単純化しすぎでは? ~調査・分析時には「トリレンマかもしれない」と疑ってみよう!
こんにちは、リサーチャーの牛尾です。
★本記事のテーマ:何かを理解しようという時、私たちは往々にして物事を単純化しすぎてしまう。「これはもしかするとトリレンマ的状態かもしれない」と疑ってみよう!
私たちは、時に物事を単純化しすぎる
私たち人間には、<物事を単純化して理解する>という能力が備わっています。
これは大変素晴らしい能力です。
だって、世界はあまりにも複雑すぎる。複雑なものを複雑なまま理解しようと思ったら、頭がパンクしてしまうでしょう。
ざっくり把握する能力があるからこそ、私たちはどうにかして生きていけるのです。
……が、しかし。
時としてこの能力がネガティブに働くこともあります。
トリレンマ?
<1>
さて。
私たちはいま、<若い女性の生活実態を把握するための調査>を実施していることにしましょう。
そしてインタビューしたり観察したりする内に、
・1:A子さんは「きれいに痩せたい」という欲求を持っている
・2:同時に、「食べたいものを食べたい時に食べたい」という欲求も持っている
・3:しかし、この2つの欲求は両立困難。だって好き放題に食べたら痩せることはできない!
・4:ゆえに、A子さんは苦しんでいる(「もっと食べたい!」とイライラしたり、「また食べちゃった」と落ち込んだり)
……と気づいたとしましょう。
このように2つの要素の板挟みになった状態を<ジレンマ>と呼びますよね。
つまりA子さんは、「きれいに痩せたい」「食べたいものを食べたい時に食べたい」という2つの欲求のジレンマに苦しんでいるのです。
<2>
……が、ちょっとお待ちください!
「A子さんがジレンマに苦しんでいる」というあなたのその理解は、もしかして現実を単純化しすぎていませんか?
現実は複雑です。
「あー、はいはい!これはジレンマ的状態だね」とピンと来た時にも、一旦そこで踏みとどまって「いや待てよ。本当にジレンマか?じつはもう1つ別の要素が絡んでないよな?」と疑ってみるのが有益です。
<3>
例えば、A子さんの場合。
【調査を継続したところA子さんが、
・欲求1:きれいに痩せたい
・欲求2:食べたいものを食べたい時に食べたい
に加えて、
・欲求3:出費を減らしたい
……も抱いていたと判明した】ということにしましょう。
つまりA子さんは「給料が少ない」「結婚資金を貯めている」「奨学金を返済している」なんて理由で、出費を減らしたいと思っていた。
そしてその結果、A子さんはじつは3つの欲求の板挟みになっていたのです。
このように3つの要素の板挟みになった状態を<トリレンマ>と呼びます。
そう、ジレンマではない!トリレンマだった!!
【一見するとジレンマに見えるが、よくよく考えてみるとトリレンマ的状態だった(= トリレンマ的状態と考えた方がすっきり整理できる)】というのは、調査・分析時にしばしば起こることです。
状態を正しく理解すれば、対策も見えてくる
<1>
「A子さんが置かれている状態はジレンマではない。トリレンマだ!」と状態を正しく理解できれば、対策もおのずと見えてくるものです。
例えば……あなたが、ダイエット関連の商品・サービスを提供する会社を経営しているとしましょう。
あなたはA子さんに何を提供しますか?
どのようなイノベーションを起こしますか?
<2>
もちろん、<メチャクチャおいしくて、しかもきれいに痩せられて、それでいて安価>という夢のような食品を開発できればいいのでしょうが、それはかなり難しい。
ではどうするか?
例えば、こういうのはいかがでしょうか。
「当社の商品を定期購入してくださった方には、以下を無料サービスします。
・1:節約しつつダイエットにも成功した先輩ダイエッターに直接質問できるオンラインサロンを開催します
・2:ファイナンシャルプランナーが家計簿をチェックして、節約のアドバイスをします
・3:信頼できる転職エージェントを紹介します
・4:奨学金の返済を一時的にストップする手続きをサポートします」
一見すると「えっ。これって、ダイエット関連会社の仕事?」と感じるかもしれませんが……しかし、A子さんがトリレンマ的状態に置かれていることを思い出していただければ、「むしろこうした経済的な支援こそがダイエット関連会社が提供すべきサービスなのかもしれない」とご納得いただけるでしょう。
以上、<トリレンマ>について申し上げてきました。
・私たちは、物事を単純化しすぎるきらいがある
・一見するとジレンマ的状態に見えても、じつはそれはトリレンマ的状態かもしれない。3つ目の要素が隠れていないか探してみよう
・状態を正しく理解できれば、適切なマーケティング施策も見えてくる
……といった辺り、ぜひ頭の片隅に置いておいてくださいねー!!
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※付記:私たちはクライアント様との守秘義務契約を遵守し、また、調査参加者のプライバシーに最大限配慮しています。本記事内でご紹介した事例はすべて①掲載の許可を得たものか、②実際の出来事を大幅に脚色したものです。
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