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親子の鎖



これは、『親子のジレンマ』に挑むための物である。


プロローグ『親子の鎖』


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 五歳の男の子が川で溺れている。

 雨がかなり降った後の流れの急な川に、小さな男の子が落ちてしまったのだ。

ロープや体が浮くようなものが周りになく、もし助けるとしたら川に飛び込んで行くしかない。

 流れが強くて助けようとすれば自分が死んでしまうかもしれないからか、誰も助けない。

 一生懸命に浮き上がろうともがいているが、もう無理だろう。

 もうすぐ、その男の子は沈んでいってしまう。誰も、助けない。あぁ、沈んでいってしまう。


 そこに、一人の青年が川に飛び込んでいった。


 誰も助けようとしなかったところに、通りかかった黒い制服を着た青年がその男の子が沈んでいってしまったところを見て、制服を脱ぎ捨てて川に飛び込んでいった。

 ただ傍観していた通行人の人達も、目を見開いて「おぉ」とその救出劇を見届ける。

川は幸い水かさが増しているとはいえ、そんなに深くなく、見事その男の子は助かった。

 飲み込んでしまった水を吐かせて、何とか意識が戻ってきた男の子。

 命の危機に瀕して、意識が朦朧としている中、自分の腕を引っ張って川から引き揚げてくれた青年がぼんやりと視界に入ってくる。

 このお兄さんが助けてくれたのだろうか。

 意識が曖昧だから言葉が出てこない。

ただ、何かしゃべろうとしたときに腹部に何やらちくっとした感覚がした。

 よく見ると、その男の子のお腹にはナイフが突きつけられていた。

「お前は俺がいなかったら死んでいた」

「だからお前は僕の言うことを一生聞いて生きていけよ」

 青年はその男の子にポケットから取り出した小型のナイフを突きつけながら、そう言い放った。

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 これは、今から話す親子の鎖についての本質の部分を表現した比喩表現だ。この「親子の鎖」の文章は長くて難解なものになってしまった。

 なるべくわかりやすく丁寧な文章にしたつもりだが、人によっては読むのにかなり体力が必要になるかもしれない。

 だから、本質をとらえた比喩表現だけ最初に載せておく。全ての文章を読み終わった後にこの文をもう一度読むと、見え方が変わると思う。



親子の関係性は、奇跡だと思う


 親子って奇跡だと思う。

 親が子に与える愛情は、この世に存在している愛のカタチの中で最も美しいものではないだろうか。無条件の、愛。

 この世に存在する生物が共通して持っている普遍的な愛だ。

 どの生物も親は我が子を思い、守っていこうとする。親が我が子を思う気持ちは、とても素敵で、とても深い愛情に包まれている。

 美しい、関係。

 ただ、人間の親子となると、少し訳が違う。

 人間の親子だけは——もちろん全員ではないが——なぜか殺しあったり、互いに憎みあったりしている。

 不思議に思わないだろうか。最も愛情が深くて信頼しあえるはずの親子同士で、殺しあうような人達がいる。

 どうしてこんなことが起こるのか。

 テレビのニュースを見ていても、友人同士やご近所さん同士での殺傷事件はあまり聞かない。しかし、親子での殺傷事件は稀に聞く。

 なぜなのだろうか。最も美しい愛を与えあう関係であるはずの親子がどうして。なぜ、こんなことが起きるのだろうか。

 冷静になぜなのかを考えてみた。

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