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映画『ドリームプラン』感想

予告編
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公開されていた時点で既にアカデミー賞®受賞が有力視されていた本作でしたが……まさか授賞式で ”あんなこと” が起きるだなんて、この感想文を書いた頃には夢にも思わなくて……

それでも、一見の価値がある作品だと思います。


We Will Rock You!!


 様々なレジェンドたちの伝記映画は数あれど、そのレジェンドの親を描いた映画というのは珍しい(気がする)。伝説的テニスプレイヤーであるビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹ではなく、その二人を育て上げた父親を主人公にした物語。原題と邦題が異なるため、タイトルだけだとウィリアムズ姉妹のサクセスストーリーをイメージしてしまいかねないけれど、本作の肝はそこじゃない。

良くも悪くも「リチャード王」などとまで揶揄される父親・リチャード(ウィル・スミス)の姿を通して、教育やスポーツマンシップ、果ては一流アスリートの凄さまでをも改めて考えさせられる物語。なんかもうね、人間的に積んでいるエンジンが違う感じというかさ笑。周りとは一味違うリチャードが、常識や偏見に染まり切った世界を搔き乱すという展開だけで既に面白い。

 たしかに、ド頭からリチャードのヤバさ(←言葉選びが非常に難しい笑)は際立っていた。ご近所さんから児童虐待を疑われるのもおかしくないほどのスパルタ教育。しかし、姉妹がジュニアの大会に出場し始めた辺りから雰囲気が変わってくる。それはリチャード自身の変化ではなく、周囲との比較によって生じる相対的な印象の変化。他のジュニア選手たちの親もリチャード同様に、我が子の成功や勝利を望んではいたのだが、求めるあまりに毒親と化している者も居た。一つ一つの言葉が、励みではなくプレッシャーを与えるだけの凶器になっている

おそらく初めは些細な心配から始まっただけの小言がエスカレートしていき、さらには子供の成長に伴って親側の求めるものも肥大化していった結果、相手を突き放すかのような 「何やってんだ」「何で出来ないの?」という言葉へと変貌していく。それは人格否定のように子供の精神を擦り減らしていく。メンタルが重要なスポーツであるにも関わらずだ。俗に言われる、受験や将来の進路について親が言いがちな誤った常套句みたいなもののオンパレードだった。

子供はそれでも親に縋るさ。しかしそれは、親が正しいから縋るのではなく、子供に他の選択肢が無いから縋っているに過ぎない。親の言う事を「信じろ」と子供に押し付けるわりには、子供のことを信じていない。多感な時期に親との関係が上手くいかなかった人達にとっては、こういったシーンに思う所があるんじゃないかな、と。


 あと、リチャー ドが「子供のうちは子供らしくさせるべき」と言って、練習を二の次にして家族でディズニーリゾートに遊びに行かせるシーンがあったんだけど、実は本作が公開されていた時期、ある十代アスリートのドーピング問題が世間を騒がせていてさ……。タイムリーな話題だったからかもしれないけど、このシーンも結構印象的だった。勝利至上主義とも見受けられる中にありながらも、そういったことを大切にしたり、また、勉学を疎かにさせない姿なんかも描かれていたのもとても良かった。



 リチャードは、当然のように自身の言う事を娘たちに信じ込ませているが、それ以上に子供たちのことを信じていた。たまに教育について妻と揉めることもあったけど、父親が父親なら母親も母親というか……、口論になってはいるものの、全て “娘たちが成功する前提” で揉めている。

また、あまりにもアグレッシブな手段を強行しようとするリチャードに対し、娘のコーチやインタビュアーが「ここでもし負けたら~」「上手くいかなかったら~」と、至極真っ当な問い掛けをするんだけど、その度にリチャードが「もし勝ったら?」と問い返すのも、彼が娘たちを信じて疑わないことの表れと言える気がします。



 他にもいっぱい良いシーンはあるんだけど、個人的に一番面白かったのは最期の最後。物語が終幕し、エンドロールに入る時に流れる、ウィリアムズ姉妹やリチャードら本人の過去のビデオ映像。それが、劇中にあった「マジかよ」と思えたシーンとほぼ同様の映像ばっかりでさ。実話ってだけでも楽しめるのに、「実話を基にしたどころか、そのまんまだったのか!!」という驚きが、映画の面白さの余韻に拍車を掛ける。しかもその映像が、背景に流れる音楽も相俟って、いわゆるモチベーショナル動画みたいに見えてくるのもまた良い。

「今に世界を震わすぞ」

と言わんばかりの態度を貫き通してきたリチャードの姿との相性も好いというか、観ているこちらの心まで震わしてくれるようにすら感じてしまう。


 その素晴らしい功績のために、数字ばかりが目立ってしまいがちだけれど、衆目の中で、それも金持ちや白人のスポーツと思われ続けてきたテニス界で戦ってきたウィリアムズ姉妹の姿や、他者だけでなく自分自身へのリスペクトも重んじる精神などなど……。物語の終盤でも示されていた通り、技術だけでは計り知れない、人の心を動かさんばかりの勇敢な姿にこそ、トップアスリートたる所以があるのだと改めて思い知らされました。


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