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記憶に残るスイーツと、人を結ぶ空間をつくりたい|菓酒店jiraオーナー 山田 知佳さん・前編 【Rename meets】

愛知県名古屋市の池下駅と今池駅の、ちょうど中間あたりにお店を構える「菓酒店jira」

『甘いものとお酒、時々つまみを楽しむお店』というコンセプトで、2019年7月にオープンしました。それから数ヶ月、お客さんの足は今も途絶えません。

菓酒店jiraが人々を引きつける魅力の中に、美味しいスイーツと素敵な空間があります。それらを手がけるオーナーの山田さんに、実現したい理想のお店の姿を伺いました。

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さまざまな飲食店での経験を活かして、自分の理想のお店をつくった

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ー菓酒店jiraはどのようなお店ですか?

山田:お酒とスイーツがメインで、おつまみも少し用意しているお店です。

お店って、カフェ・ケーキ屋・居酒屋・バーのようにカテゴリ分けされると思うのですが、菓酒店jiraはその集合体というイメージです。簡単にお店を説明するときは「カジュアルバー」と言っています。

ーお店を開いた経緯を教えてください。

山田:もともとお菓子づくりが好きで、高校も専門学校も製菓系に進みました。卒業後は、ケーキ屋さんやレストラン、カフェなど、あらゆる飲食店で働きました。とにかく、いろいろと経験してみたかったんです。

前職のKANNON BAKE(現KANNON COFFEE本山店)というコーヒースタンドでは、店長もやらせてもらえました。店長の仕事をやる中で、お菓子づくりだけでなく、お店づくりのノウハウや経営についても学ぶことができました。

これらの経験をすべて活かして、自分の理想のお店をつくろうと思い、菓酒店jiraを開きました。

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ーお菓子づくりを好きになったきっかけはなんですか?

山田:小学生のとき、よくお菓子をつくって友達に渡していました。食べてもらって、喜んでもらえたかどうかに関係なく、反応を見るのが好きだったんです。

たとえば、自分的に納得いかなかったものを食べてもらって微妙な反応をされると、「私と一緒の感覚だな」と思います。逆にすごく美味しいと言われると、「感覚が違うんだ!」ってびっくりして。

なんというか、同じものに対する感じ方が人によって違うところに、面白みを感じていたのだと思います。

あ。もちろん、お菓子をつくる過程も大好きですよ。

驚きとワクワクを届けるスイーツ

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ー菓酒店jiraのスイーツは、どのようなところにこだわっていますか?

山田:意外な組み合わせの食材を使うことで、お客さんに驚きやワクワクを感じてもらうことです。

うちのメニューに絵はほぼなくて、説明書きだけ。そのため、頭の中で「どんな見た目なのかな、どんな味なのかな」って想像してもらえると思います。想像している間のワクワク感と食べたときの驚きによって、記憶に残るようなスイーツにしています。

ーたとえば今だと、どういうメニューがありますか?

山田:塩とスパイスのチョコレートケーキや、苺に塩やハーブをあえてマリネにしたものを添えたブランマンジェ、ゴルゴンゾーラのチーズケーキです。

ー本当に面白い組み合わせばかりですね。

山田:メニューにはそれぞれのスイーツに合うお酒も載せています。そのスイーツとお酒の組み合わせも、意外でかつ美味しいものを意識していますね。

たとえば、チーズケーキに合わせるお酒はワインが一般的ですが、うちのゴルゴンゾーラのチーズケーキには冷酒をおすすめしています。このペアリングは結構驚かれますね。

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山田さんイチオシのゴルゴンゾーラのチーズケーキと冷酒のペアリング。この日は、岡山県の地酒「菩提酛にごり酒」でした。(※同じメニューは店頭にはない場合があります)

ーたしかに、チーズケーキと冷酒は想像できない……。

山田:あくまで推奨しているだけなので、チャレンジしない人もいます。チーズにはワイン、ケーキにはコーヒーだろって。それもいいんです。

でも中には挑戦して頼んでくださる方もいて、「これ美味しいね」って言ってもらえると、「よし!」って思います(笑)。

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山田さんが編みだした「スイーツの方程式」。それは甘味に加え、酸味・塩味・コク・食感を取り入れること。ゴルゴンゾーラのチーズケーキにも、白いサワークリームソース(酸味)、チーズ(塩味)、キャラメルソース(コク)、表面に散りばめられたクッキー(食感)が使われています。まさに驚きとワクワクが詰まったスイーツです。

「素材にこだわりすぎない」、自分らしさを貫くお菓子づくり

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ースイーツの素材へのこだわりはありますか?

