカッション、フリートークという流れで進みました。

「コルトハーヘンのリフレクションの方法論」、とても魅力的なタイトルですね!それでは、その中身はどうなっているのでしょうか。それでは、早速山辺先生のお話に移っていきましょう!

コルトハーヘンとは?

まず、先程から何回もでてきている「コルトハーヘン先生」について、一体何者ですか?ということを簡単に説明しましょう。

フレット・コルトハーヘン(1949-)は、オランダのユトレヒト大学名誉教授で、省察の理想的なプロセスを示すALACTモデル、人間の本質的、内的な資質に着目する「玉ねぎモデル」やコア・リフレクション等を提唱したことで知られる、世界的に著名なリフレクション研究者です。

リアリスティック・アプローチと5段階の手順

山辺先生によると、コルトハーヘンはもともと高校の数学の教師でした。その後、ユトレヒト大学で教員養成に携わるようになり、研究者として他の実践者の授業を研究する中で、「どういう先生がよい先生、子どもたちがいいなと思う先生なのか?」を分析する研究を始めたそうです。
そこで、コルトハーヘンが出会ったのが「リアリスティック・アプローチ」と呼ばれるものです。コルトハーヘンは、授業で教わる内容が、最後にちゃんと自分事として消化されるかどうかを意識した授業になっているかを研究し、何人かの良い先生の授業のステップをカテゴリー化して、次の5段階の手順を開発しました。

1. 【事前構造化】最初に何かしらの問いを提示することで、枠組みを提示する
2. 【経験】何かしらの活動をする、今までの経験を持ち寄る
3. 【構造化】今の経験からどのようなことに気づいたか、全てを書き出す
4. 【焦点化】ここが特に面白かった、ここは同じ内容だね、等にフォーカスする
5. 【小文字の理論】最後に講義をする

大まかに、このようなステップを踏んでいる先生たちの授業は、子どもたちからの評価が高く、学習が定着していたことを見出したのです。

ALACTモデルとリアリティ・ショック

このような実践的な研究を行った後、次にコルトハーヘンが気になったのは、教員養成課程で共に学んできた学生たちが、現場に入るとリアリティ・ショックを受けて、大学で学んだことは役に立たない、と捨ててしまうことでした。あるいは、実習生が実習中に困った時に、ALACTモデル(※下記参照)の第二諸相の振り返りは行うものの、第三局面の本質的な気づきを飛ばして、「どうしたら良いですか?」と他の人に聞くようになってしまう。自分の中で本質的だと思うところに気づくのが大切なのに、それを飛ばして他の人に答えを求めてしまう。それを何とかしたいと、徐々にリフレクションの研究にシフトしていきました。

図1.省察の理想的なプロセスを説明するALACTモデル
―コルトハーヘン(2001/2010)教師教育学」学文社 より引用―


氷山モデルと8つの問い

コルトハーヘンは、「自分で気づく」ことをただ待っているだけでなく、どうしたら少しでも促せるのかということを考え、氷山モデルというシンプルなモデルに行きつきます。
自分がした行動は、周りで見ている人がよく分かるのでフィードバックできる。思考に関しても、言葉にすれば伝わる。けれど、何を感じていたか、何を望んでいたのかは周囲の人には見えないので、自分でリフレクションして気づかなければならない。そこで、氷山モデル、そして後に開発する「8つの問い」によって、周囲がサポートできることと、できないことの線引きをしていきました。

図2.氷山モデル
―坂田哲人ほか(2019)「リフレクション入門」学文社 より引用―
表1.8つの問い

コルトハーヘンは、この氷山モデルでのFeeling(感じていること)とWanting(望んでいること)のサポートはできないので、自分でリフレクションをする時に、8つの問いのうち「3.私はどう感じたのか?」「4.私は何をしたかったのか?」「7.相手はどう感じたのか?」「8.相手は何をしたかったのか?」を自分で考えてください、と提示していきました。そうして、何回も一つ一つの場面でリフレクションを重ねていくと、徐々に「自分は焦った時に、こういうことを望みがち」だとか、むしろ「焦った時には思考が止まってしまい、何も考えなくなっている」だとか、あるいは子どもが何を感じているかに敏感過ぎて、子どもたちが何を考えているか、何を望んでいるかにあまり目が向かないタイプだとか、自分の思考のクセがわかってきます。そうすると、教育実習生や若手教員は、それを自分たち自身で直そうとしていく。ここが自分のダメなところだから、今度は子どもたちが何を望んでいるのか、よく注意してみていこう、というような工夫ができるようになってくると、初めてALACTモデルでの第三局面「本質的な諸相への気づき」を経て、第四局面「行為の選択肢の拡大(次の行動を考える)」に入れると考えました。そのため、コルトハーヘンはこの8つの問いを沢山使うようになります。これは、オランダやベルギー、ノルウェーなど、多くのヨーロッパの教員養成系大学で使われています。

