年間200冊以上読破するアラサー女子のおすすめ本(2023年8月読了分)
もうすぐ木々が色づき、風が涼やかに吹く、読書の秋がやってきます。まさに、本と一緒に過ごす絶好の季節です。この秋、カフェの窓際やぬくもりのある毛布に包まれて、素晴らしい物語と知識の世界への冒険に出かけませんか?
2023年8月に私が出会った本を紹介し、その魅力的な世界へと案内します。
この記事を参考にして、読書ライフを豊かにする新たな一冊を見つけてください。
今月は15冊です。
そのうち、特におすすめしたい本を小説から1冊、人文系から1冊ピックアップしています。
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【注意】
・すべての読了本を記載しているわけではありません。(おすすめできるものだけ選んでいます。)
・敬称略です。
特におすすめの本
『消滅世界』村田沙耶香
正常と異常の境界なんてない
戦後、人工授精の技術が発達した世界。夫婦間の性行為は「近親相姦」とタブー視され、セックスはもはや遠い過去の話として世界から消えつつある。そんな世界で「近親相姦」によって生まれた雨音は、正常とは何かを模索し続け…
村田作品ならではの、ぶっ飛び設定てんこ盛りの小説です。
読む人によってはグロテスクに感じられ、好みが分かれると思います。
解説によると、女性側からは「ユートピア小説」、男性側からは「ディストピア小説」と評価されているそうで、まあ、そうだろうなという感じがします。
作品の世界では、初潮を迎えると避妊手術がされ、生理は経血ではなく透明な水が流れるだけ、生理痛やPMSなどもなく、望まない妊娠が起きる確率もゼロですから。
この小説の特徴は、夫婦間の性行為は「近親相姦」とタブー視されているという展開から、さらにもう一段階ギアがあがるところです。
その舞台は、千葉にできた楽園都市(エデン)。
そこでは、そもそも家族すら解体されています。
住人たちは、人工授精のタイミングが来たら、病院で痛みもなく妊娠します。しかも、男女ともに。
(男性は人工子宮で妊娠します)
生まれた子どもは、センターに預けられ、エデン全体の子どもとして育てられます。
子どもは全員、<子どもちゃん>と呼ばれ、大人たちは全員(男女問わず)<おかあさん>と呼ばれて、街全体で育てていきます。
母親にすべての責任がのしかかっている現状を思えば、このような都市はたしかにユートピアかもしれませんね…
『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』ジェーン・ス―
先輩"女子"からのエールがたっぷり
いくつになっても、どんなに文句を言っても、女性は女子なのよ。ていねいな暮らしって何? 結婚しなきゃわからない喜びがあるなら、結婚していたら分からない喜びもあるってもんよ、などなど。自称"未婚のプロ"が女性にまつわるアレコレを、ユーモラスに語ったエッセイ
まずは、ごめんなさい。
外国の方だと思っていました。だって、"ジェーン・ス―"ですよ? 台湾、東南アジアあたりの方かな? と思っちゃうじゃないですか。
でも、はじめの1章「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」を読んで確信しました。この人、日本人だな、と。いくら日本語が上手な方でも、ここまでの日本語でエッセイを書くのは無理!
そして調べてみたら、生粋の日本人、東京都文京区生まれと言うじゃないですか!
しかも、Wikipediaによると、「外国人が割引されるプランがあったホテルに、外国人のふりをして宿泊した時に使った偽名をmixiのハンドルネームにし、そのまま芸名にした」とのこと。
このエピソードだけでわかります。この人、面白い人だ、と。
読み進めてみると、やっぱり面白い。
「わかるわかる!」頷くところもあれば、「もうやめてくれ! イタすぎる!」と内心叫びながら、それでも怖いもの見たさで読んでしまうところもあります。
私が"アラサー女子"だから面白がれる、というのは真実でしょうが、それだけではないと思います。
彼女のすごいところは、バランス感覚です。
けして女性を過剰に持ち上げることはなく、男性を一方的に批判することもない。独身であることを卑下することもなければ、結婚した友人の粗探しをすることもない。かといって、虚勢を張ることもなく、辛かったことや後悔したこと、失敗、受け入れられない過去を肩ひじ張らず、率直に語っています。
文章がユーモラスなだけでは、読者に1冊読みきらせるなんてできません。彼女のエッセイの中には、「なるほどな」と思わせるエッセンスがある。
・どうして私はここで傷つくの?
