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野崎りこん "We Are Alive"を聞いた時に湧き上がった想起と風 ーーりこん入門の意味も込めて



「ルックバックfreestyle」のリリックが、さわやかなトラックにのっているからか、一聴目は全く絶望的には聞こえなかったのだが、Spotifyの歌詞を見なおしてから、このアルバムは、歌詞の内側に静かに悲しみを横たえているのだと気づく。

先日、JOYSOUNDのカラオケに行ってみた時に、なんとなく野崎さんの名前を検索にぶち込んだら本人映像が出てきてビビった。その時ふときちんと感想を書いていないことに気づき、勢いでSpotifyに全部ぶち込んだ曲と、YouTubeやニコニコ動画にOOPARTSのように散らばった、ネットカルチャーらしく色々危なげなアニメのサムネが付いた過去曲を聴き漁って聞く。すると今回の"We are alive"というアルバムが彼のディスコグラフィーの中で、どうも転換期的作品だったようだとまた気づく。

いや、転換しているかどうかはよくわからない。野崎さんのリリックは初期のころからとんでもない語感のギミックの中に、個人的過ぎて他の人に伝わらない固有名が出て来たかと思いきや、給食や和田アキ子や最近新約されたウルトラマンや初音ミクのように、ある世代の人に刺さる固有名を突き刺してくる。

個人的な妄想にも関わらず、いつの間にかこちらの脳みそを、ウイスキーの如く粘り強く、深い酔わせる韻律でハックしてくる。初期の曲からはそんな感じがしていた。

今回のアルバム"We Are Alive"もやっていることは変わらないように見える。でも、前の作品と聞き比べるといつのまにか「何か」が変わっているように聞こえる。


・野崎りこん とは 


敵を知り己をしれば云々というわけで、野崎さんのバックグラウンドを調べてみる。ちなみに私自身は、HIP HOPの知識についてはKREVA、RHYMESTER、いとうせいこう、Awich、海外ならEminem、Linkin Park、Kanye Westというように、どっちかというとメジャーで活躍している人なら知っている。ただ、クラブやフリースタイルダンジョン、実際のストリート(サイファー)とまでなると知らない。ロック畑の人間である。

野崎さんはニコニコ動画で動画を投稿しあう「ニコラップ」と呼ばれるコミュニティから来ている。いまもYouTubeで検索すると、大量のfeaturingとアニメのgifが付いた楽曲がそこらにバラまかれている。

SoundCloudやニコニコ動画を舞台にして、ネット上でDisやビーフが飛び交っていて、しかもそこではネットの検索能力で無限の語彙力を手に入れた各人がジャンルも事情も知らないながら、喧々諤々のバトルを繰り広げていたというのは、高校と大学の詳しいN.E.R.D友達に聞いた。

釈迦坊主、DAOKO、ぼくりり、電波少女、otao、百牙、Jinmenusagi、泉まくら・・・色々な固有名たちと一緒に曲を精力的に発表している。知っている人、知らない人が入り混じっている。どことなく現場主義になりがちなヒップホップにおいて、アンダーグラウンドの(これはいい意味で)視聴者も、ラッパー側も、お互いを知らないでニコニコ動画上だけで繋がる匿名のコミュニケーションは、秘密基地をいつの間にか作り上げてるようにみえることがある。

2009年頃「電波少女(でんぱがーる)」と呼ばれるユニットを結成するも、のちに脱退しソロ活動に専念。電波少女側はハシシ/NIHA-C/nice creamらで今も活動している。アルバム『Love Sweet Dream』を発表し、ソロ活動を開始する。

この曲の中で、歌の主人公は一週間の進んでいく日付に対して反抗を試みている。このモチーフは、イメージの形を変えて、野崎さんのリリックの中に何回も立ち現れてくる。

2014年には『コンプレックス EP』をリリース。インタビューによると、野崎さんはこの時期に大学を出てフリーターをしてモラトリアム全開だったという。たしかにこのアルバムは、極端にぼーっとしながら世界の様子を見つめて、ギターやサザエさんやアジカンや校舎3階の話をしている。いつの間にか、そのありふれた話からオフビートなフロウにのせて、ミライの不安や誰かの呼ぶ声や、過去の偶像の話にすり替わってしまう。
野崎さんが語っているのは「今」のはずである。しかし、出てくる話題は、おそらく1980~90年台にオタクと呼ばれた人にとっては馴染みがある内容であるがゆえに、そのリリックはある特定の人々をここではないどこかに連れ去ってしまう。

