「絶対ダメなことなんてない、ここは台湾だから」
初めてこの言葉をはっきりと意識したのは、今から約1年前のこと。
今まで男性が好きだったのに、女性を好きになってしまった、台湾人の女友達の話を聞いたときだった。
台湾では、恋愛対象が男性から女性に変わったり、その逆で女性から男性に変わったりすることも珍しくない。
でも、人の話を聞くのと、自分の身に起こるのとは全く別の話。
かくいうその子も、自分の感情の動きに自分自身がついていけなくなり、どうしていいか分からなくなっていた。
そんなとき、友達に相談したところ、言われたのがこの一言。
「沒什麼不行的(ダメなことなんて一つもないんだよ)」
この言葉を聞いて、ふっと肩の荷が下りて、自分は女性を好きになってもいいんだ、と思えたのだそう。
そんな私も、台湾に来たばかりの頃は、文化の違いから、コミュニケーションや生活面で戸惑うことが多かった。
「家族のことだったり、プライベートなことは聞かない方がいいだろうな〜」
「大会近いのに、日本の実家帰りたいとは言いにくいな…」
「バスとか電車で電話したり、化粧したりするのはバツが悪いな…」
でも、こういうことを気にしてる、と台湾人の友達に伝えると、決まってこう言われるのだ。
「不要怕,這裡不是日本,在台灣沒什麼絕對不行的。(怖がらなくていいんだよ。ここは日本じゃないから。台湾で絶対ダメなことなんてない。)」
日本の価値観でがんじがらめになっていて、その上、あまりはっきりと口に出さずに空気で表す日本が怖い、と物心ついた頃からずっと感じていた私にとっては、当時この言葉を聞くたびに、ふっと肩の力が抜けて、台湾に来て本当に良かったと感じていたことを思い出す。
もちろん台湾にも、聞かない方がいいことや、やらない方がいいことはある。
でもそれは文化的なものや、周りの目が気になるからというものではなく、あくまで個々人の価値観に基づくもの。
ゆえに、個々の性格によって、表現の仕方や程度にこそ違いはあるけれど、嫌だということは言葉や態度で示すし、お店などでやってほしくないことがあれば、メニュー上の文言や貼り紙、インターネットなどで、店主がはっきりとその旨を示す。
もしも相手の気を損ねないか判断がつきにくいときは、先に直接聞いておけばいい。嫌ならば、きちんとそう伝えてくれるはずだ。
空気を読むことが日本と比べて少ない分、台湾では直接言葉を交わし、互いを理解し、譲り合うことで、コミュニケーションを取る。
「人それぞれ違う」ことが前提にあるから、人と考えや行動が違うことが、場の空気を悪くしたり、相手との関係をぎくしゃくさせたりすることもない。
きっと日本にも、「絶対にダメ」なことなんて、ほとんどないのだろうと思う。
でも、少なくとも私の場合は、周りの目が気になってなんとなくダメな気がしてしまい、それに慣れてくると、「きっとダメだろうな」と思い込むようになってしまっていた。
そうして価値観を狭め、コミュニケーションを諦めるようになってしまうと、世界は一気に狭くなる。
「沒什麼絕對不行的(絶対にダメなことなんてない)」
今でこそ、この考えはまだ自分の根底にあるけれど、これからまた長く日本で暮らしていくうちに、もしかしたらまた元の考え方に戻ってしまうかも知れない、という怖さはつきまとう。
それでも、これからもこの考えを保てるだけの強さを持ったままの自分でいられたらな、と思う。
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