6. 上京した理由と危険な大人たち③

地元にいた頃からの友達であり、大好きなミュージシャンであった彼女を、どこまでも失望させ、二度と東京に行きたくない、と言わせた男。

後々彼女から詳しい話を聞いて、私の知らないところでたくさんの問題が起きていたことを知った。起きる問題も、それに対する解決法も、私には理解しがたいものばかりだった。

もっと自分でなんとかできなかったのか?と、彼女に思ったこともある。だけど彼女は18歳で、初めて上京して、何の身よりもない状態で、頼れる人がその人しかいなかったのだ。私は社会に守られていて、自分のことに夢中で何も気付いていなかった。

その後も何度か、私は彼女が東京に来て一緒にバンドをやってくれたら、と夢を描いたけれど叶わなかった。彼女には強い東京への拒否感があった。
彼女は、やがて地元で生き生きと働くようになった。ミュージシャンとしての彼女への憧れから、最後まで名残惜しい気持ちもあったけど、地元で幸せそうに暮らす彼女を見るうちにこれでよかったのだ、と思うようになった。

一方その男は、また地方を転々としていた。東京で所属バンドのメンバーに借りさせていた部屋は解約し、そのバンドも一人また一人と去って解散した。東京に残った人々はバラバラになったようだった。

私とその男の連絡は、完全に途絶えた。

そこから数年。私は大学生活の終わり、念願のイベント関連会社への就職を決めた。

一安心してぼんやりと散歩していた夜、見慣れない番号から電話がかかってきた。

それは、地元から上京してきたミュージシャンの一人、年上の男性からの電話だった。彼はいろいろあった後でも東京で音楽活動を続けていたようだが、連絡は年に一回あるかないかだった。

私「はい」
地元ミュージシャン「もしもし、蓮理ちゃんと話したい人いるからかわるね」
危険な男「よー俺東京戻ってきたんだよ。これからまた俺とイベントやろうぜー」

あのときの電話越しに感じた恐怖感を私は忘れないだろう。

男は地方の仕事が終わったのかなくなったのか分からないが、また東京に帰ってきていたのである。
しかも、今度はその地元ミュージシャンの家に転がり込んでいるとのことだった。
電話の向こうからは男たちのひたすら酔っ払った、いきがった声が聞こえていた。俺たちなら天下取れるぜ、一緒にやろうぜ…

多分、高校生のときに見ていたこの男も、こんな感じだったのだ。酔っ払い、人を騙して、傷つけて、気付かないふりをしてまた酔って、大きなことを言って、純真な人間を利用する。

私に判断力がなかっただけだ。今ならわかる。この男は何も懲りてない。何も変わってない。

せっかく私が掴んだ幸せな前途が壊されてしまう。強い心を持て!と、ドキドキしながら電話で息を呑んだ。

私はもう自分でやりたい仕事が決まったのであなたとは関わりません。

ここまできっぱり言えるほど強くはなかったけれど、近いことは伝えられた。完全に、その危険な男との関わりを終わらせるために。

言えてよかった。今も心からそう思う。

噂では、今その男は何かの罪で逮捕されて、収監されているらしい。

友人があの男に随分傷付けられたことは、未だにあと味が悪い思い出だ。
だけどあの男がいなかったら、多分今の私はここにはいない。 イベント関連の仕事にはついたかもしれないが、上京はしていないと思うとときに複雑な気持ちになる。

私の人生を確実に変えた人。でもできればもう二度と、出会うことのないように願っている。

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