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音楽業界のジレンマと未来/佐々木健三

こんにちは、放送作家&ライター集団リーゼントです。
各界のプロがその業界の気になるアレコレをつづる「いろいろコラム」。
今回は某レコード会社の音楽プロデューサーが、音楽クリエーターたちにめざすべき未来のヒントを語っています。業界の過渡期である今、クリエイトのスタイルが大きく変わっているようです。では、どうぞ!

【佐々木健三(仮名)プロフィール】
某レコード会社の音楽プロデューサー。ミリオンセラーミュージシャンから新人アーティストまで幅広くプロデュースしている。学生時代からバンド活動をはじめ、ドラムやギターを担当。この名前は仮名です、念のため。

今や音楽はモノからデータへ移行した

当たり前だが、時代は変わる。
どの時代にも必ず確変は起きていた。
そして音楽業界は今、その過渡期である。

音楽業界で働いて今年で丸30年になるが、入社当時、この業界にはまだバブルの名残があって諸先輩方の所作は驚くほどダイナミックだった。経費を使わないと「仕事していない」と判断され、上司に怒られたりしていたのを見たことすらあった。そうやって遊びながら働く中で出てくるエネルギーが1つになって流行を作り、それをまた楽しみながら遊んで働いて……という連鎖が心地よく感じられた空気があの時代にはあったのかもしれない。

そこから業界も変遷を遂げ、市場規模は全盛期の半分以下となった。

年間30曲以上あったミリオンセールス楽曲も昨年2021年はたった1曲。一時期、あるアイドルの施策で握手目的に大量購入されたCDが廃棄されて批判が集まったが、CDメディアへの価値観は変貌し、代わりに配信ストリーミングサービスが台頭し始めた。

世界的に音楽は”モノ”から”データ”へ移行している。

そしてこの状況を生み出したのはインターネットだ。PCの発達と共に、かつてはレーベルと契約し、スタジオに入って沢山のスタッフに協力してもらわなければ作れなかった“音源”がワンルームの部屋で完パケし、その部屋から世界中に発信できる世の中になった。その意味では、いい時代だ。

個人の部屋からヒットが生まれる時代のジレンマ

そもそも“音楽”というものには形がなく、その実態は空気振動だと考えればレコードから始まったこの70年強くらいの物的存在が不自然で、音楽本来の姿に戻りつつあるのかもしれない。かつては記録媒体などなく演奏家が奏でるものを生で聴くしか手段がなかったわけである。

そんな転換期において注目すべきは、私たち音楽業界人の必要性や存在意義が大きく揺るぎ始めたことだ。以前のように業界インフラが時に必要なくなってしまったのだ。昨年リリースされた配信音源の約10%は個人からの発信だ。

つまり、どこのレーベルも介在していない楽曲がそれだけ存在しているということ。ある個人の部屋の一角から世界に向けて音楽を届けることができる――それは発信側からすれば、なんとワクワクすることだろう! 私も10代の頃は音楽を嗜んでいたが、この時代に生まれたかったと切に願う。

一方、音楽業界人からすればそれは脅威で、自らの存在意義に疑問符を投げかけることになる。この先この業界はどのようなスタンスでそのステイタスを表明していくのであろう? もちろん、先程申し上げたストリーミングの台頭で一時期より業界全体の規模は盛り返してきているし、一部のアーティストが爆発的ヒットを飛ばしている現状もある。そういう意味では決して業界自体が悪いということではない。

しかしこれが冒頭に申し上げた、時代の変化なのだろう。そして今、この文章を書いている私の主観的な見解としては、音楽業界の仕事にかつてほどのトキメキがなくなってしまった、と感じているのだ。音楽ビジネスの結果はほぼ、アーティストの才能によるところが大きいのが現状だ。それをいかにアウトプットするか? そのコーディネーション業務に偏ってきている。

ん……!?
かつての、音楽を世に送り出していくクリエイティビティはどこに行った?

と、感じてしまう自分がいるのを否定できない。
しかしだ――。

音楽の可能性は広がってる!だから表現者になれ

一方でその動向に胸躍っている自分もいる。それぞれの感性や個性がより意味を持ち、どこかで繋がっていく。どんなに特異な音楽でも世界中が相手となれば1,000人くらいはマッチングするかもしれない。むしろ未だ感じたことがなく、ニュートラルに見たらマイノリティなほど、次の時代を作るトリガーになっていくのかもしれない。そんなことを想像してワクワクしてしまうのだ。

次世代に伝えたい。
音楽で何かをしたいなら、音楽業界人ではなく、音楽表現人になろうぜ。
いつだって音楽は続いていくのだから!

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