見出し画像

新生北宇治高校吹奏楽部の幕開け『響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト』感想

アンサンブルコンテスト編恐るべし

2023年8月4日から公開された京都アニメーション制作『響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト』は4年前に劇場公開された2年生編と来年春から放送開始される3年生編へ繋がる特別編です。
3年間メインに描かれている全国大会を目指す吹奏楽部の物語ではなく3人~8人以下の少人数で編成されるアンサンブルコンテストという大会に出場するために、吹奏楽部員の意志で自由にチームを作り、学校内で代表を決めるまでの話でさっそく映画館で見てしました!

私は『響け!ユーフォニアム』をアニメ1期が放送されていた2015年から視聴しており、好きなアニメのBest3には入ります。
アニメにはまってから武田綾乃さんが書いている原作を追い、作品の舞台となっている北宇治には4回お邪魔してそのたびにアニメと縁が深い大吉山を登ったり宇治川を眺めたりするくらい好きで、4年ぶりに新作が公開されるのを純粋に心待ちにしていました。

アニメでも登場する大吉山


公式でも特別編とタイトルについているためOVA的な本編とは関係のないキャラのふわふわした日常を映すゆるい回かなと思っていました。

しかし、嬉しい悲鳴ですがアンコン編、いつも通りあまりにも本気で作られています。充実した60分で、まるで見た後はサウナで整ったような気分に近かったかもしれません。
60分の間に主人公である黄前久美子が2年生の秋から吹奏楽部の部長に就任して部員をまとめるのに苦悩する姿や部長として部員の問題を解決して活躍する様子、3年生が引退して1・2年生だけになり新生北宇治高校吹奏楽部としてスタートを切っていく新時代の風、アンサンブルコンテストの校内代表として選ばれるために部員が理想のチームを作る上で、個人と個人の野心を擦り合わせて人間関係を模索して、構築していく様子が見事に描かれていました。
これを60分でやり切る京都アニメーション凄すぎます。

キャラクターも1・2年生部員だけでなく引退した3年生部員などおなじみのキャラが登場しており、もの凄い情報量でしたが尺が短いこともあり会話の往復は少なく抑えつつ、その数少ないやりとりの中で個性やキャラ同士の関係性がよく分かるようになっており、これだけを見て全体のストーリーを掴むことは難しいですが作品からユーフォをはじめて知った人はきっと気になるキャラクターを見つけることができる作品になっていました。

今回私が紹介したいのは主人公黄前久美子と他の部員のやりとりから読み取ることができる芸術的とまで言える人間関係描写です。
久美子は部長になり、部活を引っ張っていく立場として責任を感じており緊張感も持っている人物ですが、誰かと話している時はとても落ち着いていて、後輩には話しかけられやすい雰囲気を作り、かつ緊張感を適度に持たせられるように模索して、引退した先輩には尊敬の念を込めながら何かを得ようと会話しています。

そのすべてが素晴らしくもういっそ台本の文字を追ってるだけで私はご機嫌になれそうです。
絞りに絞って、今回は黄前久美子と○○の素晴らしいやりとり3選を選んで解説と感想を挟んでいきます。
ちなみに百合的な立場の話ではありません。

北宇治高校吹奏楽部部長、黄前久美子とは

まず、主人公の黄前久美子とはどんな人物なのか簡単に紹介します。
彼女はユーフォニアムという演奏では低音パートを任される楽器を担当しています。

黄前 久美子



幼い頃に姉の影響でユーフォニアムをはじめ、中学で吹奏楽を経験して、北宇治高校でも吹奏楽部に入部しましたが、心の底からユーフォが大好き!という訳ではなく、他の部活も考えたけど高校でできた友達に吹部を誘われたからという理由でした。

同時に久美子が入部した時の北宇治高校吹奏楽部は全国大会出場をとりあえずのスローガンにしているという雰囲気でガチで目指している部員は数人しかいません。
しかし、新しく就任した顧問の滝先生が全国大会出場を本気で目指すと宣言してから、実際に部員を焚きつけ、練習はハードになり部員一丸で全国大会出場を目指すようになります。
そして、久美子も練習を重ね、実力主義となった部内の中でコンクールメンバーに選ばれるためにもっとうまくなりたいという野心が芽生え始めます。

同じ低音パートのメンバーや、同じユーフォを担当で久美子の高校生活や人間形成に大きな影響を与えるあすか先輩、中学の時から同じ吹奏楽部の天才トランペット奏者である麗奈などのキャラ達に支えられながら成長していきます。

アニメ1期宇治橋に立ち、宇治川に向かって「うまくなりたーい!」と叫ぶシーンは私のアニメーション史の中でも屈指の名シーンです。
そんな彼女が部長という立場になっているだけでもう私は感動します。

