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映画『いとみち』感想

予告編
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 本日6月3日より Hulu にて配信開始予定の本作。

ド頭から「昨年公開の~」とか言っていますが、あくまで観に行った当時の感想文なので、許してください。

Huluの配信じゃなくても、何かしらで鑑賞した際にでも読んでもらえたら嬉しいです。


人間賛歌


 昨年公開の『おらおらでひとりいぐも』(感想文リンク)で用いられていた方言・訛りは、リアルでありながらもちゃんと聞き取れるラインの訛り具合でした。そうでもしないと、観客がセリフを聞き取れない。訛りのリアルさと、ちゃんとセリフを聞き取れる明瞭さ、そのバランスが良かったと思っています。そういった点で言うと、本作の訛りは若干バランスが取れていなかったかもしれません笑。

本作の舞台は青森県(オール青森県ロケなんだとか)。津軽弁がコンプレックスのヒロインを主人公にした物語。いや、やっぱ津軽弁ってスゲーっすわ。日本の方言・訛りの中でもトップじゃないかと。改めて思わされました。言っても、これって映画ですし、充分聞き取りやすいレベルまで和らげてくれているに違いないのでしょうけれど、それでいてこれか……と。


 しかしながら、標準語で育ったような人達の “こういった感覚(↑)” が、内向的な主人公・相馬いと(駒井蓮)のコンプレックスに拍車を掛けているに違いない。鑑賞前にあらすじを少しだけ読んでいたので初めから知ってはいたものの、学校の授業中、彼女が教科書を読まされる冒頭のシーンだけで、彼女が方言にコンプレックスを持っていることと、その所以足り得るほどの内向的な性格であることが窺い知れる。喋り方に自信が持てない彼女は友人とコミュニケ ーションを取る時でさえ、まるで自分の傷口に触れられることを恐れているかのような微妙な距離感を保っている。



 あまり確証は持てないのですが、この冒頭のシークエンスは、主人公、或いは主人公周りの登場人物の設定・キャラクターを明示するだけのもののようでありながら、もしかすると本作全体の描かれ方に影響を与えているのかもしれません。ちょっと保険を掛けるみたいでみっともないですけど、あくまでも “もしかしたら” ね笑。

 本作は、あまりカットを分けずに長めにカメラを回しているシーンが幾つも見受けられます。その一つ一つが、沈黙や口籠るといった間(ま)が特徴的で、何か長尺の出来事というよりは、一つ一つの事象に対してたっぷりと尺を用いている……そんな印象です。なんていうか、饒舌ではない主人公の人柄と合っているというか、既に冒頭で、やり取りが流暢に進まないことが示されているため、間が不自然に感じられないんです。

 もっと言うと、例えば物語を支えるしっかりとしたテーマが根幹にあるだとか、はたまた演者陣の説得力だとか……。得てして、間がたっぷりある——間が怖くない——のは、作り手の自信の表れ。この説得力ある間も本作の魅力の一つ。聞き取れない方言や、“言葉” という説明が無い沈黙は、観客の意識が演者の表情やシーンの構図に向かうことを誘発してくれる隠し味。そしてこれらは、物言わぬ表現で魅せるクライマックスシーンをより一層に引き立ててくれます。



 ラストシーンは観ていてめちゃめちゃ気持ち良かった。常に内向的で、自身を卑下してばかりで上手く気持ちを表面に出せずにいた彼女が、自分自身を俯瞰視する瞬間が訪れる。物語を通して起きた彼女自身の変化。その変化に、本作で描かれた事の中で何一つ不要なものが無かった。それを理解したような、“とても小さな一言” が素敵。晴れた天気の中で、決して劇的ではないけれど、鬱陶しさの無いサラッとした爽やかなラストだったんじゃないかな。前述のシーンがどうなったか、どんな変化や前進、或いは後退があったのか等々、野暮ったい無粋な説明を省いていたのも尚良い。



 コンプレックスを要因に、自身を卑下していた主人公。様々な対話や表現を経て、自身の見つめ方に変化が訪れる本作には、どこか人間賛歌のような清々しさがあります。人間の弱いところ、彼女で言えばコンプレックス部分も、一方的な擁護だけではなく、自身を卑下するというその行為それ自体が、他人を傷つけたり否定したりするかもしれないことを教えてくれる。でもそういった対話の積み重ねがあるからこそ人は成長していくもの。自分にばかり目を向けていてはわからないことも、他人の目を通すことで見えてくることもある。これは先述の俯瞰視にも繋がってくる。


 対話しない(偏見)父親と対話できない(卑下・内向的)娘という関係も面白かった。対話に背を向けている主人公親子だったからこそ、そういった点が浮き彫りになったのかもしれません。そして、こんな二人を時に宥め、時に叱責し、時に見守ってくれるおばあちゃん、あなたこそ本作における影のMVPだよ笑。


 ところで、主演の駒井蓮さん……、津軽弁は出身地の影響もあるのかな? 三味線も最初からできたのかな? 本作のために身につけたなら凄い……いや、元々持っていたスキルだったとしても凄まじい有能っぷり。色々と書いちゃいましたけど、メイドさんが三味線を弾く……そんな彼女の姿を見るだけでも面白いと思います。


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