・何を求めているのだろう?
・なんでこうできなかったの?
多くの人が素通りしてしまう些細な感情の揺れ動きをしっかりとらえて、自らに問いかけていく。その過程で生まれた仮説には、他の人にも想像できる普遍性のカケラが含まれています。
もうほんとに、読めば読むほど「私のことですか?」と言いたくなるエピソードが満載です。
……私のことですか?
…私のことですか?
私のことですよね?
終始そんな感じです。
このエッセイを書いた時、著者は41歳。私は現在32歳です。
過激なタイトルではありますが、30代を楽しく逞しく過ごした先輩からのエールだと受け取っています。
小説
『信仰』村田沙耶香
誰だって何かを信仰し、何かに洗脳されている
「なあ、俺と、新しくカルト始めない?」
同級生にカルトを始めて儲けようと誘われた永岡。彼女はいつも「原価いくら?」と尋ね、周りの幻想をぶち壊して、現実に勧誘する。しかし周りは彼女を疎み…
表題作『信仰』の他に、短編とエッセイあわせて7篇を含むお得な1冊です。
『信仰』も57ページと少なく、過激なシーンがないのでスイスイ読めます。
日本人は無宗教だと言われます。
カルトにハマる人に対して、「バカだなー。あんな見え透いた嘘にどうして騙されるんだろう?」と思う人も多いでしょう。かくいう私もそんな一人です。
でもこの作品では、私たちがいかに幻想を信仰し、幻想をよりどころに生きているか、その生々しさがあぶり出されています。
それが悪いわけではありません。ただ、掛けていたことすら忘れていたメガネを外された感覚になります。
この身ぐるみ剝がされる感覚こそ、村田作品の真骨頂な気がします。
『絶縁』村田沙耶香他 アジアの若手小説家たち
同じ時代・同じテーマでアジアの若き小説家たちが奇跡の集結
若者たちを虜にする「無」ブーム。美代の娘は無街に行ってしまい…
『無』村田沙耶香周錯が暮らすのは、触れるものすべてが人間の感情を感知するポジティブシティ。ネガティブにならないように気を付けて生活するが…
『ポジティブレンガ』ハオ・ジンファンぼくは会社を辞め、ラサに向かうことにした。1年前に死んだ幼馴染を思い出しながら…
『穴の中には雪蓮花が咲いている』ラシャムジャ
アジアの若き小説家たち9名が<絶縁>というテーマで描いたアンソロジー
今こそ、<絶縁>という言葉に誰もがしっくりくる時代はない気がします。コロナの流行によって、私たちは突然強制的に縁を切られました。
でも、<絶縁>は外的要因によるものだけではありません。人それぞれ、置かれた状況にもよる、ということがこのアンソロジーを読むとよくわかります。
日本代表は村田沙耶香氏。
「無」という概念が流行するという、村田沙耶香ワールド全開です。
他には、シンガポール、中国、タイ、香港、チベット、ベトナム、台湾、韓国の小説家の方々です。
各国の歴史文化を反映した設定や描写も興味深いです。
例えば、タイの方の小説には選挙に行く描写が含まれています。日本だと選挙に行くシーンを読んだ記憶がありません。
タイは軍事クーデターや反政府デモがよく起きるので、選挙・投票は描写するに値する行為なのかもしれません。
この本が新しい作家との<縁>をつないでくれます。
『銃』中村文則
ただ拳銃を拾っただけ、の物語ではない
大学生の西川は帰り道で男性の遺体を発見する。その傍らには拳銃。圧倒的な美しさと存在感を持つ「銃」に魅せられた彼はそれを持ち帰り、やがて「私はいつか拳銃を撃つ」という確信を持ち、撃つための計画を立て始め…
中村文則氏のデビュー作です。
ただ銃を拾っただけの物語ではありません。著者ご本人も巻末に書いていらっしゃいますが、西川が内面に"銃"を抱えてしまう構図になっているのです。
内面に何かを抱えるとはどういうことでしょう?