人は変わる。では変われない人は、なぜ変わらないのだろうか。


さらに2017年にレーベル術ノ穴より、『野崎爆発』をリリース。2019年には『Love Sweet Dream LP』を発売。トラックメーカーのタイプが曲ごとに違い、「Go Stupid」「ネオサイト神樂」「XYZ」のように、一歩間違えると不協和音すら混じっているトラックから、「青の9号」「Ama Yadori」「空を分かつ」のように、そのまま心地よくて寝てしまいそうなゆったりした懐古的な曲まで、そのすべてを唄い方をポエトリー調だったり、ZeebraさんやTwigyさんのような、他ラッパーから少しずつもらってきた韻の踏み方を取り入れているのがわかる。(特「Yo」の歌い方はカッコよかったし、いよいよ一つの歌詞に取り込まれる固有名詞の数が最大級に増えてきている。)

聴いていてぐっと胸をつかまれた気になったのは「Out Of the Loop」だった。これまでの歌詞は、確かに過去を回想するものは多かったが、この曲のリリックは、そこに「現在」からのプレッシャーが加わっている。リリックの流れをよく見ると、1st verse(教室で幸せだった過去)⇒2st verse(「現在から」見た過去・インターネットの異端児呼びされていた自分)⇒Hook⇒3st verse(現在・月額980円のSpotifyで聴かれる自分)⇒4st verse(自分の一番つらい父母の過去と、運命からの脱却)と、現在と過去をまた行き来するリリックだが、その行く先は、自分が辛い所を見返していく構造になっている。


彼は「変わっていない」。変わったのは周りの方である。

そして、運命の輪に入ることをすら彼は拒んでいった。

でも、友達の輪すらも願い下げて人はどこにいくのか。

輪を抜け出した人はどこに行ってしまうのか。



ここまで書いてふと気づいた。この記事はもともと"We are Alive"の感想を書くために手を動かしたものだった。でもいつのまにか過去作を触っているうちに、レビューを描き切ってしまった。何故だか脱線してしまった。もう一度最初に立ち返って、"We are Alive"のアルバムが何故、そのさわやかなトラックから始まったにも関わらず、悲しく感じるのかを聞きなおさないといけない。

noteを書く手はとまりそうにない。





"We Are Alive"の感想と回想


1.ルックバックfreestyle

野崎さんのディスコグラフィ―を振り返ったところで、もう一度冒頭の問いを振り返ってみよう。

野崎さんの作品で、過去への回想はラッパーらしい固有名詞を数珠繋ぎする方法で、あるいはストーリーにはならない情景描写(特に夏の日の描写)によって繰り返されてきた。アルバム冒頭のこの曲でも、確かに間違え続けたその日々を懐古するような歌詞がある。そこに悲しさがある。

しかし、そこには悲しさの「連鎖」がない。Out Of Loopで現在と過去を行き来するたびに自問自答を続け、友達がこのままではいなくなってしまうことに気づいた(『ラブ&ポップ』)

彼は、もう反省会なんてしていない。幻想か現実か、過去か現在かの区別も、もうここではよくわからない。そしてオチもつかないままに、僕たちの頭の中は、ふわふわした水色の世界に包まれていく。


2.「プールに金魚を放して一緒に泳げば楽しいと思った。

…だとすると、楽曲『ラブ&ポップ』で「プールの水で冷やす」と言い続けた繰り返した野崎さんは、映画の『ラブ&ポップ』を真似するために、プールにやってきたようにみえたりする。『ラブ&ポップ』で彼が歩いている下水道がエンディングの場面にだったりするのだ。これは禁断の多数決の方がいるとこからのこじつけだったりするかもしれないが、まあ、それでいいだろう。

プールの上に金魚が見えたりする世界を、ほとんどラップというより歌の形で、加奈子さんのふわふわしたボーカルと共になぞっていく。インタビューによれば、この歌詞は実際に起こった事件を元にしたものだという。ところで歌詞と違って、MVではこのプールの鍵はうっかりスイカバー1本で空いてしまっている。

3.summer haze 

「水」のイメージはさらに広がっていき、蜃気楼までひろがっていく。耳全体を覆うシンセのエフェクトにのせて、野崎さんの次々の問いかけと回想が繰り返されていく。この曲の主人公はどうも「おねがいツインズ」を見て見たり、SHING02の曲を聴いたり、どこかひねたところがある一方、エヴァはまだ見ていないオタクらしい。

