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映画『おらおらでひとりいぐも』感想

予告編
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 昨日、映画『南極料理人』の感想文を投稿したので、本日は同じ沖田修一監督の作品から『おらおらでひとりいぐも』の感想文を投稿します。

 原作は未読ですが、若竹千佐子さんの同名作品を映画化した作品。3年ほど前の感想ですが、よければ読んでくださいー。


目玉焼き


 タイトルから漂う田舎感(笑)。字面だけで感じるその温かみは、東北訛りの魅力の一つだと(勝手に)思っていますが、その反面、実のところ、度を越えると手に負えない可能性を秘めている困ったもの。本作の舞台は岩手県だから正確には違うんですけど、福島県に暮らすウチの母方のおばあちゃんの訛りといったらそりゃもうね……。マジで何言っているかわかんないのよ笑。本作のタイトルみたいな聞き取れるレベルの訛りではなく、バラエティ番組のテロップとかでよくある「△%-#$×!?+〇&≠◎~……」みたいなやつ。自分が東京生まれのせいなのかと思いきや、そんなおばあちゃんに育てられた僕の母親も「何言ってるかはわかってないよ」と明言していたので、これはもう訛り・方言の濃度によるものみたいです。とはいえ不思議なもんで、昔からおばあちゃんとは仲良かったんですよね。ホント不思議。

 しかし本作の訛りは、ちゃんと聞き取れる。これは魅力のうちの一つじゃないかな。出身地とか育った地域によっては知らない文言もあるかもしれませんけど、何て言ったかだけは把握できる程度の訛りという感じ。リアリティがある、でも聞き取れる。良い塩梅の訛り加減。



 旦那さんを亡くし、独り身となったおばあちゃん・桃子(田中裕子)が主人公の本作。こればっかりは全く共感できないが、そんな彼女の心情の描き方が一風変わっていて面白かったです。数か月前に観た『ジョジョ・ラビット』(感想文リンク)のようなイマジナリーフレンドが出てくるんです。それも3人も同時に。……たまにイヤ~な4人目が顔を出すけど笑。こういった頭の中のやり取りをイマジナリーフレンドとして描いた作品はいくつもあるけど、時折挟まれるぶっ飛んだ描写も含め、本作のが正解というか、一番リアルなのかもしれないとも思えてくる。

そもそも一人だけじゃない。色んな奴が居て個性がある。時と場合によって見える顔が違う。けど “頭の中の天使と悪魔” に代表されるような、取り立てて極端だったり偏った意見の言い合いをすることもない。「こう思うな」「ああ、でも、こうも思うな」といった出口の無い問答、或いは「そうだな」「ふーん」ぐらいの相槌しか打たない。ある時は目線を合わせ寄り添い、またある時は遠目から眺めるだけで、そしてまたある時は俯瞰したような物言いでキャッキャッとはしゃいでいる。状況こそ違えど、物思いに耽たり考え事をする時、自分自身でもおかしな妄想が頭の中を支配することがあることを思い出させてくれる。

上手く言えないけど、「あ、 みんなも考え事をする時はこんな感じなのかな」と思える節があるんです。そしてそんなイマジナリーフレンドとのやりとりが、沖田監督らしいっていうのかな、余計な膨らし粉を入れたりしない、リアルの中にある秀逸さやユーモラスが相変わらず活きている印象。間の使い方なのかな? 沖田作品のこの感じが好きです



 とはいえ、やはり歳を取る、旦那を早くに亡くすという心情はやはり共感しづらい。けれど、その感情に答えが出ていないのは桃子さんも同様だったみたい。腰を痛そうにしたりして、間違いなくおばあちゃんなんですけど、肌ツヤとか日常生活の動きを見る限りまだまだ長生きしそうに見えてしまうから、彼女の “残りの人生をどうしたもんか” 感が際立っているように見えるのも面白いですよね。人生の答えを探すために自身が歩んできた人生を振り返ってきた桃子が、理由を付ける(見つける?)シーンは非常に印象的。


 本作は、とてもゆっくりとした映画。日常風景、その繰り返しの中で時折挟まれる変化に気付いていくような描写が面白い。朝ごはんにトーストと目玉焼きを作る桃子。ある日の朝、いつものように卵を割ったら黄身が二つ入っていた。いちいち誰かに報告するほどでもないけど、「あ、こういうこともあるんだ」と感じられるささやかな日常感。こうして刷り込まれた ”目玉焼きの焼ける「ジューッ」という音”=”日常感みたいなイメージ” が、最期の最後、エンドクレジットの後に活きてくる。クレジットが流れ出した途端に席を離れた人達は気付けない、とても粋でとても小さな演出。節分の豆まきをした形跡と、遠くの方から聞こえる日常の音……。「ジューッ」という音と、豆まきが連想させる「福は内」の掛け声という組み合わせによって、繰り返しの日常の中に幸福が残っていること、或いは福が舞い込んで来ることを教えてくれた素敵なラストシーン。美しく、そして楽しいユーモアたっぷりの人間賛歌でした。


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