見出し画像

ラダリング法入門!!

こんにちは、リサーチャーの牛尾です。

今日のテーマは【ラダリング法(laddering technique)】


・背景1:ラダリング法は、一般的には<定性リサーチの手法の1つ>とされています。しかし実際には、多くの定量リサーチャーやUXリサーチャーが活用・応用しているし、もっと活用・応用されて然るべきだと思うんですよ!

・背景2:ネット検索してみると、ラダリング法に関する日本語記事が見つかります。しかしその大半は断片的なもので、網羅的な情報は見当たりません。ラダリング法について学びやすい環境とはいいがたい!

……というわけで!

こちら、ラダリング法に関する網羅的な記事です。


参考文献


以下の論文、書籍、Webサイトを参考にしました。


・参考文献A:Grubert, Thomas (不明), "Laddering: A Technique to Find Out What People Value," B2B International.

・参考文献B:Gutman, Jonathan (1982), "A Means-End Chain Model Based on Consumer Categorization Processes," Journal of Marketing, 46(2), 60-72.

・参考文献C:Gutman, Jonathan & Reynolds, Thomas (1979), "An investigation of the levels of cognitive abstraction utilized by consumers in product differentiation," in Attitude research under the sun, Eighney, J. (Ed.), Chicago: American Marketing Association.

・参考文献D:Hawley, Michael (2009), "Laddering: A Research Interview Technique for Uncovering Core Values," UXmatters.

・参考文献E:桐野裕之 (2015)「ガソリンスタンドにおける店舗選択行動と消費者の価値観に関する研究─ラダリング・リサーチを活用して─」, 『流通』, 37, 41-53.

・参考文献F:丸岡吉人 (1996)「ラダリング法のブランド戦略への適用」, 『消費者行動研究』, 4(1), 25-40.

・参考文献G:仁平京子 (2006)「広告表現戦略におけるラダリング法の意義―消費者の価値と属性との関連性」, 『明治大学社会科学研究所紀要』, 44(2), 319-332.

・参考文献H:Reynolds, Thomas & Gutman, Jonathan (1988), "Laddering theory, method, analysis, and interpretation," Journal of Advertising Research, 28(1), 11–31.

・参考文献I:柴田典子・上田隆穂 (2003)「WEBテキスト・マイニング型ラダリング法による広告制作・新製品開発―消費者セグメント別製品利用オケージョンと価値体系」, 『学習院大学経済論集』, 40(2), 113-130.

・参考文献J:上田拓治 (2010)『マーケティングリサーチの論理と技法 第4版』, 日本評論社, 196-197.


※Webサイトのアクセス日はすべて2021年10月1日。

インターネット経由で無料で閲覧可能な文献にリンクを張った。


<value>って何だ?


<1>

まずは、<value(価値、価値観、価値体系)>の話から始めましょう。


valueというのは具体的には、

・家族を大切にしたい

・環境にいいことをしたい

・何よりもコスパが重要

……などですね。


<2>

ただし!

valueの話をすると言っても、「valueとは何ぞや」と真っ正面から考え始めるとキリがありません。何しろvalueというのは哲学や社会学の一大テーマですからね。いつまで経ってもラダリング法にたどり着かない。それでは困ってしまう。

ゆえにここでは、<valueって、マーケティングの実務ではこんな意味合いで使われることが多いですよね>という視点から議論します。


<3>

すなわち、マーケティングの実務においては……【value = 人びとの行動を規定するもので、比較的持続性が高い】!!

以下、詳しくご説明します。


▶【Point1】valueは人びとの行動を規定する

私たちの行動はvalueに規定されています。

換言するならば、<私たちの行動の背後・根底にあるもの、それがvalue>です。


例えば、

・1:車を購入する際、A氏は<たくさん人が乗れること>を重視した。かくして彼は、セダンではなくてワンボックスカーを買った

・2:なぜ<たくさん人が乗れること>を重視したのか?それは、A氏が<家族を大切にしたい>というvalueの持ち主だからだ。そう、彼は「家族揃って出かけたい」と考え、乗車定員を重視したのだ

……なんて具合ですね(【参考文献F】で紹介されている例を一部改変)。


▶【Point2】valueは比較的持続性が高い

私たちの意見や態度は、その時々の状況に応じて変化するものです。堅苦しい言葉を使えば<状況依存的>。


しかし、valueは違います。そう易々とは変わらない。

「大地震をきっかけに価値観が変わった」という方がいらっしゃいますが、つまりは大地震でもなければ変わらないもの、それがvalueなのです。


マーケターはなぜvalueを重視するのか?


