読書|ガソリン生活
車目線の小説など、出会ったことがありませんでした。ピクサーのCarsとはまた違った面白さで、さすが伊坂さん!という気持ちです。
物語の主人公?は望月家の「デミオ」
緑色の車体に、まるッとしたボディーは家族に可愛がられていました。
ある日、望月家が運転する緑のデミオに、偶然にも大女優の荒木翠が乗り込んできます。それだけでも非日常なのに、翌日彼女が事故で亡くなりました。
ここから荒木翠を中心に置くように、真実が蠢きまくります。そして望月家の次男坊・亨くんは小学生に思えない賢さで、事件の真相に辿り着きました。
読者は常に、デミオと一心同体で話の展開を追っていきます。望月家が車内で話したことは、そのままの情報として知ることが出来る。では、車から降りてしまったら?
人間の声は届かなくなってしまいます。望月家が自宅で、学校で、知らない車の中で話した内容は、私たちにもデミオにも知る術がありません。
しかし、デミオにはデミオの世界があります。それは、車同士の会話です。
自宅の駐車場の隣にいる「ザッパ」から始まり、宅急便のトラック「黒ニコ」時々訪れるファミレスにいる車や、すれ違う車。その車世界で情報交換をし合います。
この会話がコミカルでユニークで楽しいのです。しかも、人間よりも正確な情報を持っている車たちのおかげで、私たち読者は、望月家が車外で話しているだろう物語の余白を埋めることができます。
面白いなぁと思ったのが、車がいくら情報を持っていても人間に伝えることは叶わないこと。「そっちに行ってはダメ!」「その推理正しいよ!」など分かっていても人間の心には届きません。
その目線が、まさしく読者と同じポジションでした。読者が物語の中に入って助言できないように、車も現実を軌道修正できないもどかしさがあります。私はデミオと会話できないのに、車の仲間入りをした気分になりました。
単行本にして400ページとボリューミーではありますが、伊坂さんの作品は、本の厚みを忘れるくらいの読了後の爽快感があります。今回も、怒涛の伏線回収が凄かったです。
エピローグのラストもチャーミングでしたね。どんな可愛い締め括りかは、読んでからのお楽しみということで。本日の読書記録は、これにておしまいとさせていただきます。
前回の読書記録です。
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