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「新しい価値をつけてマイナスをプラスに」食べ物を無駄にしない、つくり手としての想い|菓酒店jiraオーナー 山田 知佳さん・後編 【Rename meets】

「菓酒店jira」は『甘いものとお酒、時々つまみを楽しむお店』というコンセプトで、2019年7月に名古屋にオープンしました。

前編で、「菓酒店jiraを人が繋がる場にしたい」と話したオーナーの山田さん。そのような空間づくりに対するこだわりがあるため、お客さんに抱く想いがあるようです。

今回の後編では、その想いや山田さんの「ものに対する価値観」、今後のお店の展望について伺いました。

▼前編はこちら
「記憶に残るスイーツと、人を結ぶ空間をつくりたい|菓酒店jiraオーナー 山田 知佳さん・前編」

「この空間を大切にしたい」、つくり手としての想い

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ー菓酒店jiraでは、撮影メインのご来店はお断りされていると聞きました。それも、空間づくりに対するこだわりがあるからなのでしょうか。

山田:そうですね。カメラがあると、私が大事にしているこの空間が壊れてしまうんです。

私だったら、大好きなお店に来てお酒とスイーツをいただいて「ああ幸せ」というときに、隣でパシャパシャ写真を撮られたらすごく嫌です。やっぱり空気が台無しになるので。

写真を撮るのは悪いことではないのですが、周りに気を使ってほしいと思います。

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山田:あとは、「写真を残すよりも目の前にあるスイーツを楽しんでほしい」という、つくり手目線の意見もあります。

私たちつくり手は、料理やスイーツをベストな状態で出します。少しでも時間が経って味や状態が変わると、その価値は急激に下がってしまうんです。

できあがったときの最高な時間を撮影で無駄にされると、つくった私としてはがっかりです。これは、どうしてもつくり手目線の話であって、人それぞれ価値観が違うのはわかるのですが……。

ーつくり手とお客さんの欲求の、ちょうどいい落としどころを見つけるのは難しいですよね……。

理想のお店にするための、内装とSNS発信の工夫

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ーほかにもお店づくりでこだわっている点はありますか?

山田:内装ですかね。男女問わず入りやすいお店にしたいと思っていて、なるべく女の子過ぎない雰囲気にしています。

壁やテーブル、照明など色のトーンを全体的に下げたり、余計な飾りつけはしないようにしたり。

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山田さん「買ってきたものを家で食べるのもいいですけど、人が目の前で手を加えてくれたものを食べる方がより美味しく感じませんか? カウンター席なので、スイーツができあがるまでの過程を含めて楽しんでほしいです。」

ーお店づくりにおいて、SNSでの発信も重要だと思います。インスタグラムで意識していることはありますか?

山田:いわゆる「映える」写真は少なめにして、あまり人気が出すぎないようにすることですかね(笑)。

ーえっ、それはなぜですか?

山田:小さなお店なので、開店前にお店に並ばれるとすぐに満席になってしまい、入れなかったお客さんは外で待ってもらうことになります。そうすると、時間に追われてお客さんとゆっくり会話もできなくなるし、お店の雰囲気も壊れてしまいます。

また、うちはその日にあるものでスイーツやおつまみをつくるので、インスタグラムで誰かが載せたものと同じものを食べられるとは限りません。そういうとき、お目当てのものがないとわかるとすぐに帰ってしまうお客さんもいて……。

それって悲しいですし、もったいないなとも思います。スイーツはほかにもあるし、せっかく行きたいお店に来たなら、その空間を楽しめれば十分だと思うのに。なので、インスタグラムでは商品紹介はなるべくしないようにしています。

ケーキ屋時代に身につけた「ものを大切にする」考え方

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ーRenameのどういうところに共感していただけましたか?

山田:余剰在庫の問題に取り組んでいるところです。私は、そういう取り組みは全員がやるべきだと思います。つくったものは最後まで責任を持ってなんとかするのが当たり前です。

特に個人の飲食店だと、余ったものを捨てるなんてありえない話。「商品を失敗した、出せなくなった」「じゃあそれをどうするか?」まで考えるのが仕事です。失敗作にも材料費や人件費など、お金がかかっているわけです。

そこでただ捨てるのであれば、損失にしかなりません。でも、もし新しい価値をつけられるとしたらお金が生まれて、プラスのものになります。

ー山田さんは、失敗したものにどうやってプラスの価値をつけるのですか?

山田:スポンジを焼きすぎたら粉々に砕いて違う生地に混ぜたり、パウンドケーキを焼きすぎたら薄く切って焼き直してラスクにしたりします。

そうやってできたイレギュラーな商品を「今日だけ限定ですよ」などと販売したら、さらに付加価値がつきます。それで味も良かったら、最高じゃないですか?

私は今まで当たり前にそうやってきたので、服も同じようにしたらいいんじゃないかなって思います。

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ー山田さんのその「ものを大切にする」考え方は、どのように身についたのでしょうか。

山田:以前ケーキ屋さんで働いていたときに、みっちり教育されたんです。

当時、私が手近にあったものを何気なく捨てたことがあって、そのときにものすごく怒られました。「なんで今勝手に捨てたの?」と聞かれて、「もういらないと思ったから」という答えしか浮かびませんでした。私はごく自然にしたことだったので、最初はなぜ怒られているのかも理解できなかったんです。

でも、「今捨てたものにはお金がかかってる。そして、そのお金を払ったのはうちの社長。あなたに捨てる権利はない」と言われて、ようやく理解しました。

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山田:たとえば、ケーキをつくるときにも、ボウルにほんの少し生地が残っていたら怒られました。もちろんそれは1~2グラム程度ですが、「同じことを10回やったらいくらになるの」とよく言われましたね。

つまり、「もの=お金」なんですよ。そういう教育を受けて、私のものに対する価値観は変わったんだと思います。

他店と繋がる、お客さんへの付加価値を増やす……菓酒店jiraで今後やりたいこと

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ーほかに、環境問題などに貢献しているような取り組みはありますか?

山田:お酒を出すので炭酸水をよく使うのですが、一般的なペットボトルのものは買わずに、瓶のものを酒屋さんから仕入れています。瓶は酒屋さんに返せば、再利用してもらえるので。

瓶を洗って溜めて返すのは多少面倒ですし、ペットボトルで買うよりも割高ですが、それは環境に配慮してやっています。

ー最後に、菓酒店jiraの今後の展望を教えてください。

山田:今はここだけの空間で、お客さんが来て私がつくったスイーツを食べて帰ってもらう、というのが完結しています。そうじゃなくて、もう少しなにか新しいことができないかなと思っていて。

たとえば、まったく違うジャンルのお店と繋がりを持ったり、ここで出会えた人たちのネクストアクションを導くものを提供したり……かなりふわっとしているんですけどね。

あとは、もっと菓酒店jiraを自分の思うようなお店にしていけたらなと。私の中で、菓酒店jiraの空間やお客さんの理想像は、かなりはっきりしているんです。その理想により近づいていきたいですね。

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捨てられるはずだったものも、
工夫次第でプラスの価値を持たせることができる。

山田さんの「ものを大切にする」考え方は、
飲食にもアパレルにも必要な考え方です。

そんな山田さんがつくる最高のスイーツと空間
体験したい方は、菓酒店jiraにぜひ遊びにきてください。

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▼菓酒店jira
住所:
〒464-0074 愛知県名古屋市千種区仲田2丁目14-19
営業時間:15:00~22:00/17:00~22:00、不定休(予約不可)
Instagram:@kashuten_jira

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執筆・撮影=中原 愛海