<1>

さて。

マーケティングの世界ではこのvalueが大変に重視されており、多くのマーケターが「人びとのvalueを理解しよう」「人びとのvalueに沿った商品やサービスを作ろう」と奮闘しています。


一体なぜでしょうか?


<2>

答えは明白です。

だって、valueは私たちの行動を規定しているのです。その上、持続性が高い。

つまり……

・valueに沿った商品やサービスを作れば、比較的長期間に渡って売れ続ける期待が持てる!

・valueに沿った広告宣伝を打てば、人びとの心に響く可能性が高い!


多くのマーケターがvalueを重視するのも納得ですよね。


valueそれ自体を理解するだけでは不十分


<1>

というわけでvalueの意義をご理解いただけたかと思いますが……しかし!よりよいマーケティングのためには、じつは、valueそれ自体を理解するだけでは不十分です。

どういうことか?


<2>

だって考えてみてくださいよ。

例えば、「世の中に<家族を大切にしたい>というvalueを持つ人がいるらしいぞ」とわかったとしましょう。……しかし、それがマーケティングに役立つのでしょうか?


「よーし!<家族を大切にしたい>と思っている人向けの商品を作るぞ!」と張り切ったとして、その情報だけで作れるでしょうか?

「よーし!<環境にいいことをしたい>人向けのCMを作るぞ!」と腕まくりをしたとして、いかがでしょうか?その情報だけで本当に作れますか?


……たぶん無理ですよね。


<3>

そう、valueのみでは足りないのです。

ポイントは【そのvalueが、どのような行動(消費行動・商品選択行動)や商品につながっているか?】を理解すること!!


例えば、

・1:<家族を大切にしたい>というvalueを持つ人がいる

・2:彼は【家族を大切にしたい → したがって家族揃って出かけたい → ゆえに家族皆で乗れる車がほしい】という理由でワンボックスカーを購入した

……というところまでわかっていたらどうでしょうか?

ここまでくれば、「家族皆がもっと楽しめる車を作れば売れるんじゃないかな?」「『この車に乗れば家族揃ってお出かけできますよ!』とアピールするCMを作ってみるか!」「『家族』の中にはシニアや乳幼児も含まれるよね。ということは!」なんて風に、アイデアや気づきにつながるはずです。


<手段-目的連鎖>、登場!


<1>

重要なのはvalue、そして<valueと行動や商品のつながり>です。


で!

ここで登場するのが、<手段-目的連鎖(means-end chain)>なる考え方です。


【参考文献G、H】によると……

・1:<手段-目的連鎖>の起源は心理学にある

・2:後にマーケティングの世界に持ち込まれた

・3:現在最もよく知られているのは、GutmanとReynoldsによって考案されたモデルである(【参考文献B、C、H】を参照)


ここからは、このGutmanとReynoldsのモデルに基づいて議論を進めます。


<2>

<手段-目的連鎖>は、【valueとattributeのつながり】を説明するものです。

※attribute:商品やサービスの持つ属性、特性。機能はもちろん、商品名、デザイン、パッケージ、価格なども含む。【参考文献J】曰く、「製品の客観的・物理的特徴で、消費者が直接知覚できるもの」。


<3>

それではまず、【参考文献H】に紹介されている例をご覧いただきましょう。


・Step1:A氏が「塩味のスナック」を買った。注目すべきは、そのスナックの「味が濃い」ということだ

・Step2:濃い味ゆえ、たくさんは食べられない。つまり「食べる量が減る」

・Step3:食べる量が減れば、当然「太りづらくなる」

・Step4:太りづらくなれば、自然と「見た目がよくなる」

・Step5:見た目がよくなれば、「自分に自信を持てるようになる」


・結論:A氏が塩味のスナックを買ったのは、「味が濃い」というattributeが「自分に自信を持ちたい」というvalueを実現するのにマッチしたから


……これこそが<手段-目的連鎖>です!


