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映画『黒い司法 0%からの奇跡』感想

予告編
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視線


 これはどうしたって、評価せずにはいられない程の良作。表裏を問わず、作品全体を通してテーマが一貫されている本作は、シンプルに「良い!」と言いたくなる真っ直ぐな物語。それぞれのシーンが呼応し合う素敵な演出も光り、多くの人にお勧めしたくなる一本です。 ……褒めすぎなのかな? でももし気になるなら観た方が良いと思いますよ。


 人種差別がまだ色濃く残っていた ’80年代のアメリカ・アラバマ州を舞台に、冤罪で死刑を宣告された黒人の被告人を救うべく立ち上がった新人弁護士、ブライアン・スティーブンソン氏の実話を基にした本作……って、もうあらすじだけで感動作の匂いがプンプンしますが、美しい脚本にあぐらをかいていないからこそ褒めちぎりたくなってしまう。

 主人公の新人弁護士役がマイケル・B・ジョーダンっていうのも良いですよね。何年前だったか、『フルートベール駅で』を観てからずっと、『クリード』、『ブラック・パンサー』等、彼の出演作を観る度に同様のことを感じてしまいますが、彼からは、根っこの人柄の良さ——なんとなく「この人きっと良い人なんだろうな」と思わせられてしまう無根拠の信頼・人間力——が滲み出ている気がするんです。ホントにもう、めちゃくちゃ個人的な意見で申し訳ない。

 過去のアクション系作品出演時と比較しても見劣りしないその肉体美も、漲るエネルギーや熱意、若さをイメージさせるだけでなく、単純な肥大化とは違い均整の取れたその筋肉の隆起・シルエットによって、彼の中の理性的な側面すら窺わせてくれるよう……。

 とまぁ、色々と理屈を並べ立てましたが、僕はただのファンに過ぎないのかもしれません笑。本題に戻ります。



 劇中にも出ていましたが、名作映画『アラバマ物語』 を引き合いに出し、真の正義を問うたかのような本作について、兎にも角にも、これは素晴らしい、素敵だ、と思ったシーンをいくつか羅列していこうかと。

 本作は、視線や目線といったものを常に意識させる造りになっています。見どころの一つです。誰がどう見ているか、誰にどう見られているか。何を見ているのか、或いは「他者にどう見られている」と思ってその人物を見ているか……etc. そんな演出が重なるからこそ、例えば面会時の会話の際に、互いの目線が合っているかどうかと、互いの心の距離感が如実に比例していることがよくわかります。監房でのシーンでは、壁を挟んでいるから互いの顔は見えないはずなのに友情にも似た絆が芽生えていたり、逆に目視できないからこそ、返事一つ遅れるだけで「え、もしや」とヒヤッとさせられたりする。法廷のシーンでは、検事らの脅迫的な視線を遮ってみせることで被告人のフォローをしたり、逆に強い視線を送ることで決意の強さを示していたり等々、視線や目線に関わる行為の一つ一つが際立っています。

 時には、視線・目線という考えとは真逆とも言える “目を閉じる” という行為でありながら「今流れているこの映像は、彼が瞼の裏に想像している景色・記憶なんだ」と窺わせるカットを織り交ぜることもあり、法廷モノの醍醐味である言論の力強さだけではない、+αの見応えが構築されていた印象です。



 本作は反復と変化の妙が冴え渡っているのも見どころ。そうなるとやはりハーブ(ロブ・モーガン)の話題に触れないわけにはいかないから、未見であるならばこれ以上読み進めることはお勧めしません。ネタバレってわけじゃないんですが、新鮮に楽しんだ方が良いんじゃないかと思いまして……。


 作品の冒頭、被告との面会のために部屋に入ったブライアンを、部屋の外側から、面会室の扉の小窓(覗き窓?)越しに映していたシーンがありました。決して違和感のあるシーンではありませんでしたが、何故かハッキリとよく覚えている。しかしハーブとの最期の面会時に再び小窓越しに彼を映すシーンでは、ブライアンだけでなくハーブの姿も見えていた。冒頭のシーンと構図的には反復してはいるものの、映し方が違う。二人しか居ない空間からのカットではなく敢えてその外側からの視点で撮ったカットでしたが、それによって、逆に互いの心の距離感がひしひしと伝わってくるよう。そして何より、劇中でエバ(ブリー・ラーソンン)がブライアンについて評していたような “普通の弁護士とは真逆で、依頼者との距離が近い” という、ブライアンの弁護士としての特徴を視覚的に表したかのようにも見えてくる。

 その他にも、囚人たちが一斉にコップをカンカン鳴らすシーンも印象的。実際にこんなことが行なわれているのかは分かりませんが、本当にこんな慣習があるのでは? と思えてしまう不思議なシーン。一度目は、非常に悲しいシーン。まるで出棺時のクラクションや埋葬時の弔砲、或いはレクイエムかのように見て取れたその行為が、二度目のシーンでは正反対の意味を持ち、喝采の如く鳴り響く。作品のクライマックスだからこそ、観客のスタンディングオベーションを連想させるかのようだし、その瞬間だけは目を合わせられるという構図も素敵。さらに言えば、この音がマイヤーズ(ティム・ブレイク・ネルソン)の話にも繋がっていくというのも、また面白い要素。


 他にもたくさんの見どころがある本作。エンドクレジットに流れる映像やテロップは、実話を基にしているからこそ可能な素敵な締め括りでとても良い。個人的にはラストシーンでブライアンが口にした真っ直ぐな言葉、そして彼とウォルター(ジェイミー・フォックス)の笑顔だけでも、充分に心が満たされてしまいました。


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