見出し画像

映画『オルジャスの白い馬』感想

予告編
 ↓


 昨日投稿した記事でも「ネタバレってどこからがネタバレなんだろう?」なんて述べてしまっていましたが、本項でもそんな話が出ています。偶然ですけどね。

 とはいえ今回はネタバレのタグは付けていません。よければどうぞー。


ドラマは突然に


 森山未來さんの海外映画初主演ってことなんですけど、なかなか本人が出てきてくれない笑。そりゃあもう「観る作品間違えたかな?」ってぐらいに出てこない。だから彼だけを楽しみにして観ている人たちにとっては、彼の姿を拝めるまでの時間がとても長く感じてしまうかもしれません。彼だけを楽しみにしていたわけでもなかったのに少し長く感じてしまったくらいだから。


 映画に限らずネタバレはしないに越したことはないのですが、どこからどこまでがネタバレなのかという問いもある。言ってしまえば映画の予告編だって、ある程度あらすじのネタバレになるわけですから、気にしていたら切りがありません。ただ、そのネタバレにも種類がある。世間一般で広く用いられているのは、物語の展開を詳らかにされるタイプのネタバレ。もう一つが、作品の風合いや毛色が知れ渡るタイプのネタバレ。人によっては「そんなもんネタバレでも何でもない」と仰る方々も居られるでしょうが、「コメディだ」「アクションだ」という触れ込みだったのに「実はホラーでした」「実は悲しい話でした」という急展開は、場合によっては物語の起承転結以上に重大なネタバレになりかねない。

 本作は間違いなく後者のタイプのネタバレを警戒すべきだし、その上、その変化の振り幅こそが作品の見応えに繋がる要素の一つだと個人的には感じているので、“そういう意味でネタバレ” に関してはご容赦ください。


 映画の冒頭、風の音、家畜の鳴き声をBGMにして、広大な大地の中にポツンと存在する家が映されます。そこにトラックがやってくるだけの静かなシーンから映画が始まる。平穏……というか無機質に近い空気が生み出され、何てことのない、いつもの日常を過ごす親子の姿。監督の一人が日本人なのですが、あまり日本映画には見受けられないタッチには好感が持てます。脚本や台詞で説明紛いの演出をすることなく、表情や仕草、背景やカメラの構図までをじっくりと楽しめる。

 ……と思っていたのですが、本当に何も起こらない。たしかに舞台となるカザフスタンについての知識は薄いですが、日常会話や生活環境で彼らがどういった家族なのか、どんな暮らしぶりなのかといった程度はなんとなくわかる。かと言って、何かが始まる わけでもない。そんな感じが続く上、先程の “森山未來なかなか出てこない問題” もある笑。個人的には嫌いじゃないんですけどね。作り手の意図を正確に汲み取れているかはともかくですが。

 っていうか、 後ろの方の席に座っていた(多分)オッサン! 劇場少し小さめな上にスカスカだったから、こっちにまでイビキが聞こえたぞっ笑! まったく……。


 まぁ、そんな人も出てくるくらいですから、万人にはお勧めできません。ただ、ここからが面白い。突然、風向きが変わる。自然のBGMが流れる静かで平穏で無機質な日々に、突如として劇薬が投下される瞬間、一気に目が覚める(別に例のオッサンみたいに寝ていたわけじゃなくて)。この振り幅が良い。

 シンプルだからこそ集中できるというのもありますが、それ以上に普段「これは映画(=作り話・フィクション)だ」という潜在意識で観ていると、どうしても日常の感覚を失ってしまう。自分にはまったく縁の無さそうな一大事にも、凄惨な事故や事件にも、堂々と感情移入し、高揚感を得てしまっている。なんだったら場合によっては物足りなく感じるくらいです。だからこそ映画の中だけは、誰しもがちょっとした出来事では刺激を感じられなくなっているんじゃないかな。

 しかし本作は どうでしょうか。あまりにも平穏で無機質なそれまでのシーンがあるおかげで、普段映画を観る際に自身に起きていた日常の感覚との乖離を元に戻してくれる。そして、ここで満を持しての森山未來登場ですよ笑!


 物語については深く語りませんが、父親との距離、父親という存在そのものが重要になるくらいの年齢の少年・オルジャス(マディ・メナイダロフ)の心情を、必要以上に寄り添ったりするのではなく、ある程度距離を取ったミニマルな距離感で描かれているのが魅力の一つ。反対に、父親自身の心の揺れ動きも同様。突如訪れた事態に、何か使命感を持って行動に走ったのかと思わせる一連のシーンを、過剰な感情表現や説明台詞に頼らずに描きながら加速していくクライマックスも見どころです。


 そしてようやく訪れるラスト。ミニマルが故に不明瞭のまま、余白を残したまま迎える本作のラストを観て感じられるものは、自分の知らない(見ていない)所で起きた事柄を頭の中で咀嚼できずに、心で完全に受け止めきれずにいるオルジャスの心情にも似た後味なのかもしれません。


#映画 #映画感想 #映画レビュー #映画感想文 #コンテンツ会議 #森山未來 #カザフスタン #オルジャスの白い馬

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?