私は、それありきの世界の見方をすることだと考えます。
例えば、私は小説家になりたいので、日常生活をしていても「これは小説の題材になるかな?」と考えてしまいますし、喫茶店の会話を聞いてしまいますし、今書いている作品に使えそうな情報はすぐにキャッチしてメモするクセがついています。
もっとわかりやすい例だと、車好きな人は日常生活の中でも、道路を走っている車に自然と目がいくでしょうし、珍しい車を見つけたら立ち止まってしまうのではないでしょうか。
では銃の場合はどうなのか。
銃は人を撃つために生まれてきた存在です。人を殺傷することに存在意義がある、とすると銃を内面化するということは…
この作品の別の面白さは、デビュー作ということもあり、その後の作品と繋がる点がいくつもあるところです。
ご本人が語っているように、同一人物だという記載はないものの後続作に共通する人物が出て来たり、『銃』でちらりと触れられた記載が、別の作品のテーマになっていたりします。
この台詞は『悪と仮面のルール』を貫くテーマになっています。
(詳しくはこちらの記事をご覧ください)
デビュー作から追うように読んでも、他作品を読んでからさかのぼっても、読みにくさがない小説です。
『王国』中村文則
悪意をもつ神に対抗できるのは、女の勘?
ユリカの「仕事」、それは美貌を利用して組織から指定されたターゲットの弱みを人工的に作り出すこと。ある日、彼女は見知らぬ男から突然、忠告を受ける。
「あの男に関わらない方がいい…何というか、化物なんだ」
あの男とは、彼女が育った施設を買い取った木崎という人物だった…
『掏摸』の兄妹編に位置づけられる小説ですが、単体で読んでも十分楽しめます。
中村作品には珍しく、女性が主人公です。
彼女はステレオタイプな女性ではないのが、面白いところ。生まれ持った美しさを活かして娼婦まがいのことをしているものの、娼婦ではない。男性に対して明確な嫌悪感や恨みがあるわけではない。かといって、男性に対抗しようという性格でもない。
彼女は倦んでいる。この理不尽な世界に。不条理に。大切な友人の子どもを守れなかった自分に。
いつ死んでもいい。そう思っていたのに、いざ木崎に目を付けられて命の危険にさらされると、クレバーさを発揮して生き延びようとします。
火事場の馬鹿力、じゃないですけど、人間ってそういうものかもしれません。
『掏摸』でも本作でも、神のような男・木崎との対決が軸になります。
天から見下ろしているように、常に相手の先を読み、神出鬼没で相手を絶望に叩き落す男。退屈を紛らわすためだけに、人の人生や命をおもちゃにする男。
主人公を女性にしたのは、女性が子ども産む性別だからだと思いますが、私には『掏摸』で主人公がスリの技術によって木崎に対抗したように、本作では女の勘で戦っているように見えました。
それは、私自身が女性で、女の勘の鋭さを身を持って体感しているからでしょうか…?