彼女の長所は人に対して近すぎず、遠すぎず、絶妙な距離で人と接し常にフラットな感情で人間関係を構築できることですが、逆に一定の間隔で距離を取ることに慣れ過ぎで、自分の気持ちを打ち明けられなかったり、人の心配を自分の立場で考えることができませんでした。

物語では様々な部員と接し、時には面倒事に巻き込まれ、まわりからアドバイスを貰うことで、自分の性格を受け入れながら上手に人と向き合うことができています。

部長に抜擢されたのはそんな誰に対しても贔屓せずに物事を考えられることと、トラブルの解決能力があるからで、吹奏楽部エアプですが大所帯である故に人間関係や上下関係が複雑になってしまうこの部活にピッタリだと思っています。

お待たせしました、アンコン編の思い出を語っていきましょう。

①部長久美子と後輩久石奏のやりとり

久石 奏


久石奏は4年前に公開された2年生編から登場する久美子と同じユーフォを演奏する1つ下の後輩です。
低音パートの部員たちは朗らかな人たちが多く、久石奏も見た目と表向きは愛想と物分かりの良い、いわゆる可愛いよくできた後輩ポジションなんですが、ウワサを察知するのが早かったり、本音や本心を明らかに隠しながら平然と愛想をつくって対話が出来る裏表があって一筋縄ではいかないキャラクターです。
しかし、奏は同時にその裏表含めて隠さずに打ち解けられる友達・先輩を探していました。

2年生編では久石がコンクールメンバーに選ばれるためのオーディションをあえて手を抜いて久美子を怒らせます。
その理由は中学時代に先輩を差し置いてコンクールメンバーに選ばれましたが、結局いい成績を残せずに先輩の3年間練習した苦労や思い出の邪魔をしたと後悔して、高校では実力を隠し、真面目に部活をすることを避けていたからです。
そんな彼女は久美子に「実力ある部員を非難する人なんていない」と奏の背中を押したことで部活を本気で取り組むようになりました。

アンコン編ではすっかり久美子や同級生と馴染み、アンコンの校内代表として選ばれるために1年生ながらコンクールメンバーに選ばれたチューバ使いなどに声をかけて手加減せずに自分にとってのベストメンバーを集めていきます。

そんな野心がありながらも久美子には「私達のチームは楽しんでやっています、例えるなら平和主義です」と語りかけていて、私はこのシーンがお気に入りです。
平和主義と言いながらも野心を隠し切れずシャドーボクシングをしている姿は天使と悪魔どちらの顔も持っていました。

話逸れますがアクタージュという昔週刊少年ジャンプで連載していた役者を目指す漫画で百城というキュートなキャラクターが悪女を演じていた際。
「大観衆に教えてやれ天使も悪魔も呼び方が違うだけだってな」と百城の演出家が悪女を演じる百城に呟くシーンを思い出しました。
奏は天使も悪魔もどちらの顔をもつ魅力的なキャラです。
そこで久美子は「そうなんだー」とだけ呟きます。
その一言は久美子は同時期に部活や自分のアンコンメンバーの行く先を考えている上の空であり、その様子を描きながらも、ちゃんと奏の野心を理解して突っ込まずに構ってあげている感じが絶妙な距離を取る久美子らしいなと思います。

他にも奏がユーフォ使いの中川先輩の教室を訊ねているシーンで、入部はじめはその先輩の実力を認めておらず、心を開いていなかったのですが懐いた事により「後輩がせっかくおめかししてきたのに気づかないんですか?」と実は5ミリしか前髪を切っていないのにそう試して悪戯に揶揄うシーンが印象的です。
アンコン編を見て奏の好感度が急上昇したので今回サムネを描かせていただきました。

②久美子と麗奈のやりとり


高坂 麗奈


久美子の一番の親友は同じ中学から北宇治高校吹奏楽部に入部した高坂麗奈というキャラクターです。
誰もが認めるトランペット奏者で、プライドが高く実力がある人がコンクールメンバーに選ばれるべきという部内の主義を誰よりも賛同しています。

特別になりたいと思うばかり慣れ合うことを嫌い人を寄せ付けない性格をしていますがフラットな視点で物を考えられる久美子と波長が合い久美子の前ではありのままの気持ちや姿を見せます。

そんな麗奈と久美子はお互いに一緒のチームでアンコンをやりたいと思いますが、なかなかそれを言い出せずすれ違い合います。
結局は麗奈がさらっと「一緒にやらない?」と誘い久美子が「こんなタイミングだとは思わなかった」とグダグダした感じで結成しますがお互い安堵していました。

