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#1-2 リフレクション意欲が持ちにくい子にどうアプローチするか?等【MAWARUリフレクション:山辺先生#2】

みなさんこんにちは。リフレクションメソッドラボラトリー事務局です。リフレクションメソッドラボラトリー(以下RML)では「MAWARUリフレクション」というプロジェクトを行っています。

MAWARUリフレクションは、「リフレクションによる個人の気づきが周囲に循環し、社会を変える」をテーマに、教育にリフレクションを取り入れる活動を2016年から続けているプロジェクトです。(プロジェクトHPがありますのでぜひご覧ください。

この記事では、前回の記事に引き続き、山辺先生をお迎えした第一回イベントの、ディスカッションパートをご紹介します。

なお、前回の記事はこちらからご覧ください。

ディスカッションパート

それでは、早速ディスカッションパートに入っていきましょう。最初の質問は、「リフレクションへの促し」に関わるものでした。

以下、質問者をA、Bなどのアルファベットで、山辺先生を「山辺」と記載して会話形式でご紹介します。
※一部発言には、編集にてわかりやすいように追加修正しております

質問とディスカッション(1):リフレクションへの促し/小文字の理論

A. 教師として、生徒に対してリフレクションを促すことについて質問です。私は、様々な生徒に出会ってきた中で、自らに向き合うことに対して、意欲を持つのが難しい生徒にどう向き合えばよいか、ということを考えています。本質的な気づきにつながるリフレクションは、私たち自身が気づくことが大事だと受け取りましたが、そうすると、意欲を中々持てない生徒に対するリフレクションの「促し」の按配が難しいなと思いました。どのくらいの後押しまでなら大丈夫でしょうか。基本的には、その場その場で違うのだとは思いますが、効果的な声かけなどもあれば伺いたいです。

山辺:実は、コルトハーヘンは元高校教師ではあるのですが、子どものリフレクションについては何も書いていません。リフレクションというのは、基本的にはある程度大人になって、責任のある人がやるもの、と考えられています。
例えば、小学校の子どもたちが探究活動に取り組んだ後のリフレクションということに対して、どこまで参考になるのかというのは、個人的に気になっているところではあります。探究とは言っても、学校である以上やらなければならないから子どもたちはやっている、という側面もありますよね。本当に自分で進んでやっているわけではないのに、リフレクションまで深くしろと言われるのはなかなかきつく、その按配は非常に難しいと思っています。
ただ、個人的には大人扱いすることも大事ではないかと思っていて、例えば小学校から中学、高校と上がっていくと、一つのプロジェクトを終わらせた後にリフレクションをさせる、というようなことは必要かなと思います。ただ、毎授業とか、一単元終わるごとのリフレクションというより、子どもに対しては軽くていいのではないかと思っています。

B:僕はリフレクションというよりも、動機づけの分野の研究の方が合うのかなと思いました。学習者に対しての動機づけをどう促していくかをサポートするのなら、例えば、バリー・ジマーマンは自己調整学習(※1)を提唱していますし、動機づけの分野では、どういう風に子どもたちの動機づけを高めるか、ナッジ(※2)を含むような質問をしていくことも大事だし、その手法はそれなりに見えてきているように思っています。
※1 自己調整学習:学習者が自分自身の学習活動に能動的に関わり、自らの学習を調整するという学び方。
※2 ナッジ:行動科学の知見から、望ましい行動をとれるよう人を後押しするアプローチ。人が意思決定する際の環境をデザインすることで、自発的な行動変容を促す。

A:ありがとうございます。山辺先生もおっしゃった通り、学校教育制度は強制的に行かざるを得ないため、構造的には主体性、自ら何かをやることが自然と起こりづらい部分があると思っています。自ら気づくことがコアとなる、本質的な気づきに関しては、うまくいく子はすごくフィットするだろうし、うまくいかない場面で、先ほどのナッジも取り入れながら、私たち教員がどんな風にサポートするかを考えたいなと思いました。ありがとうございました。

山辺:補足として、8つの問いに関しては必ずしも学習場面でなくても、対人関係の場面なら使えます。グループ課題に取り組んでいる時に、グループ内でいざこざが起きたとか、子ども同士でぶつかったという時には、8つの質問を使ってわりと強制的にリフレクションしてもらうのもいいのかなと思っています。

8つの問い
詳細は#1-1をご覧ください。

A:その時は、生徒が一人で黙々と向き合った後に、第三者がリフレクションという形で話をした方がいいのか、それとも初めから1対1でやった方がいいのでしょうか。

山辺:8つの問いは、答え合わせができる場合は、した方が面白いんです。ぶつかっている子がいる場合は、別の部屋などでそれぞれ8つの問いを埋めてもらって、それを先生がいる前で、お互いに見せ合う。すると、お互い右側(相手の感じていること、相手の望んでいること)に書いていることが全然違って、やっぱり自分たちの考えが足りなかったという部分に気づけるので、面白いかなと思います。
かなり勇気がいりますけど、先生でも自分の授業が終わった後、生徒に8つの問いの左側(「自分」のところ)だけ埋めてもらって、先生は右側(「相手」のところ)も埋めて、それを「こういう感じだと思っていました」とプロジェクターで見せる。生徒たちに「全然違うよー」と言われる先生もいらっしゃるので、そういう答え合わせができるときはすごく面白いです。