ぜひ読んでみて、感想を教えてほしいです。
『惑いの森』中村文則
つながっているような、いないような… 不思議なショートストーリー50編
ホクロが多い謎の女、植物になろうとした青年、娘が幽霊に取りつかれた話をする男性、特徴的なバッジをした教団… 現実と幻想の間をただようショートストーリー集
全作1-2ページ程度の長さなので、特に初心者にも読みやすい作品です。
すべてが独立しているかと思いきや、同じ人物と思われる人が登場したり、同じ場面を別の視点からとらえたものだったり、謎の教団にまつわる話が続いたり、ゆるくつながっているような、いないような、不思議な感覚にとらえられます。
中村文則氏の他の作品も読んでいると、「これはあの作品と繋がっているのかな」「もしかしてあの小説のこの人のこと?」と、別の見方もできます。
例えば、表題作である『惑いの森』は暴力をふるう夫の話ですが、ほぼ同じ内容が『王国』にも登場します。
同じ作者の作品を続けて読む面白さは、こういう気づきにあるのかもしれません。
『晩年』太宰治
若き太宰が遺書のつもりで書いた生きた証
『人間失格』『走れメロス』などの傑作を残した文豪・太宰治の第一創作集。
私は勘違いしていたことがあって、おそらく他の多くの人も同じ勘違いをしていると思うのですが、
①『晩年』は処女作品群(つまりデビュー作)であって、遺作ではありません
②『晩年』という小説はなく、短編をまとめた総題です。
この第一創作集には、多種多様な15の短編が含まれています。自伝的なものであったり、歴史的なものであったり、文学的挑戦をしてみたものだったり…
なかでも『道化の華』の登場人物は、『人間失格』の主人公と同じ大庭葉造という名前です。彼も行きずりの女性と自殺を試み、自分だけ助かります。
その直後の入院生活を描いているので、『人間失格』のスピンオフ的に読むこともできます。
太宰治が第一創作集にも関わらず、『晩年』というタイトルを付けたのは、彼が遺書のつもりで小説を書いたからだと言われています。
死んだ後にも残る、自分の一生を書き残しておきたいと。
彼がそう考えるに至った理由はいくつもあるようです。
実際に太宰が入水自殺を試みたときに自分だけ生き残ってしまった罪悪感や、家族との不和・不信感など。
一番大きい理由は、彼の生まれにあると解説にはあります。
マルキシズムが席巻し、労働者の権利が叫ばれる中で、太宰は青森津軽の豪商の息子で、搾取される側ではなく搾取する側として生まれました。
その出自に対する罪悪感や、いつか滅びる者であるという自意識に苦しんだのだと。
太宰と似たような恵まれた生まれの人は、おそらく「そういうもんでしょ」であったり「たしかに金持ちの家に生まれたけど、それは自分で選んだわけじゃないし」と自己弁護していたと思いますが、太宰にはそれができなかったのでしょう。
そのかたくなさというか、潔癖さというか、そういう彼の気質が人生の苦しみを生んだと思うと、その中で生み出された小説たちが、より愛おしく感じられます。
『女生徒』太宰治
太宰自身の女性に対する憧れと恐れの表れ?
父を亡くし、母と鬱屈した生活を送る女生徒、画家として名声を得て変わっていく夫を捨てた妻、駆け落ちした友人を軽蔑しつつ憧れる娘など、女性目線の短編14編を収録した1冊
解説の市川拓司氏によると、ご自身が女性の一人称で書かれていることもあり、その点に違和感はないそうですが、それでも独白として女性になりきって描くのは、並大抵のことではありません。
ましてや、これほどまで細やかに心情を描写するのは、「女性目線の方がおもしろいから」といったような軽い理由ではできないでしょう。太宰治という作家の凄みを見せられます。
とはいえ、女性としては、作品の中の女性の描かれ方にちょっとムッとする部分もあります。
それは、この時代の女性観や女性の立場が反映されているのでしょうけれど、それ以上に太宰自身の女性観が映し出されている気がします。
なぜそんなに女性をダメに書きたがるのだろう?
不幸にしたがるのだろう?
