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蜂蜜と檸檬
マヌカハニーというものを知っているだろうか。
ニュージーランドの代表的な名物である蜂蜜で、結構高いけれど凄く美味しい。パウア貝という水色の綺麗な貝殻から作られたネックレスと一緒に帰りの空港で買って帰って来た。
外国を訪れたとき、大抵の観光客は自国の通貨に外貨を変換しなおすのが面倒だから、現地や空港でお金を使い切って帰ってこようとする。
僕もそうやって何となく「名物だから」という理由だけでマヌカハニーを買って帰って来たのだ。
ただ、蜂蜜なんて食べたことがなかったから、どう使ってよいかもわからずに棚の奥の方に放置していた。
あまりにも蜂蜜がかわいそうである。
蜂に刺されるかもしれない。
ただ、このマヌカハニーがとんでもなく美味しい代物だと気づく事件が起きた。あれはマヌカハニーを買ってニュージーランドから帰って来てから一年と少しが経ったある日。
(放置しすぎ)
当時高校三年生だった僕は、冬に風邪を引いてしまった。熱はそんなに高くないけれど、のどが痛くて、頭がぼんやりとしていた。
そうしたら、何食わぬ顔で母が「ちょっと待っときなさい」と言ってマヌカハニーを取り出した。「え、どうして蜂蜜?」と思っていたら、お湯を沸かしながらレモンを切り始めた。
風邪を引いたことを伝えた後に作ってくれているということは、何か効果があるものを作っているのだろうか。
「いったい何が出来上がるんだろう……?」と思っていたら、マグカップにマヌカハニーをたっぷり入れて、そこに沸いたお湯と絞ったレモンを混ぜて、木製のスプーンと一緒に渡してくれた。
どうやら、マヌカハニーとレモンを混ぜた、温かい飲み物が出来上がったようだ。蜂蜜を使ったものに馴染みが無かったので、恐る恐る飲んでみると、目を見開いてしまった。
「んん!」という驚きの声が内側から湧き上がってきた。
蜂蜜の甘くて苦い独特な味と、レモンの酸味が絶妙にマッチした、とろーんとした飲み物。
「ん~、美味い!」となって、すっかり元気を取り戻してしまった。
美味しい飲み物で元気になるちょろい奴であることに少し笑いが出てしまうけれど、僕は美味しいものを食べれたら元気になるし幸せになる安い人間だということがこのとき改めて分かった。
コーヒーを毎日飲む習慣が僕にはあるんだけれど、マヌカハニーが無くなるまではこの飲み物も夜飲んでいた。
別の蜂蜜で作ると、そんなに美味しくなかったから、あれはマヌカハニーだからできた味なのかもしれない。
僕は別にニュージーランドの回し者でも何でもないけれど、凄く美味しかったから、機会があったら作ってみて欲しい。
贅沢な逸品である。
疲れているとき、これを飲みながらゆっくりすることほど至福のひとときはなかった。ただ、普通に市販のはちみつを買ってきてもあまりしっくりくる味にはならなかった。
またニュージーランドに行きたいなぁ、とあの飲み物を思い出す度に思う。ホストファミリー元気にしているかな?
また会いに行こう、と思う。
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