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【書籍】脳はいかに治癒をもたらすか

脳卒中や神経系疾患のクライアントを対象としたリハビリテーションに携わる者として、脳や神経系の改善を考えない日はありません。

今回は神経系の可塑性を一般向けに取り上げた書籍を紹介します。

ヒトを対象とするセラピストみなさんにオススメの一冊です。


脳は変化する

例えば脳卒中。

日本の医療制度では、回復期の期限は最長で6ヶ月。

これは発症後6ヶ月で症状が固定する(=それ以上良くならない)という古くからの常識に依拠しているようです。

この大元の根拠となっているのは、Brunnstromによる6段階での麻痺の回復過程を示した論文と言われています。

しかし、リハビリテーション医療が発達し続けている現在、6ヶ月を過ぎても改善する症例はたくさんいます。

私自身もそのような症例にたくさん出会ってきました。

脳卒中に限らず、脳・神経に問題を抱えた方の多くは改善する可能性を秘めています。

そんなことを実例を交えながら、『神経可塑性』を中心に様々な知見が紹介されているのが本書です。


神経可塑性を利用する

本書では色々な方法が紹介されています。

競争的な神経可塑性の力を利用して、心的努力によって障害を引き起こしている痛みの神経回路を弱めることで、脳が再配線されるよう導いた。(Norman Doidge, 2016)

これは疼痛を抱えた方への対処についてです。

体性感覚刺激に注意を向けることで、脳の可塑性を適切な方向へ導くという考え方と解釈しました。

ニューロマトリックスも考慮されているように感じました。

心的努力によって、通常は歩行とは無関係な脳の部位の、特定の神経回路を強化するというものだった。(Norman Doidge, 2016)

こちらはパーキンソン病を自身の努力によって克服したとする例についての記述です。

パーキンソン病によって障害される基底核の機能と、直接は障害されない大脳皮質の機能とを分け、疾患特性として残存した随意運動の能力(主に大脳皮質)を積極的に利用しようという方略のようです。

このような実例や知見に始まり、『光』や『動作に対する気づき』『音楽』といった方法に言及されます。


回復とは何なのか

本書は、人間には独自の治癒メカニズムが備わっているという発見について検討する。(Norman Doidge, 2016)

本書では『治癒』とか『回復』といった言葉が使われます。

では、『治癒する』『回復する』というのはどういう事なのでしょうか。

本書で取り上げられている『治癒』『回復』は、『学習』に近いのではないかと感じました。

脳神経系に疾患を持つ場合、器質的に不可逆的な変化が生じる場合が多くあります。

しかし、『神経可塑性』という考え方を取り入れることで、残された部分で障害された部分の機能を代行することが可能になります。

これは一種の学習と言えるのではないでしょうか。

脳神経系に問題がなくても、新しい事に取り組む際には努力を要します。

スポーツなんかでは、反復練習が必要です。

例えば、バッティングのフォームを自分の物にするためには、数え切れない素振りを繰り返すでしょう。

何千回・何万回と素振りを繰り返す中で、何も考えず、ただただ無心に繰り返すことで目指したフォームは習得できるでしょうか?

きっと、身体の動きやバットの軌道、そのときの感触など、様々な要素に注意を向け、細かな修正を加えながら繰り返すのではないでしょうか。

脳神経系に問題がある場合も、同じことのように思います。

本書で紹介される『フェルデンクライス・メソッド』も、自身の動きに注意を向けることを強調します。

運動へのより深い気づきを得るだけで、(とりわけ脳に重度の損傷を負った人の)運動障害を劇的に改善できるという示唆は神秘的に響くかもしれないが、それが神秘的に思えるのは、かつて科学が身体をココの部品から成る機械として、そして感覚機能と運動機能を互いに大きく異なるものとしてとらえていたからにすぎない。(Norman Doidge, 2016)

運動と感覚の不可分性に言及し、自身の動きに気付くことの重要性が繰り返し語られます。


リハビリテーションにおける意義を考える

本書ではリハビリテーションセラピストにとって、非常に多くの学びと気づきが得られと思います。

リハビリテーションセラピストは脳神経系に問題を抱えた方と関わることが多いですが、脳神経系がどのように変化し得るのか、そのためにはどういった条件が必要なのか、考慮できているでしょうか。

本書ではフェルデンクライス・メソッドが多くの部分を占めていますが、フェルデンクライス・メソッドでなくても、本書の知見を取り入れることは十分に可能であると感じています。(本書をきっかけにフェルデンクライス・メソッドを本格的に学んでみるのも良いかとは思いますが)

本書の一番のメッセージは、回復を諦めてはならないことだと思います。

私たちセラピストは、患者さん・利用者さんの可能性を信じ、一番諦めの悪い存在でいたいですね。


まとめ

ノーマン・ドイジ著(高橋洋訳)『脳はいかに治癒をもたらすか』を紹介しました。

脳神経系に問題を抱える患者さん・利用者さんと関わることの多いリハビリテーションセラピストとして、その回復を考える上で大切な考え方や知見が多く書かれた本です。

我々リハビリテーションセラピストは、患者さん・利用者さんの回復を信じ、一番諦めの悪い存在でいたいと思います。




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