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夢のような魔法の恋をした 第14話

『彼女には刺激が強かった事と、逢えない彼とのFAX』

その電話は、応募した会社からだった。
「もしもし」
「○○○○さんのお電話でよろしいでしょうか?」
「はい。」
彼女は肩にチカラが入る。

「こちら、○会社と申します。この度はご応募ありがとうございました。ぜひ、私たちと働いて頂きたいと存じます。
7月1日から、こちらに来社は可能でしょうか?」
彼女は大きく目をあけた。
「ありがとうございます!是非お願いいたします!」

電話の後、彼女は喜びで泣き崩れた。
「DTP&Webスクール」の通学中、
DTP講座は修了し、Webのデザインを始めた頃
突然スクールが倒産した後の 応募からの採用連絡だった。

「お母さん、応募してた会社に受かったよ。」
初めての事務の仕事。
彼女はこの会社の社員になるつもりだった。

「良かったね。」母親は、喜んで彼女を受け止めた。
彼女は、会社のMAC課を希望していたが
スキャナー課に配属された。

後々知ったこと。
クレペリン検査、上位3位以内の3人が
将来の社員候補として、スキャナー課へ配属とされていた。

3人とは、
当時28歳のFちゃん
21歳のAちゃんと、彼女だった。
何はともあれ、その後の試用期間の1ヶ月間。
3人は懸命に仕事を覚え、各自に1人の先輩社員さんにつき、
共に教えあい、仲良くなっていった。

スキャナー課では、色の分解のことから説明は始まった。
実際の仕事の流れとしては
フィルムや写真などの原稿をもらう。
スキャニング作業をする。
Photoshopで様々な補正や加工などをする。
詳しくは割愛する。
その後の行程に合わせて画像を保存して、次の行程に渡す。

3人は
Fちゃんは、大型のドラムスキャナー
彼女は、ラノビア社のフラットベット型スキャナー
Aちゃんは、フラットベッド型スキャナー(人を選び、ご機嫌の良い時と悪いときのある中に人がいそうなスキャナー)

イラストに特化したスキャナーを担当する社員さんは、
今思えば、面白かった。
「(会社に)いるだけで金になる。」
Aちゃんは、それをその社員さんのマネをしながら
教えてくれた。言いながら爆笑している。

Aちゃんに合わせて笑いながら、
彼女は内心いつものネガティブ思考になっていた。
(まだ使えないバイトへのイヤミかな?)と。
正解は、わからない。

スキャナー課の課長は、体育の先生のように
明るく、優しく、ひょうきんで
時には穏やかに叱ってくれた恩人だった。

「この原稿自体、青かぶりしてるね。」
フィルムを課長がみながら、指導してくれるときもよくあった。
「スキャンしたら、トーンカーブで特にシアンを見てね。
メリハリもつけてね。後は全体を良く見てね!」
課長は笑顔でアドバイスして、去っていく。

指示を受けた先輩社員が、スキャナーとパソコンを操作する。
それを見て彼女は学ぶ。
彼女の先輩社員さんは、ここに入って1年目。
Photoshopで色調の調整に悩んでいるようだ。
それを見た彼女も一緒に考えていた。

沈黙がつづく。

課長がヒラリとやってきた。
「どう?調子は?」悩む先輩社員さんは、課長に聞いた。
この道、十年以上のプロは即断即決。
そして、機械操作もDOS時代からの賜物ではやい。
「こんな感じじゃない?」
彼女には課長が神様のようだった。

色調の考え方や勉強していることは、彼女の夢をも支配した。
彼女の寝言「シアンが多いムニャムニャでムニャ、?」
自分の声で目が覚めた。


8月になった。

試用期間を終えて、3人は正式にスキャナー課所属となった。
それぞれが、さらに仕事へ懸命に取り組んだ。

新たに、スキャナー課へ勤める「女性」への試練が始まった。

1つの大きな機械を、黒いカーテンが囲んでいる。
課長は指示した。「R、アタリをつけてきて。わからなかったら、呼んでね。」
最初の頃は、アタリをつけることが一苦労だった。
それはよかった。
彼女への試練はこれから。。。

原稿は、AVやエッチな雑誌のまだ加工されていないものがあった。
彼女は暗いカーテンのなかでその原稿を透過して拡大した時、とてつもない衝撃を受けた。まだ、彼女は18歳だ。

大事なことなので、再度述べるが
アタリをつけるためには、原稿をアップにすることもあった。
女性の裸体が透明だがドアップに映し出される。
それでも、冷静に仕事を間違えないように進めた。

カーテンを出るとき、自意識過剰な彼女は
どんな顔で席に戻ればよいのかと考えていた。
それも、時間とともに慣れていった。
聞いた話では、
先輩社員さんとなれば、見飽きているらしい。

また、Photoshopでの画像の簡単な角度調整、保存などは任せてもらえるようになってきた。

その頃、彼は佐野にいた。
この会社に入ってから、しばらく逢っていなかった。

彼女は佐野にFAXが、あることを思い出した。
思い付くままに、彼へのあいさつから
ドラム練習の労い、こちらでの軽い近況を綴った。
文章は完成していた。
美術の松永先生が言った。「あなたの絵はうるさい」が、頭をよぎる。

彼女は微笑みながら、紙の空白に絵を描きはじめた。
満足して、佐野に送ってみた。
数時間後、家にFAXが届く。
彼からだった。まともに見る、彼の文字は個性的だった。
文字から彼の声が聞こえるようだ。

何度も読み返して、彼女は大切に保管した。
その後もFAXのやり取りは、お互いのマイペースで続いた。
彼女の描くひまわりや、太陽、雲、キティちゃんなどに影響されたのか
彼も、文章以外にサルや自分の生活を絵にして送ってくるようになっていた。

離れていても、2人は想いあっていた。

8月末と9月に、彼女は佐野へ向かう。
佐野と東京で逢えない時期は
互いが絵を描いた文章付きのFAXをしあうようになった。

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