A:ありがとうございます。答え合わせというのはすごくよく分かりました。

質問とディスカッション(2):思考の4象限と、小文字の理論について

C:二つ質問があります。一つ目は、思考の4象限(言語⇔非言語、意識⇔無意識)の無意識的かつ非言語的な部分の中に、自分自身で考えずに行動してしまうことの例がいくつか載っていましたが、それは個人の特性というよりも、人間の反射レベルのものもあるのかなと感じました。それらの行動に分類や階層性があるのかどうかについて、お聞きしたいです。
二つ目は、自分が探究活動を推進する時、最初にリフレクションカードを動機づけのために使っています。子どもが過去や未来を自分の中でつなげないまま、いきなり課題研究を始めてしまうと、何のためにやっているかわからず、先生から言われたからやる、成績が取りやすいものをやる、になってしまいがちです。そういう子が少しでもいなくなればと思って取り組んでいるのですが、そうすると、先生の側にも新しい理論や能力が必要になってきます。先生たちも全然わからずに(探究活動を)「しなさい」となっていることも多いので、もう少しフォローができたらいいと思っています。そうした時、小文字の理論(※3)を教員に効果的に広めるためには、どういうことが可能でしょうか? 
※3小文字の理論:学術的な理論を指す「大文字の理論」に対し、日常生活から形成された持論を「小文字の理論」として、両者の結合が必要とされる。

山辺:先ほどの内容と関連するので、2つ目から答えたいと思います。小文字の理論にするのは難しいんですよね。学習指導要領など(の縛り)もあって、普通の教科だと難しいと思うのですが、コルトハーヘン先生だと、研修のオチを何パターンか用意していて、先ほどの5段階の手順(※下図参考)を必ず取りながら、参加者や学習者がどういう意見を出していくか、どういう気づきを出してくるかに応じて、最後どの理論を出すかを決めるそうです。確かに、そもそもモチベーションが足らなかった子たちが多かった場合、むしろモチベーションの理論など、教科や本筋とは関係ない理論でもレパートリーの中に入れて、用意しておくというのも大事になるのかなと思いました。ただし、小文字の理論やリフレクションを重視して授業を進めると、体系が崩れ、単元通りに進めるのが難しくなることもあるので、柔軟にできる時だけにしないと厳しいかなと思います。

授業の5段階の手順

中島:その点で、山下さんは、リフレクションを重視して授業を進めることをされている気がしますが、どう工夫されているのでしょうか?

山下:僕は、探究学習にセントラルアイデア(※4)というのを置いています。そうして、子どもたちが理論と(自分たちの考えを)往還できるようにする。理論というか本質を置くことで、授業が崩れないようにしています。
※4 セントラルアイデア:中心的概念、普遍的概念で汎用的な見方や考え方を指す。探究学習における教科横断的な学びにおいて注目され、積極的に取り入れられている。

中島:セントラルアイデアを置くって、概念型学習という話ですね。

山下:はい、そうです。本質を置き、子どもたちは自分の体験と(理論)の差分をリフレクションすることで、そこに対して小文字の理論が生まれるのかなと思います。概念型学習だと一般化と言うのかな。そうすると、子どもたちの気づきが生まれるのかなと思っています。

山辺:先ほどの5段階の手順だと、セントラルアイデアは小文字の理論と事前構造化の両方に当てはまっている気がします。まず、こういう枠組みであると提示することで、そこからあまり外れすぎないような議論ができると思います。また、リフレクションをする時にも、事前構造化が効いていれば、どんなリフレクションが求められているのか、というのが子どもたちに伝わりますよね。最後に小文字の理論でもう一度確認すると定着するので、いいだろうなと思いました。

中島:では、1つ目の質問に戻っていただいて、思考の4象限についての質問はいかがでしょうか。

山辺:この質問は難しいなと思ったのですが、ゲシュタルトはアメーバ状というか、掴みどころのない、何かの固まりなんですよね。それを8つの問いとか、その元になっている氷山モデルを使って、少しでも自覚していこうとするのがコルトハーヘンのリフレクションのアプローチです。ゲシュタルトの中にレベルがあるというよりは、たまたまゲシュタルトの中で、ちょっと掴みどころのあるものが出てくる、くらいのものかなと思います。ただ、ご質問にもあった通り、本当に生物学的な反射のようなものもあるので、それをゲシュタルトと呼ぶかどうかは微妙なところだと思います。ただ、生物学的な反射も人によって何パターンかに分かれていて、例えば逃避しがちだとか、人によって差があります。コルトハーヘンは、そういう個人のちょっとした差を、ゲシュタルトの中に加えて解釈しているという風に思います。

中島:ゲシュタルトは、何かのブラックボックスのようなものなのかな?という感覚を受けます。心理学のアプローチでも、ざっくりですけど、見える所だけを扱っていく行動分析学とか、背後にある内面の構造から理解していこうという認知倫理学とかの違いがあると思いますが、ゲシュタルトの中身はどうなのかということが、質問者の考えられていたことかなと思いました。

まとめ

以上、今回は山辺先生のイベントパート2として、ディスカッション編(1)をお届けしました。

少々難しい話も含まれていましたが、リフレクションの促しには動機づけも重要そうであること、概念型学習を取り入れることでリフレクションが加速されそうなこと等が実践からの知見として見えたのかなと思います。

次回は引き続きディスカッション編(2)をお届けします。

【本イベントの記事(未更新含む)】
コルトハーヘンのリフレクション(スライド発表)
質疑応答とディスカッション(2)(公開後にリンクします)
質疑応答とディスカッション(3)(公開後にリンクします)

MAWARUリフレクションメンバー
(執筆:生井、一部編集:中島)


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