壊死

忘れませんように

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犬よ、人の望みの喜びよ

ノストラダムスのおじさんに、人類が滅亡すると言われた1999年7の月。の、翌月。 新潟県の病院で私は生まれた。人類が滅亡できなかったのが悔しくて、はじめて空気に晒された時に大声で泣いた。本当に。 翌年の夏に気管支炎で入院して1歳の誕生日を病室で迎えた。らしい。病院のベッドで「1歳おめでとう」のプレートが乗ったケーキを前に嬉しそうにしている自分の写真を見たとき、何笑ってるんだ、と思った。 母が弟を産むので、しばらく新潟にいた。母に代わって、主に祖父母と実家で暮らしている叔母が

    • グリッドを無視する

      指先で小蝿と戯れる。 小蝿や蚊を捕える時、神経を相手に合わせてチューニングする遊戯の感覚がある。 相手に動きを気取られたら、相手の勝ち。 気取られずに望む動きを通せたら、自分の勝ち。 瞬発力を他の生物と競うというのは狩りや喧嘩に共通している。 幸い小蝿に特別の嫌悪感がないため、さっき飲み終えたウインナーコーヒーのグラスに降りてくる様子を眺めていると、給餌台に集まる鳥と然程変わらなく思う。 ただ読書と喫食中の視界に煩わしいので、小蝿にもマスターにも気取られないようさりげな

      • とびまわる墨

        こどもの夏、 母の実家の納屋にはつばめがいた。 雨の降りだす前、棚田の上を歩く私たちの上を旋回する黒い小さな生き物。 学校の帰り道に灰色の空に点滅する蝙蝠にも似ていた。 低く飛ぶのは虫を捕まえているからだ、と叔母が言った。 あなたたちも虫を食べるんだね。とおもった。 おじいちゃんが、蜂の幼虫が美味しい、 フライパンで炒めると良い、と言っていた。 親戚の家の蜂の巣を落としたあとで 手に入れた蜂の子を、一口たべるか聞かれたけれど何かが怖くて食べられなかった。 大人になったら

        • 喫茶文藝に行ってきました

          2022年8月14日 Music Filmの Actorとしてではなく、 徹底して文藝天国の1ファンとして感想をしたためます!!  (追記:当たり前ですが、この1年後に『フィルムカメラ』の撮影オファーをいただけるとは全く知らずにチケットを取って喫茶に遊びに行っていて、読み返すとなんだか不思議な気分……!) (追記2: いつか喫茶文藝で再演〜Revival〜があることを願って、コースの全てについては敢えて書きませんが、この喫茶文藝に対する熱量や高揚感をいつでも思い出せたら

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        犬よ、人の望みの喜びよ

          地元最高!

          雷と地震が同時に来たみたいなうるさい貨物列車。 夕陽を遮る傾いた電柱。 ビニール屋根が落ちてただの骨組みになった倉庫。 錆臭くて薄汚くてどうしようもない街を夜になるまで歩いてくれた君のこと、 この街で働き始めて最悪になりはじめた私に言葉をかける代わりに、犬の散歩に付き合ってくれた君のこと、 乗り換え駅で着付けをしてくれた、友達のお母さんの飼ってる文鳥のこと、 三角じゃない方の公園で高校生の時のわたしと殴り合いしてくれた、膝から泣き崩れてたアイツのこと、 貨物の上げる金切り声

          ¥300

          地元最高!

          ¥300

          脳キャッシュ消化戦

          考え事を言葉にしないと脳にキャッシュが溜まって動きが悪くなる。から、よく書くこと。 わかりました、書きます。  ワードサラダというものが目に見えるなら食べてみたいです。そういえばこの前、″サングリアで煮た鶏を食べたよ″と言いたくて「サングリア鶏を」と言った後、トリコみたいだと思ったのですが、もしフルコースを自分で作っていいなら前菜にワードサラダを出すし、スープはウミガメのスープを出します。 犬が人間になったらやりたいことリストを発表します。 サイゼリヤと回転寿司に行きた

          脳キャッシュ消化戦

          いつも土手から降りようとしなかった。 階段を先に降りる私に渋々ついてくるか、犬に続いてスロープを駆け下りるのが常だった。 よく道で固まった。 台車の音が嫌いだった。 バイクのビニールカバーが嫌いだった。 男の人が嫌いだった。 雷も花火も嫌いだった。 喧嘩が嫌いだった。 泳ぎが下手で海が嫌いだった。 さらさらしてまっすぐな茶色い毛は、抜けると根元が白くて、少しうねっている。 厚い耳を指先で触られるのを嫌がった。 脚の先と、眉とマズルが白かった。 爪は薄ピンクで、よく獣医さ

          おもちゃ箱 下段

          12月25日の朝、大人達の話を盗み聞きしてからサンタクロースが来なくなってしまった。 幼稚園生の私にとってクリスマスパーティは、 朝礼で念仏を唱えてくれる園長先生が、 剃髪した頭を帽子で隠して髭を付け、 赤い服を着て長靴型のお菓子を配ってくれる、 うるさくて意味不明なイベントだった。 「あれなに〜?」「サンタさんだよ」 違う。園長だよ。 なんか、そのノリに合わせないと大人が白けるみたいな空気がめちゃくちゃ怖かった。 今より″特性″の強かった当時の私には、その異様さが

