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50代半ば。 背は低く、蟹股で、黒縁四角眼鏡。笑わない。孤高。

おじさん。中国人のおじさん。

歳のころはどうだろうな。50代半ばといったところ。

だが、吉川晃司、阿部寛、唐沢寿明、東山紀之、上川隆也、本木雅弘、仲村トオル…なんかと横に並んで「同級生だよ」って言って「だろうね」となるかと言えば、まあならないことは間違いない。
背は低く、蟹股で、黒縁の四角い眼鏡をかけている。
笑わない。孤高。

もう何年もボディコンバットのクラスにいる。
いつも左の隅の鏡の真ん前に陣取っている。

音楽がスタートして全員がファイティングポーズをとり、
ボディコンバットのクラスが始まる。みんなの体が揺れる。
右のジャブ。ジャブ。ジャブ。

左のコーナー鏡前のおじさん。ジャブ、ジャブ、ジャブ。
でもおかしい。みんなと動きがずれている。

音楽的な難しいことは俺にはわからないので説明がしにくいが、
おじさん、みんなより1テンポだか、半テンポだか、2テンポだが、とにかく動作を早く行うのだ。ジャブもパンチもキックも早くやる。

言っておくが、ジャブがプロボクサー並みに「速い」のではない。断じてない。ただただひたすら、リズムに合っていないのだ。

それがわざとであろうことは察しが付くが、なんのためだかさっぱりわからない。

おじさんが曲によって違う振付(でいいのか?)をみんな覚えてるとするならば、「どうだ、どうだ。俺はてめえら愚民とは違うぜ。振付はみんな頭に入っているんだ。インストラクターレベルのコンバッターなんだぜ。みんな俺を目指せ!」というメッセージを表現し続けているともとれよう。

しかし、全くそうではない。とっかかりはしどろもどろなのだ。
それでしばらくあって「はいはい、このパターンね」とでも言いたそげに、例のちょい早のテンポでやり始める。 その意味は何???

そしてそのパンチ、キックにキレがあり、腰もばっちり入ってかっこいい…っていうならまだ百歩譲ろう。

しかし、全くそうではない。腰なんか一つも入っていない。手をぶらぶらして、足をぴょこぴょこやっているだけだ。合わせてピョコピョコみぴょこぴょこなのだ。

なんだろう。
どうしてこのおじさんは、音楽に合わせない?
どうしてちょい早で、動作を行うのだ。

どうしてそれがアッパーカットなのだ。それはドジョウすくいだぞ。

オージーのインストラクターは個人指導的なことは一切しない。
おじさんがドジョウすくいをしていようが、おばさんがハワイアンを踊っていようが特に指摘をしたりしない。

一応は「こうするんだ」と例を見せていても、その結果みんなができようができまいが放置。

だからおじさんの謎のコンバットは長らく続いているのだ。

リズムよりちょっと早く動いて、わざとリズムに合わせない。
それに何の意味があるのか一向にわからない。

50代半ばくらいの中国人のおじさん。
背は低く、蟹股で、黒縁四角眼鏡。髪もそろそろあやしい。
笑わない。孤高。

なかなか奥が深いのだ。


※写真は「鍋先生」の餃子

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