14編続けて読むと、そういう疑問が浮かんできます。
太宰の母は体が弱かったため、太宰は生まれてから乳母のもとで育てられました。その乳母はとても面倒見のいい人だったそうなのですが、それでも母という存在への憧れや恐れがあったのかもしれません。
太宰は30歳の時、井伏鱒二の仲人で結婚しますが、複数の愛人を持ったり、もうしっちゃかめっちゃかです。
愛されたいけど、いざ愛されると重いしめんどう。とか、そういう矛盾した気持ちがあったのかもしれません。
市川氏のおっしゃることが、まさにその通り! という感じがします。
句集
『芝不器男の百句』村上鞆彦
わずが4年の瞬き
わずか26歳で夭折した歌人・芝不器男の句集です。句歴はたった4年…
その瞬きの間に紡がれた珠玉の歌たちです。
芝不器男は1903年(明治36年)に生まれ、 1930年(昭和5年)に病死しました。ちなみに不器男という名前は、本名だそうです。(私は俳号だと思っていました…)
俳句を作り始めてわずか1年で、高浜虚子に褒められ注目を浴びます。天才です。
不器男は愛媛県出身ということもあり、明治から大正にかけて近代化する都市ではなく、山や川など自然の情景を描いた句が多いです。
しかし、病状が進むにつれて哀愁が漂うようになり…
密度の濃い4年間を読んでみてください。
社会学系
『フェミニストってわけじゃないけど、どこか感じる違和感について』パク・ウンジ
男性への文句というより、切実な願いとして聞いてほしい
女性として生きていると、日々引っかかることが多すぎる。それは気にしすぎ、ではなく、もっと深くて構造的な問題なのかもしれない。一つ一つの引っかかりを、丁寧に解きほぐしていく。
読書の喜びの1つは、「なんとなく感じているもやもやをクリアに言語化されることで腹落ち感を得られる」だと思うのですが、まさにそういう体験をさせてくれる1冊です。
日本/韓国の違いはあれど、「確かにねー」と頷くことが多いです。
あなたが男性なら、これは男性への文句ではなく、女性たちの切実な願いだと思って読んでもらいたいです。
フェミニスト、という話ではありますが、ところどころ男性にも身に覚えのある個所もあると思います。
例えば、「褒めて動かす」役なんてしたくない という章。
これは、「夫に家事をやらせたいなら褒めて伸ばせ」という言説に対する反論ですが、男性も褒めることの大変さはイメージできるのでは?
例えば、恋人や妻を毎回褒めないといけないとなったら、めんどくさくないですか?
この服は前も着てたから、褒められないし、髪型…変えた、か? わからないな。メイクのことはよく知らないし、いつも家事をやってくれてありがとうって、いまさら言うのも変だよな。
みたいな。大変ですよね?
たしかに行きすぎなフェミニズム運動には、同じ女性としても「うげー」となってしまうのですが、主張しなければ何も変わらないという気持ちも理解できます。
また、著者が主張する「フェミニズムは男性・女性どちらにとってもいい社会になるためのもの」という意見に同意します。
男は家族を養えるほど働いて当たり前。家を買って初めて一人前。弱音を吐くな。大黒柱としてしっかりしろ。などなど、男性に対しても呪いの言葉があると思いますが、ジェンダーに偏らず、女性も男性の役目を担い、男性も女性の役割を担えば、互いに息がしやすくなると思うのです。
少しずつでも変わってくれたらいいなと願うことも、フェミニズムの一部なのかもしれません。
『政治的に無価値なキミたちへ』大田比呂
ボクらの1票はゴミだ。でも大事なのはそこじゃない
人権、教育、労働、結婚、政府…
私たちは私たちの生活を取り巻くこれらについて、本気で考えたことはあるだろうか? きっとない。なぜなら、私たちは政治的存在ではないから。政治に参加する方法を知らないから。ではどうすればいい? 一緒に考えてみよう。
早稲田大学の政治入門講義をそのまま書籍化した1冊。
一言でいえば、ちゃちな陰謀論よりよっぽど絶望できる本です。
大学の講義がそのまま書籍化されているので、口語で書かれていて、とても読みやすいです。
さらに、著者の語りには忖度なく、辛口なので、「いいぞ! いいぞ!」という気分にもなります。
でもそれも最初だけ。
ページが進むにつれて、いかにこの国が異常で、課題が山積されているのかがよくわかります。
特に他国とのデータを比較しているので、理解しやすく、ある意味逃げ場がない…
もちろん、すべてを海外の基準に合わせる必要はないのですが、合わせないなら合わせないなりの理由があるはずなのに、まったく納得感がない。
「ああ、上級国民は困るんだな」「既得権益を手放したくないんだな」とため息が出ます。
また、この国で30年以上暮らしているはずなのに、お恥ずかしながら知らないことが多かったし、なんでそうなるの? と思っていたことに対しても、誰がどういう理由で嫌がっているのか、答え合わせをしている気分になりました。
(夫婦別姓や同性婚が頑なに司法で認められないのは、どういう仕組みか? とか)
読んで思ったのは、"余裕"がカギだということです。
余裕がないと、こういう本を読んで本気で考えたり、怒ったりできないですよね。
私は今比較的余裕がありますが、もし社会人3年目くらいまでのどこかで「この本読んで!」「これからのこと、真剣に考えないと!」と言われても、「いや、それどころじゃないから! 私は私のことでいっぱいいっぱいなの!」と叫んでいたと思います。
余裕にはいくつか種類があって、おおまかには経済的余裕、時間的余裕、精神的余裕でしょうけど、何より大事なのは経済的余裕ですよね。それがないと、時間的にも精神的にも余裕ができないですから。
これは被害者意識かもしれませんが、この国はわざと私たちを貧しくしようとしているのか? とも考えてしまいます。
税金は上がるし、物価は上がっても給料は上がらないし、退職金や年金は減るし…
経済的に余裕がない状態なら、政治のことなんて気にしていられないですから。
そう思うと、今の状況って現代の参勤交代なのかな? と思ったりします。
『シン・男がつらいよ 右肩下がりの時代の男性受難』奥田祥子
男も女も生きづらい!!