<4>

前掲の例について詳しくご説明しましょう。


▶【Point1】各Stepは因果関係になっている。つまり<原因と結果の連鎖>である

前掲の例は、【そのスナックは「濃い味」だから「食べる量が減る」】→【「食べる量が減る」から「太りづらくなる」】→【「太りづらくなる」から「見た目がよくなる」】→【「見た目がよくなる」から「自分に自信を持てるようになる」】という具合に、因果関係になっています。


ご注目いただきたいのは、<A氏は「濃い味」というattributeゆえにそのスナックを買ったわけではない>という点です。彼は「自分に自信を持ちたい」というvalueにフィットするから買ったのです。

「濃い味」というattributeは、最終的な目的(「自分に自信を持ちたい」)を実現するための手段に過ぎません。


▶【Point2】「A氏が塩味のスナックを買った理由 = 味が濃いから」で終わらずに、「ではなぜ味が濃いものを買ったのか?」と追及を続けている

valueにぶち当たるまでしつこく追及すべし!

これが最も重要なポイントです。

「味が濃いから」なんて浅い段階で終わってしまってはいけません。よりよいマーケティングのためには、valueにたどり着くまで追及を続ける必要があるのです。


▶【Point3】「A氏が塩味のスナックを買ったのは、自分に自信を持ちたいからだ」という結論のみならず、attributeとvalueの間の要素も可視化されている

上述の通り、【A氏が塩味のスナックを買ったのは、「味が濃い」というattributeが「自分に自信を持ちたい」というvalueを実現するのにぴったりだったから】が結論ではありますが……これだけでは意味不明ですよね。「はぁ?スナック菓子が自信につながる?何言ってんだ?」という感じじゃないですか。

しかし<手段-目的連鎖>では、その間の要素も可視化される

ゆえに、人びとがどういう理屈でその行動に至ったのか理解することができます


<手段-目的連鎖>から<ラダリング>へ


<1>

<手段-目的連鎖>はわかりやすい!

valueと行動・商品のつながりをあんな風に可視化できたらマーケティングの役に立つに違いない!


……が、しかし。

どうやって可視化すればいいんだ!?


<2>

お待たせしました。

ここで登場するのが、いよいよラダリング法です。


【参考文献D、F】によると、

・1:<ラダリング>は、元々は心理学で使われていたテクニックである

・2:それがGutmanとReynoldsによってマーケティングの世界に持ち込まれ、<手段-目的連鎖>を可視化するための手段として理論化された(【参考文献B、C、H】を参照)

・3:そして1980年代以降、マーケティングの現場で使われるようになった


<3>

なお、<ラダリング法(laddering technique)>と言った場合、一般的には、

・調査手法(インタビュー法)

・分析手法(インタビュー結果をまとめて価値マップを作る方法、複数の価値マップを統合する方法 etc.)

……の両方を指すことが多いようです。


また、前者は「ラダリング・インタビュー/ラダー・インタビュー(ladder interview)」と呼ばれる場合もあります。

※余談:英語版wikipediaには「ladder interview」のページがあります。「laddering technique」のページはないのに!


ラダリング法の実際【分析手法】


<1>

ここからは、ラダリング法についてより詳しくご説明していきます。

※補足:「ラダリング法」と一口に言ってもいくつかのやり方があるようですが、私の知る限り、日本のマーケティングリサーチの現場で最も知られているのはGutmanとReynoldsの技法です。以下、この技法に基づいて議論を進めます(【参考文献B、C、H】を参照)。


<2>

まずは、最終成果物を確認しておきましょう。

こちらです!


画像1

※【参考文献J】に掲載されている価値マップを一部改変


<3>

ここでは、一番右側のつながりに注目してみましょう。


画像2


すなわち、

・Step1:ビジネスクラスの魅力は<乗務員の応対が行き届いている>ことです

・Step2:だって<希望がすぐにかなえられる>んですよ!

・Step3:それってつまり、<イライラせず快適に過ごせる>ということです

・Step4:要するに、<大切にされているという満足感>を味わえる!もう最高!

……ということになります。


valueとattrributeのつながりが見事に可視化されていますね!


<4>

なお、valueとattributeの間には、objective benefitsubjective benefitという2つの階層が設けられています。


画像3


それぞれ、

・objective benefit:「客観的ベネフィット」「機能的ベネフィット」などと訳される。attributeから直接引き起こされるベネフィットで、論理的な内容になることが多い。

・subjective benefit:「主観的ベネフィット」「情緒的ベネフィット」などと訳される。心理的な内容になることが多い。

……という具合なのですが(【参考文献J】を参照)、まぁぶっちゃけた話、実務ではあまり気にしなくていいと思います


というのも……

・リサーチの現場では、valueとattrributeの間の階層は全部まとめて「benefit」と呼ぶことが多いかと思います

・前掲の図は4階層になっています。しかし私は実務で、3階層のものから8階層くらいのものまで作った経験があります


とにもかくにも、重要なのは【valueとattributeのつながりを階層的に描く】ということ。「それ以外はおまけだ」くらいに認識しておけばいいと思います。


<5>

なおこの図は、

・価値マップ/価値体系マップ/バリューマップ(value map)