          おもちゃ箱 下段

          おもちゃ箱 中段

          「サンタさん何歳までいた?」 特に面白かった回答が2つある。 「何かを疑わない子供だったので、小学5年生の時に親から″今まで黙ってたけど……″とカミングアウトをされた。それからは親が何かくれるシステムになった。」かわいい。 「サンタさん来たことない。」これは……!! 天にまします誰かの父よ。 どういうことですか? クリスマスが近いので、女児玩具について書きます。メリークリスマス、かわいい皆様。 あったかくして過ごしてくださいね。 我がファミリーは壊滅状態だった。

          おもちゃ箱 中段

          Bell a BOT

          シャワーを浴びたらネジが落ちてきた。 私の頭から排水溝に向かって流れ落ちていく枯草色の毛を纏ったネジは室内灯を受けて鈍く光っていた。 Bellabotちゃんは2年ほど前から、国道沿いのファミリーレストランで働いている。 私の家から歩いて15分ほどの場所に位置するファミレスは、姉弟共用の口座に振り込まれた弟の奨学金に着服していることがバレて家庭に居場所がない私にとってオアシスだった。 日々、店の最南端に位置する44番テーブルに縮こまり、ドリンクバーと山盛りポテト(時々チョ

          「なんで大学辞めちゃったの?」

          知らねーよ。 ツイートにリプライが付いている。何個も。誰お前。 アカウントに飛んで共通フォロワーを見ると高校の同級生が何人か並んでいる。たぶん高校の同期だ。 心当たりが1人、受験期に選挙に行く行かないで揉めた″ネット弁慶″がいる。 ネット弁慶というのはそいつが私に向かって放った言葉だったが、ネット弁慶の私が思うにそいつは1人で学校を抜けることができなくて私のクラスメイトを誘って一服に行くような、いわゆる″キョロ充″だった。 ツイートを遡るとめちゃくちゃリプライを送ってき

          「なんで大学辞めちゃったの?」

          Skip

          文筆家の「愛してる」の言い換えの本があるらしいです。さっき教えてもらいました。 水みたいなロゼのアルコールを分解しきるまで眠れない。手紙です。気持ち悪いから読まなくていいよ、って言っても読む君へ! 振り払わなくていい手が柔らかで暖かいのって幸せです。わたしの手に収まらなかった硝子片を持ってくれた傷口が纏ったワセリンを洗い流さないために、私が全ての皿を洗います。まかせて。余った手袋で大掃除をしましょう。爽やかな冬を迎えるために。 忘れた傘の数も、乾いた指の慎ましい爪も、天

          半透明な黒い塊り

          が、手を繋いでくれたらいいのに、 走りたくなったら解いて後ろを歩いてくれたらいいのに、肩車して街を案内してくれたらいいのに、キッチンで歌ってくれたらいいのに、枕元でレオレオニや、エーリッヒフロムを朗読してくれたらいいのに、わたしが泣いたら抱き締めてくれたらいいのに! と思った時、求めているものが、たぶん父性であって、見える父性は恐ろしいから半透明であってほしいことに気がついて気持ちが悪かった。 父性とか正義が怖い。 それらが湿度を帯びた時、もう直視できない。 最近は、夢の

          半透明な黒い塊り

          引力

          春。 犬を攫う桜、青く光る新しい電車。 増幅した重力は血中をめぐり指先は地に臥す。 重みに抗うことに意識は向かない。 舌の裏に潜り込んだ死なないための死は、おまえの頭を蕩かしてとうとう呼吸まで奪ってしまう。 わたしが駅に着いた時、おまえは椅子に座って脇目も振らずに指先で星を散らしていた。 若い牡犬でもあるまい、簡単に手の内を明かせてしまえるおまえが恐ろしい。 来た道を忘れるみたいに軽やかに歩くんじゃない。

          おもちゃ箱 上段

          幼稚園にきたら靴箱にたまごっちが入っていた。びっくりした。 お父さんが「知り合いに頼んで苦労して手に入れた」と嬉しそうに言った念願のたまごっちは偽物で通信できないものだったが、普段いっしょに遊べないお父さんが頑張ってサプライズを用意してくれたのが嬉しくて、その日は素直にはしゃいだ。 幼稚園の送り迎えの時間になると、みんな一目散にお母さんに駆けて行って、その首からぶら下がっているバンダイのたまごっちを触る。ぴっぴーぴろり。 どうやら、みんなが幼稚園にいる間はお母さんがたまご

          おもちゃ箱 上段

          這う

          もう最悪から帰って来られないと思って生活していたけど、少しずつ這い出てくることができました、二度とこうなりたくないから備忘録として残しておきます。 調子の悪い時の日記なので読まなくて大丈夫です。 2022年11月18日 8:04 セブンスターをどこかに忘れた。 息が詰まる空間から抜け出す理由と深呼吸のやりかたを見失わないために煙草が要る。 靴越しに触るカーペット、漂白された紙の匂い、 若草色の壁、人感式センサーの白々しさ、市営バスの停車音、ビートルズの『HELP!』、