男性も家事育児を!
とはいうものの、家族のの経済的支柱たることを課せられ、いざ育休を取ろうとすれば出世コースから外される。
誰もが理想的な「男らしさ」を具現化できるとは限らないのに、「男らしさ」の欠如に社会は厳しすぎる。ジェンダーの呪いを解き、誰もが生きやすい社会にするにはどうしたらいいのだろう?
いち女性としては、「生理がないだけ恵まれてるでしょ」と思わなくもないですが、それは置いといて。
とはいえ"男だから"すべてにおいて楽になる、というわけではないのは事実だと思います。
前々から、SNSをはじめネットでフェミニストvs男性という喧嘩(?)を目にしながら、なんだかもやもやしていたのですが、その理由がわかりました。
お互い、男性/女性をそれぞれ画一的に見てしまっているからです。
男性のなかにも、女性のなかにも、いろんな価値観・生き方の人がいるのに、男性・女性のステレオタイプな人物を思い浮かべて、幻影に向かって撃ち合っている感じ。
本作では、男性だから加害者、女性だから被害者とは限らないと指摘しています。
まず、ざっくり分けるだけでも、それぞれのジェンダー感覚から恩恵を受けている人と受けていない人がいると思うんです。
例えば、女性としての魅力を使って経済的に恵まれている男性と結婚し、庇護される立場を手に入れ満足な生活を手に入れる女性(①)がいれば、自力で好きな仕事を頑張って評価されたいと思っているのに、女性だからという理由で大きな仕事を任せてもらえない女性(②)もいる。
運動系の部活で培ったガッツで大企業で出世し、家族を問題なく養っている男性(③)がいる一方で、就職氷河期など不運にぶつかってしまい非正規労働でしか働けず、男として落伍者と捉えられてしまう男性(④)など。
ちなみに本書では、③を覇権的男性性、④を従属的男性性と紹介しています。
かなり簡略化しているので、もちろんもっとたくさんのタイプがあるし、重なっている人もいるでしょうが、
だいたいフェミニストvs男性という喧嘩って、②⇒③への告発・不満の発露があり、③⇒②への反論もあるのですが、④からの反論もかなり過激な気がするんですよね。
でも④が「女性はずるい!」と反応する時、向かっている相手は②より①な気がして…
だから撃ち合っているようで撃ち合っていないというか、流れ弾ばっかり当たる、みたいなことが起きてるな、と。
この本を読んだことで、その構造がクリアになった気がします。
本書の内容に戻りますが、著者が指摘しているのは、実際は従属的男性性の男性の方が多いのに、少数にしか実現できない"男らしさ”を強く求められていることによる弊害です。
言われるまで気が付かなかったなと思います。
またこの図に戻りますが、事態を複雑にしているのが、一度どこかに入っても別の枠への移動もありうることです。
例えば、正社員として出世コースを歩んでいた(③)のに、管理職席の減少などによって出世ができず、男性としてのプライドが守れなくなる(④)など。
本書の他とは異なる点は、20年以上にわたって同じ取材協力者を追い続けているので、個人の社会的立場や心情の変化を捉えられているところです。
例えば、両親の前時代的な男女観に嫌気が差していたはずの若者が、年を重ねるにつれて口では反面教師的なことを言っていても、自分も親の価値観の影響を受けている場面は、他人事とは思えません。
最後に、著者が引用している男性にあるはずの権利について、こちらでも引用します。
まあこれらの権利は、女性にも認められているかと言われると、疑問ですけどね。
ノンフィクション・その他
『とある奴隷少女に起こった出来事』ハリエット・アン・ジェイコブズ
自由とはこれほどの執念と行動力がないと得られないものなの?
