見出し画像

映画『SISU シス 不死身の男』感想

予告編
 ↓

R-15+指定


人間味の排除


 タイトルにもなっている「SISU」とは、翻訳不能のフィンランド語。映画の冒頭で意味合いも含めた説明の字幕が表示されますが、実のところ、「すべての希望が失われた時に現れるという不屈の精神」「想像を絶するほどの意思の強さ」「何があっても折れない心」……等々、公式ホームページや映画情報サイトなど各メディアによっても意味合いの説明が異なっている、不思議な言葉。今思えば、この不明瞭な感じ、掴み切れない、得体の知れない感じが、本作を何倍にも面白く感じさせてくれていたんじゃないかな。

 

 本作はまさに雰囲気の勝利。何かしそう、起きそうといった空気感が醸成され続ける中、厳つい感じのホーミーみたいな(名前がわからない)BGMが緊張感・緊迫感が生み出す。主人公の渋い見た目や、色恋も描かれない孤高な感じ、あとは無口な辺りも相俟って、どことなく西部劇の雰囲気さえも彷彿とさせます。そういえば他のBGMもどことなく西部劇っぽさがあったかもしれません。

 今しがた「雰囲気の勝利」と述べましたが、言葉を変えれば “外連味の勝利” という形容の方が伝わるかもしれません。バイオレンスなアクション描写、織り交ぜられるスロー映像、そして(後ほど改めて感想を述べますが)主人公から溢れ出る強者感なども含め、先述した雰囲気が徹頭徹尾劇場全体を支配していたように感じます。

 

 これまでにも「本作は劇場で観た方が面白い~」などの言葉を述べてきましたし、もっと言えば、劇場で観た方が良いのはどんな映画にだって共通することなのですが、殊、本作に関して言えば、若干ニュアンスが違ってくる。繰り返しになりますが、本作に対する僕の感想は、雰囲気・外連味の勝利。あまり細かい部分などには目もくれず、『SISU』を体現したような主人公の迫力を存分に味わうだけの本作故、「劇場で観た方が~」とかではなく、逆に「家のテレビとかタブレットで観ても何一つ面白くない」気さえしてしまうんです。はっきり言って「こんな奴いるか!」と思えるような場面が連続します笑。でもそれが面白い。映画館という、外界と隔絶されたような閉じられた空間で集中して観るからこそ、本作の雰囲気にどっぷり浸かれるんじゃないかな。……まぁ、とは言いつつも、どうせ配信が始まったら僕も家のテレビかタブレットで再度鑑賞すると思いますけどね笑。

 


 本作の面白い部分を真面目に考察するのも野暮な気がしますが、一番の魅力は、主人公の人間味についての部分。人間味が悉く排除されていた印象です。寡黙な人物故、何を考えているのか、目的もわからないまま主人公の動向だけを追い掛けていく本作。戦闘シーンでは唯一、銃弾からは一応逃げてはいるものの、他に関しては一切退く姿勢を見せない。殴られようが、敵に囲まれようが、戦車が近付いてこようが、出血したまま川に潜るハメになろうが、地雷原の中だろうが……。銃弾は、おそらく〈死〉に直結するから避けている。

 しかし、残りの要素に関しては、何も考慮していなさそうに見える。どんなに激しく厳しいものだろうと、あくまでも「痛い」「苦しい」だけであるなら特にお構いなしといった印象。とはいえ、傷口を抑えたり、苦悶の表情を浮かべたりなど、実際に痛みや苦しみ自体は感じている模様。しかしだからこそ、人間味が希薄になっていく。人は本来、痛みや苦しみを避けるもの。確実に苦痛を感じていて尚、歩みを止めない。そして何より、どんなにボロボロになっても “何故か” 死なない。一部の予告編映像の中でも明言されていますが、この死なない理由もまた面白い。飲み食いもしなけりゃ言葉も喋らない、痛み・苦しみを恐れない。そんな人間らしさの欠如した姿が、感情を失った不死身の殺戮ロボットみたいに見えてきます。

 

 物語の途中、第三者によって明かされる彼の素性。どうやら〈怒り〉が根源に潜んでいるようではあるものの、それでも掴み切れない実体。「伝説の兵士」という不明瞭さ、目的不明の動向、敵軍の兵士たちの「アイツは一体何者なんだ?!」みたいな感じ……。これらの要素はまるで、“翻訳不能——言葉では言い表せない存在——の『SISU』”というタイトルの言葉が持つパワーをそのまま具現化しているかのようではありませんか。

  最期の最後、修羅場を潜り抜け、彼が言葉を口にする瞬間。「果たして彼の目的は?」「冒頭から金塊を掘り集めていた理由は?」といった様々な想いが脳裏を駆け巡っていましたが、結局、わからないまま終幕。「わからない」と言うと語弊があるかもしれませんが、「本当にこれだけの理由でこれまで戦ってきたのか」と思わされたんです。そんな後味もまた、主人公の人間味を失わせていたんじゃないかな。

 

 物語、タイトル、そして作品の性質など全て含め、映画全体で「一体何なんだ?!」感が演出された一本。予告編でも語られていたように『爆風マッド・エンターテイメント』である本作は、とにかく余計なことを考えずに世界観や雰囲気を存分に味わいたくなる、痛快なバイオレンスアクション映画です。


#映画 #映画感想 #映画レビュー #映画感想文 #コンテンツ会議 #バイオレンス #フィンランド #ナチス #SISU #シス #不死身の男

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?