・階層的価値マップ(hierarchical value map)

・価値構造図

……と呼ばれることが多いようです。


<6>

以上、最終成果物 = 価値マップについてご説明してきました。


<インタビュー結果をまとめて価値マップを作る方法>や<複数の価値マップを統合する方法>などについては、【参考文献E、F】をご覧ください。いずれも平易な日本語文献で、かつかなり丁寧に記述されているのでお勧めです。

さらに詳しく知りたい方には【参考文献B、C、H】がありますが、英語文献で、しかも決して読みやすい文章ではありませんので、あまりお勧めはいたしません。


ラダリング法の実際【調査手法】


<1>

続いて、調査手法

ラダリング法では、一般的にはパーソナルインタビューが用いられます。


ただし、グルインや簡易インタビュー(CLTのような形式)、あるいはネットリサーチのFA回答欄を使う場合もあるようです。


<2>

ラダリング法の最大の特徴は、その訊き方にあります。


というのも、「どうして○○を買ったのですか?」といった通常の問いかけでは、たいていの場合、atrributeレベルの回答しか引き出すことができません

例えば、

・「なぜそのスナックを買ったのですか?」→「塩味だからです」

・「ビジネスクラスの魅力は何ですか?」→「乗務員の応対が行き届いていることです」

……なんて具合ですが、これじゃあダメですよね

使いものになりません。

だって私たちが知りたいのはその先にあるbenefitであり、そしてvalueなのだから。


<3>

そこで、我らがラダリング法の出番です!


ラダリング法では、

・Step1:モデレーター「なぜそのスナックを買ったのですか?」

・Step2:調査参加者「塩味だからです」

・Step3:モデレーター「なぜ塩味を選んだのですか?」

・Step4:調査参加者「味が濃いからです」

・Step5:モデレーター「なぜ味が濃い商品を選んだのですか?/味が濃いことはあなたにとってどんなメリットがあるのですか?」

……という具合に【簡単な問いかけ → 回答に対してさらに問いかけ】を繰り返す

そう、valueに到達するまで何度でも繰り返すのです。


<4>

以上、インタビュー法の特徴をご説明してきました。


詳細は、【参考文献E、F】をご覧ください。いずれも平易な日本語文献で、かつかなり丁寧に記述されているのでお勧めです。


また英語文献ではありますが【参考文献D】には、

・【参考文献E、F】とはやや異なるインタビュー法が載っている

・「何度も「なぜ?」「なぜ?」と訊いていくと、調査参加者が飽きてしまったり、イラッとしてしまったりすることがある。どうすればいい?」といったFAQも載っている

……ので、こちらも参考になると思います。


ちなみに【参考文献D】はマーケティングリサーチャーではなくUXリサーチャーが書いた文章ですので、UXリサーチャーの方にはこちらの方が馴染みやすいかもしれません。


最後に……結局ラダリング法って何だっけ?


<1>

ラダリング法を理解するには、valueと<手段-目的連鎖>について知っておく必要があります

ゆえに本記事は、①value → ②<手段-目的連鎖> → ③ラダリング法とご説明してきました。


<2>

しかし!

例えばクライアント様から「ラダリング法って何でしたっけ?」と問われた時に、「えー、そもそもvalueというものがありまして……」「GutmanとReynoldsという人がいるんですが……」なんて延々と説明するわけにはいきませんよね。

サクッと手短に解説する必要がある。

そんな時に何と言えばいいのか?


というわけで、最後に【参考文献J】の文章を引用しておきます。ご参照ください。

消費者は、製品の属性それ自体を買うのではなく、それによってもたらされるベネフィット(便益)を買う。そして、このベネフィットは、彼ら個人の価値観に左右される。この考えの枠組みに沿って、ラダリングは、製品(=財やサービスの属性・特性)と人(=人の価値観)との間にハシゴ(ladder)を架け、両者を連結して、製品属性(product attributes: A)、製品がもたらす客観的ベネフィット(objective benefits: OB)、主観的ベネフイット(subjective benefits: SB)、消費者の価値(consumer values: V)の論理的な結びつきを発見して、所与の製品が消費者にとって、どういう意味を持つかを明らかにするものである。


以上です!

皆さん、ぜひ参考にしてみてくださいねー!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?