19世紀のアメリカ、まだ奴隷が合法だった時代。好色な医師フリントの奴隷となった美少女、リンダ。フリント医師は、どうにか彼女に手を出そうとする。自由を掴むため、彼女が下した決断とは…
出版されたのは、今から120年以上も前の1826年。当時は白人著者による創作と考えられていたそう。
(関係者が存命だったため、登場人物が仮名だったこと、元黒人奴隷がこんなに知的な文章を書けるわけがないという偏見(失礼!)、衝撃的過ぎるリンダの環境・決断などが理由)
そんなこともあり、アメリカでも忘れられていましたが、1987年にJ・F・イエリン教授が、本作が事実に基づくノンフィクションであることを証明し、一気に注目されました。
今やKindleの世界古典名作ランキングで11位に入るほど名作として知られています。
リンダの境遇・心情は、同じ女性だからという以上に、"同じ人間"として読んでいるうちに苦しくなります。
「どうかフィクションであってほしい」と願ってしまうし、フリント医師をぶん殴ってやりたいと思うし、現代に続く人種差別の根っこを垣間見ることになります。
この本に正しい読み方はないでしょうが、「この時代の人たちと比べれば、今の黒人・女性たちは恵まれてるよね」と慰めのような言葉を持つのは違うと断言できます。
この時代のこの状況が異常なのであって、過去の不当さと無理やり比較して、現代の私たちの口を塞ぐ手段にするなんて、あってはならないから。
原本は当然英語なのですが、日本語訳をされた方は、実はプロの翻訳家ではありません。
堀越ゆき氏というコンサルタントの方です。(つまりサラリーマン(♀))
彼女がどのように本作に出会い、翻訳するに至ったか、訳者あとがきは情熱にあふれています。
本屋で見つけたら、あとがきだけでも読んでほしいです。
『文豪ナビ 三島由紀夫』新潮社(編)
挑戦したいけど、三島由紀夫は難しそう…というあなたへ
『金閣寺』『潮騒』『仮面の告白』…
昭和と共に生まれ、やるべきことはやりきったと流星のごとく消えた三島由紀夫。彼の文学・生き方を貫くものは何だったのか? を解説しつつ、それぞれの作品の魅力を語る初心者におすすめの1冊
日本が世界に誇る文豪・三島由紀夫の名前を知らない人はいないでしょう。
とはいえ、「ちょっととっつきにくいかも」「難しそうなんだよなぁ」「何から読めばいい?」としり込みする気持ちもわかります。
そんなあなたに、まずおすすめしたいです。
1冊の中に、
・超早わかり!三島作品ナビ
・10分で読む「要約」三島由紀夫
・熱烈ファンによる「思い入れ」エッセイ
などなど、盛りだくさんでお得です。
この本で初めて知ったのですが、三島由紀夫は昭和元年生まれ。
まさしく昭和と共に生まれ、激動の昭和を生き、その終わりを見届けるのを拒むかのように45歳で自ら命を絶った人物です。
それを頭に入れて読むと、より深くその世界を咀嚼できると思います。
個人的には、最初の1冊としては『潮騒』『美しい星』あたりがおすすめです。
【ページ著者紹介】
このページの著者は、普段コンサルティング会社を経営しながら、小説家を目指して日々活動中です。
休職したり、モラハラを受けたり、いろいろありましたが、どうにか生きています。
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