4. 「We Are Alive」CM SPOT

と思って聞いていたら、突然00年代にアニメの間に挟まれるCMが挿入された。公式サイトも最近開いた新人の女性ロックシンガーの曲で、つい先日これも配信された。Official Web Siteの宣材写真を見ていて、変な既視感があった。なんでだろうと思って、3日くらいそのことを忘れていてから、Spotifyを漁っていて気付いた。この女の子、『野崎爆発』のジャケットの女の子に面影が似ている・・・

5. 50077 gecs feat.冴島さなぎ

とおもっていたら、次の曲がいきなり冴島さんの新曲だった。パキッと音の粒がはっきりしたギターにのせて、明るい曲が流れてくるが歌う二人は陰キャだ。ルークを検索したらネタバレふんじゃった・・・(小声)幻想は吹っ切れて、突然話が現在の現実に戻っている。やはり暗さは感じない……

(冴島さんのモデル、壊死ニキさんのnoteはこちら・・・)

6. MEMORIES feat. e5, Nosgov

…とまた思っていたら、また野崎さんの歌詞は回想にふけっていく。その思い出は「観たことがない」はずのものだという。

この曲を聞いているあたりから、私は自分の心にも不思議な感じを感じ始めていた。この曲を始め、"We Are Alive"の歌詞はかなり発話している人の一人称がぼかされている。

歌であるため、「私」という言葉は必須ではない。しかし主語不明の歌詞を聞き始めるうちに、「誰か」の声がきこえるような、というか、いつのまにか「ぼくら」の中に自分が巻き込まれている。そんな感触が、ある。

7.GTA's Easter Eggs and Some Nostalgia, そして8.夏の扉へ

北野武監督の映画の色あいが青いのは、雨が降ってファインダーの向こう側の世界が青色になったのが原因らしい。

「GTA~~」の曲が青く聞こえるのは、それはもう空の青さを想起させたり、蒼井優が突然やってきり、妄想も青かったり、LOWER POP HIGHER LTD.は多分曲名でもあり、歌手名でもあるのに、間違えたと勘違いした若さが、曲の中身を満たしているからだろう。

GTAには脈絡のない幽霊やパンツや最強武器がそこらかしこに埋め込まれているという。歌の中のひとことひとことにも、そういう言霊が含まれている。記憶を全て解除するためには、この映画とかを全部見て見る必要がある。しかも、この曲で伝えられている妄想は、誰の記憶なのかはわからない。「野崎りこん」の口から届いているけれど、この歌詞から伝えられる像が、果たして野崎さんのものなのか。

曲を聞きなおしながら考えていたら、突然オルガン?のような音が聞こえだして、拍手が巻き起こった。「GTA~」はエンドロールだったのか――と思った私の耳に、木琴の音が降り注ぐ。

畦道をかける誰かのエンドロール。最後の四行は、そらの向こう側の、自分が描き続けた夏の空に浮かぶ扉の方に足がじぶんから動いてしまう、それが無くてはいけない確信を本気でつかんだ時のこころ持ちがした。

おかっぱ髪の女の子、日常とかパンストとかそういうアニメの脳内で繰り返すワンページ、自分の生い立ち、話しかけられなかった女の子、ラッパーの仲間たち、そういうものの諸々は青く空にとけた。

ぼくらはそれを、しずかにみている。

ただ、なにもできずに、しずかにみている。






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以前、にじさんじの月ノ美兎委員長のnoteを(あれも半年以上たってみると恥ずかしい・・・w)取り上げていただき、Twitterで時々いいねをいただいていた野崎さんの新譜が出ると聞き、ガッツリ聞きこんでしまったのでこんなものを書いてみました。

調べている最中に、なんといいますか、ネットカルチャーは本場とJ-RAPの違いが云々とか、ニコラップとクラブのヤンキーの違いとか、ゲームとか世代とか、ありとあらゆる変数に囲まれた存在なんだなと再認識しました・・・ Featuringがある故、関わる人数も多い。

正直、全ての音源を聞き切れているわけではなく、またニコラップ流行当時の空気感を知らなかったりして、私が音や歌詞から感じた情景はまだまだ荒っぽいのですが、それも青さということでお許しください。(プールの比喩はこういうことなのかなあ・・・)

また、今自分が諸事情でラップカルチャーからの影響の強いKAMITSUBAKI STUDIOの作品をずっと聞いていること、また「記憶」をどうやって受け継げばいいのかについて考えることが多い日々を過ごしていまして、この恐らくは野崎さんにとっても転換点になっているこのアルバムにこのタイミングで出会えたのは、本当にありがたいことでした。本当に名盤でした。

世の中色々物騒ですが、生き残っていきましょう。

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