【論文紹介】歩行をイメージするだけでも脳は歩行同様に活動する
今回紹介するのは、実際の歩行と歩行のイメージを行った際の脳活動を比較した研究論文です。
LA FOUGERE, Christian, et al. Real versus imagined locomotion: a [18F]-FDG PET-fMRI comparison. Neuroimage, 2010, 50.4: 1589-1598.
論文の概要
この研究では、実際の歩行時と歩行のイメージをした際の脳活動について調査しています。
その方法として、[18F]-FDGという薬剤(造影剤)を注射してPETを撮影し、fMRIで撮影した結果と比較しています。
結果、実際の運動時と想像歩行時では、前頭皮質、小脳、脳下垂体、傍海馬、紡錘状回、後頭回の活性化、多感覚前庭皮質(特に上側頭回、下頭頂葉)の不活性化を含む、基本的な歩行ネットワークの活動が示されました。
また、実際の歩行時には一次運動野と体性感覚野が活性化し、歩行のイメージでは大脳基底核が活性化することが明らかにされています。
筆者らは、実際の歩行と歩行のイメージにおける活性化・不活性化のパターンは一致していると結論付けています。
歩行と歩行のイメージで、脳の活動パターンは一致する
この研究に限らず、実際に歩行した場合と、自身が歩行しているのをイメージした際の脳活動が一致したパターンを示すと言われています。
歩行とイメージで異なる点としては、実際の歩行での一次運動野と体性感覚野の活性化が挙げられていますが、これは実際に歩行を行った際に運動出力をする一次運動野と、その結果として生じる体性感覚を処理する体性感覚野が活性したためと考えられます。
この研究の結果で注目すべきなのは、実際の視覚入力や前庭入力のない歩行イメージにおいても、視覚野の活性化と多感覚前庭皮質の不活性化が示されたことです。
これは視覚ー前庭抑制という基本原理によるものと考察され、要するに歩行において前庭の活動を抑制して視覚を優位に働かせようとする仕組みがあるようです。
歩行における視覚と前庭の活動
この論文に出会ったのが前庭について調べているときだったこともあり、歩行のイメージにおいて視覚ー前庭抑制が働くというのは重要な知見であると感じました。
実際の歩行では、周囲の環境や足元などを見ながら歩行します。
加えて、頭部や体の傾き・揺れを感じながら歩いています。
実際の歩行の中で、頭部や体の傾きに関する情報(前庭)を抑制し、視覚からの外部環境に関する情報(視覚)を優位に利用しようとするのは理解できるかと思います。
しかし、歩行のイメージの中でも同様の活性・不活性があるということは、視覚ー前庭抑制の原理が、実際の視覚・前庭入力とは関係なく、歩行する上での脳活動パターンとして既に組み込まれているということです。
リハビリテーションにおける意義を考える
今回紹介した論文から得られる知見からは、歩行の再獲得を考える上で、視覚と前庭の適正化を考慮する必要があるのではないかということを考えました。
実際の臨床場面で、歩行中に自身の足元から目を離せない脳卒中片麻痺者さんと多く出会います。
下肢の整形疾患の患者さん・利用者さんでも、歩行に不安があると足元を注視している方はいらっしゃいます。
そんな方の視覚ー前庭抑制という機構はどうなっているのでしょうか?
特に、脳卒中片麻痺を患った方は、発症後に体を平衡に保つことが難しかったり、非麻痺側に偏った姿勢をとる場合が多いと思います。
視覚と前庭の適切な関係性を考慮したトレーニングの提供が歩行の獲得に必要なのではないか、と考えています。
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