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「かんう」武村賢親

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琳琅 創刊号より、「かんう」です。  3人の視点が入れ替わり立ち替わりし、お互いの状況をまったくの別角度から、それぞれの背景をもとに物語を推し進めて行きます。
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#恋愛

琳琅 創刊号より 「かんう」武村 賢親

琳琅 創刊号より 「かんう」武村 賢親

井塚義明の視点1

「あの人、定時上がりが常だよな。いい歳こいてクラブ通いとか」
「まぁ、そう言ってやるなよ。いろいろ溜まってるんだろ」
 聞こえてるよ、そう心の中で呟きながらデスクへと戻る。部下からの要望で買ってやったコーヒーサーバーの近くで、こんな陰口を聞くとは思わなかった。吉田が言うのは、まぁ、まだ分かるけど、佐々木はなぁ、あれじゃあ出世できないなぁ。
 ノートパソコンを鞄にしまい、机上に散

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琳琅 創刊号より、「かんう」武村賢親

琳琅 創刊号より、「かんう」武村賢親

鴇田重喜の視点4

 JR線のプラットホームで、僕らは二本目の電車を待っていた。始発は結局逃してしまい、自動販売機で買った温かいココアを片手にホームドアに寄りかかる。体温を攫って行く風を避けるように、僕と小羽は身を寄せ合った。

「今度はさ。その先輩の個展、連れて行ってよ。わたしも自分の映っている写真見たい」

「わかった。次に展示する機会があったら連れて行くよ」

 彼女が僕の知らないところで父

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