コア・リフレクションと玉ねぎモデル

その後、最後にコルトハーヘンが気づいたのは「これだけだと、まだ若手の先生がつぶれてしまうケースがあり、それを救えていない。他にもまだ隠れている要素があるのではないか?」ということです。そして、コルトハーヘンは、現在リフレクション研究の中心になっている「コア・リフレクション」に行きつきます。
コア・リフレクションについて、玉ねぎモデル(下記参照)で説明します。

図3.玉ねぎモデル

これは、人を輪切りにした玉ねぎと想定しているモデルで、一番外側の環境はお皿のようなものだと考えるとわかりやすいと思います。玉ねぎとして頑張って生きているし、教師としても活動しているのだけれど、自分でコントロールできない外の環境からの圧力が常にかかってきます。例えば、日本だったら学習指導要領が改定されるとか、アクティブラーニングを進めてくださいとか、評価の仕方をこうしてくださいとか、保護者からの要望とか、色んなプレッシャーが環境からかかってくる。それに合わせて、私達は行動を変えていかなければならないのですが、行動を変えるためには、能力を新たに獲得したり、今まで持っていた能力のバリエーションを増やしたり、変えたりしていかなければなりません。例えば、講義形式よりもファシリテーターになってください、と言われたら、そこを入れ替えていかなければならないというようなことが起こります。そうすると、今まで自分だと思っていた玉ねぎが、どんどん外側から歪められて、押しつぶされていくような感じになってしまいます。それが、教師がつぶれてしまったり、早期退職してしまったりする要因なのではないかとコルトハーヘンは考えて、玉ねぎの内側からいかに元気づけるか、自分の信念を貫けるような先生になるためにはどうしたら良いのか、という研究を始めました。そして、玉ねぎの内側の4つの層(強み、使命、アイデンティティ、信念)と、外の2つの層(行動と能力)を分けて考えるようになります。
自分の強みとは何か。ものすごく秀でたものでなくても、誰でも持っているようなもので良い。例えば優しいとか、子ども思いだとか、丁寧だとか、素朴なことでいいのですが、自分の強みを沢山自覚できるようになったら、その強みを持っている自分の教師としての使命は何かを、強みを自覚している状態で自信を持って語れるようになる。そして、自分の教師としての使命を達成するために、自分はどんな役割を担うのかという、教師としてのアイデンティティを語れるようになる。そのアイデンティティ(役割)を全うできるためには、必要な能力のどれが自分には備わっていると思うかという信念を語っていきます。こうした、内側から4つの層を語っていくというプロセスを時々取り入れていくことで、外からの圧力につぶれないような先生を育つのではないか、と考えているようです。

このように、コルトハーヘンは実践的な授業研究から始まり、今は実習生指導や教員養成というより、むしろコーチング(本人談)のような研究をされている、とのことです。

まとめ

以上、駆け足でしたが、山辺先生にお話いただいたことをザクッとまとめてみました。教師教育という文脈で、世界的なリフレクションの研究者が、何を目的に、どのようにリフレクションの手法論を深めてきたのか、そのストーリーがわかるお話だったと思います。

山辺先生のお話のあとは、その内容を踏まえて、リフレクションを実践している参加とディスカッションを行いました。参加者とのディスカッションの様子は、また次の記事でアップしようと思いますので、次回の記事も楽しみにお待ちください。

【今後に更新予定の記事】
#1-1 コルトハーヘンのリフレクション(本記事)
#1-2 質疑応答とディスカッション(1)
#1-3 質疑応答とディスカッション(2)
#1-4 質疑応答とディスカッション(3)

【Podcastもどうぞ!】

MAWARUリフレクションメンバー
(執筆:生井、一部編集:中島)


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