どうやらお互い既に別の人を誘っているだろうから断られたら傷つくという心理的なバイアスがかかっていたことで言い出せずにいたようで、麗奈が「ユーフォの実力は久美子が一番だからと言い」久美子が恥ずかしがりながらも「麗奈に選ばれるんだったら絶対に1番がいい」と言うセリフの中にある感情は友情と奏者としてのプライドが入り混じっており大変素晴らしく、私の頭の中にある脳みそが杵でぺったん、ぺったんと餅つきされて活性化されていました。

ちなみに序盤でやっていた滝先生が好きな麗奈の前で、久美子が部長として滝先生と会話している様子を羨ましそうに見つめている際、久美子が頭の中で「みるな、みるな、みるな」とうっとおしそうに叫んでいるシーンも素晴らしかったです。

③久美子と鎧塚先輩のやりとり


鎧塚 みぞれ


鎧塚みぞれは3年生のクラリネット奏者で部活の引退後は音大へ進むために放課後でも校舎に残って特訓をしている生徒です。
人と必要以上にコミュニケーションをとることが苦手というか必要としていないような内向的な性格で自身と向き合い、久美子や他の部員によって物語ではそれでも自分を友達と思ってくれている人がいると、そんな人を大切にしたいと思うようになり自分なりの将来への道友達との向き合い方を見つけました。

『リズと青い鳥』というスピンオフの映画での主人公であり彼女が描かれるときは大体、純文学的な繊細な心理描写で映し出されるのが特徴です。

今回もそんな繊細な会話が久美子との間で行われていました。
久美子が校舎の裏でユーフォの練習をしていることに校舎内の廊下で進学のための練習をしていたみぞれが気がついて窓を開けますが、力が弱いのかさびついているのか窓は少ししかあきません。

それに久美子が気がついて窓際に近づき窓を半分開けてあげると、久美子は受験勉強のことやみぞれが気にかけている後輩の部内の様子を話し始めます。

そしてみぞれはこう言うのです。
「黄前さん、窓開けるの上手いよね」
このセリフの情報量とんでもないです……天文学的数量を孕んでいます。

久美子は単純に窓を開ける動作について誉められたことに戸惑っている様子でしたがみぞれはそれだけでなく、あまり人とコミュニケーションを取らない自分のことを考えて、自分の進学を気遣ってくれている様子や気になっている後輩を久美子も部長として目をかけて報告してくれていることを最小限の会話で最大限に伝えてくれていることを誉めています。

また、みぞれに気がついた久美子がわざわざ校舎の中に入って話すのではなくあくまで窓越しから壁一枚の距離を取りながら話してくれているという距離の取り方も誉めています。

自分が窓をあけられなくてもそっと窓を開けて懐には完全に入らず、窓越しで話をしてくれる。
黄前久美子のキャラクターが象徴されたシーンでした。
このシーンの魅力一緒に観に行った友達と劇場から出たら一番に語ろうと思っていましたが、舞台挨拶の際に高坂麗奈の声優を担当している安済知佳さんが高揚しながら語っており、先越されたーと思いつつも思っていることを伝えてくれていて嬉しかったです。

4年ぶりのユーフォ新作についてどうしても語りたいこと。

複雑な人間関係や心理描写をストレートに伝えずにもこのようにして観客に伝える京都アニメーションの技術力はアニメ業界でも随一だと思います。

アニメ1期が放送されたのはもう8年前の2015年、あっという間だったという感覚はありますが、しっかり月日が流れている事を舞台あいさつでサブスク配信からアニメを追って映画館まで来てくれた人という質問に対して4割のお客さんが手を上げている事に新規で興味を持ってくれている人がいるという嬉しさと同時に感じました。

今回のアンコン編ではアンコン結成と練習がメインになっており、校内代表を決めるオーディションでの演奏シーンは音のみで映像は北宇治の風景をアニメーションで表現されて演奏を視覚的に彩っています。
吹奏楽を描くアニメとして演奏シーンを描いて欲しいという意見も目にしましたが私は彼女たちが住む北宇治を描くことで観ている人たちにキャラクターの日常を想像させることができる余韻を残すようなシーンで心地良いという印象を受けました。

来年春にいよいよ最終章である、黄前久美子3年生編が放送されますが、今回のアンコン編は久美子たちに新たな時代への期待を感じさせながら久美子がなんとなくレベルで予感しているフラグや不安をアンコン編では回収せずに3年生編で試練へと立ち塞がるんだろうなと思わせてくれる、仕掛けになっており期待感を膨らませます。

来年の放送が楽しみです。
あとこの記事あまりにもオタクなんで私の身に何かあったら消して欲しいです。
#映画感想
#映画感想文
#響けユーフォニアム




















この記事が参加している募集

#アニメ感想文

12,591件

#映画感想文

67,494件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?