山田:化学調味料がなるべく含まれないものを選ぶようにしています。あとは、フルーツは国産のものを取り寄せたり、お砂糖はグラニュー糖だけでなく栄養価の高いきび糖も使ったりします。

でも、本当に素材にこだわっているお店と比べると、正直うちはぜんぜんだと思います。バターや生クリームは一般のものを使いますし、フルーツ以外は産地もそこまでこだわりません。

なんというか……私は常に、人の逆をいきたいんですよね(笑)。

ーどういうことですか?

山田:だいたい今、どこのお店も素材にはこだわっています。国産だよ、地元の愛知県産だよ、繋がりがある◯◯農家さんで採れた安心・安全なものだよ、って。

じゃあ私は、「その辺で売っているような普通の素材でも、こんなに美味しくなるよ」って伝えたいと思ったんです。

良い素材は、その素材そのものの味を楽しむべきだから、素朴な味付けの方がいいと私は思っています。でも、私のお菓子づくりのスタイルだと、どれだけ良い素材を使ってもその味を邪魔しちゃうんですよ。ハーブを混ぜたり、スパイスを加えたりするから。

だから、私は私のやり方でお菓子づくりをした方がいいし、私自身その方がやってて楽しいなと思ったんです。

ー素材を活かそうとばかりすると、スイーツに山田さんらしさが出せなくなってしまうのですね。

山田:でも、お酒はそのまま飲むものなので、質の良いものを選んでいます。

たとえば、ワインはナチュラルワインを使っています。市販のワインは酸化防止剤が入っていて、えぐみ・渋み・酸味などが強くなってしまいます。でも、ナチュラルワインは酸化防止剤をなるべく使用しないので、味が尖ってなくて、するっと体に入ってくるような感じなんです。

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お酒を通して、人と人が繋がる場所を提供したい

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ー菓酒店jiraの由来を教えてください。

山田:私が個人的に好きで、スイーツにもおつまみにもよく使う「ディル」というハーブがあります。その別名が「ジラ」なんです。

香りや味が良くて、ケーキに乗せるとなんだか色気が出る感じもして。あと、一般的なケーキ屋さんがあまり使わないところも気に入ってます(笑)。

それから、「ジラ」って言いやすくないですか?私はやたら長くておしゃれな名前じゃなくて、「今日ジラ行こうよ」みたいに、みんなが口に出しやすい名前が良かったんです。

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「ディル」、別名「ジラ」というハーブ。スイーツだけでなく、料理にも使われます。

ー山田さんは、菓酒店jiraをどのような場所にしたいですか?

山田:お酒を通して、お客さんとお客さんが繋がれるような場所にしたいです。私自身、お酒を飲む空間や空気感が好きで。隣でお酒を飲んでいるだけで、「それなに飲んでるんですか?」って仲良くなれますよね。

でも、カフェでコーヒーを飲む人同士は、きっとそうはならない。それは、そのカフェにいるひとりひとりの目的が、はっきり決まっているからなんですよね。

だから、私は目的が一つじゃない人に集まってほしいと思います。「スイーツが食べたい」「お酒が飲みたい」だけじゃなくて、「ここに来たらなにか楽しめるかな」くらいのゆるい気持ちで足を運んでほしい。

そうして、ここで知り合いが増えたとか、なにかしらのプラスアルファを感じてもらえると嬉しいです。

ー実際に、「お客さんとお客さんが繋がった」ところを見たことはありますか?

山田:毎日ありますよ。私が調理スペースから戻ってくると、いつの間にか仲良くなっていたり、「ここの近くのあのお店美味しいよ」って情報交換していたり。

同じお店が好きな人って価値観が同じだから、気が合う人が多いんだと思います。

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菓酒店jiraにはスイーツにも空間にも
山田さんのこだわりがたくさん詰まっていました。

お客さんに提供したい価値と自分の理想、
そのちょうどいいところを突き詰めていく。

山田さんのお話から、そんな姿勢を感じました。
後編では山田さんの「ものに対する価値観」を伺います。
お楽しみに。

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▼菓酒店jira
住所:〒464-0074 愛知県名古屋市千種区仲田2丁目14-19
営業時間:17:00~22:00、不定休(予約不可)
Instagram:@kashuten_jira

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▼Rename meets公式サイトもぜひご覧ください!

▼後編はこちら!

執筆・撮影=中原 愛海