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映画『猫は逃げた』感想

予告編
 ↓

R-15+指定


 今泉力哉監督城定秀夫監督がお互いに脚本を提供し合い、それぞれが監督を務め、R-15+指定の恋愛映画を二本制作する企画『L/R15』の二本目の作品。

同企画の一本目の映画『愛なのに』の感想記事も投稿しましたが、本作は、
 監督:今泉力哉
 脚本:城定秀夫
です。


近頃、だいぶコロナの影響も落ち着いてきましたが、この感想文を書いた頃はまだまだ感染に警戒していた時期だったので、今読み返してみると、現在のご時勢とは少しばかり感覚が合っていないっぽい内容も含まれてはおりますが、楽しんで読んで頂けたら幸いです。


他人事だから面白い


 本作も負けず劣らず面白かったです。濡れ場の使い方が上手いというか、いやまぁ確かに “そういう目線” で観に来ている人がゼロとは言わないけれど、単に性的な消費のためだけのシーンではないのは好印象。男女間におけるセックスの位置付けが妙にリアルな気がするというか何というか。僕ごときがあーだこーだと語ってしまって良いものかはわからないけど、恋人や友人、夫婦、愛人、セフレ等々……、世の中には、性愛を含めた男女間の関係を示す言葉がこんなにも存在するのに、それぞれの言葉があまりにも自明ではないことがしっかりと表現されていた気がします。何をもって夫婦なのか、何をもって恋人なのか。どこからが愛人なのか、不倫なのか、遊びなのか……。そして、何が ”愛” なのか。これは是非とも、男女問わず誰かと意見交換してみたいところだ笑。


 何より、飼い猫のカンタについて「発情期は大変なんだ」と言っていた人間たちの方が、性事情や恋愛事情が破綻していて、そんな人間たちのわがままに振り回される猫たちの方がよっぽどプラトニックだったというのも、登場人物たちへの皮肉のようで面白かった。

人間の情事の間に猫のシーンを挟むのも相俟って、そんなことを感じてしまう。人間側の情事やいざこざのシーンでは、割と淡泊というかシンプルな描写が多かったのに対し、カンタが一匹で散歩に出掛けるシーンになると、打って変わって急に朗らかなBGMが流れ出し、映像の雰囲気というか情緒が豊かになるのも良い。

曖昧な想いを持ち続け、不明瞭な関係を引き延ばす人間側とは対照的に、猫のカンタの愛が一番ドラマチックなんじゃないかと思わせる工夫、展開にも笑けてしまう。



 主軸となるメンバーの4人中4人全員がはっきりしていないのも良い。もぉ終盤の修羅場みたいな空間の面白さったらなかったね。(人によっては苛立ちを覚えてしまいかねないんだろうけど、)全員、意見がはっきりしなかったり言い訳がましかったり、且つ、それぞれに落ち度があり、不毛で非建設的なやり取りがだらだらと続いていく様子を、定点で撮り続ける。本作は全体を通して、定点で撮影しているシーンが何度もあり(まぁこれに関しては、今泉力哉監督作品ではよく見るというか、今泉監督らしいというかですが)、中でもこのシーンは特に、どこか小津安二郎チックというか、誰か一人だけを主人公にしていない感じが出ていてとても良かった(だからこそ、先述の感想同様、この面子の中で誰の肩を持つかという意見交換もしてみたくなる。或いは、誰の味方かではなく、 誰が一番悪いかについて)。



 事の真相が明らかになる時や、物語の締め括りに向かうシーンの時、低い画角で撮られていたのも、ある種同様というか、誰か一人だけを主人公にはさせない工夫のように感じられます。低い視点で誰かしらの足元だけが映り、カメラが上にパンして正体が判明する、或いはその人物がしゃがみ込むことで顔が映る。ここでの低い画角は、どこか猫の視点を想起させ、それが第三者的な捉え方を促すんじゃないかな。まぁこの手の話題は他人事であればあるほど面白いしね。


 4人それぞれに落ち度があって簡単には肩を持てない、そして度々感じる第三者的というか特定の個人に感情移入させないような作りのおかげで、繰り返しになるけど誰かと意見交換したくなる。今のコロナ禍、なかなか友人や知人に会いづらいご時勢のため、観終わってから感想を言い合うという楽しみが減ってしまったようにも思えているからか、やたらとそんなことを考えちゃいます。



 本作は、前出のシーンに戻り、そこと同じシーンを少し違う角度、もしくはその時点では描いていなかったシーンを加えて、「実はあの時~~だった」という感じで答え合わせをするような箇所が幾つかある。事件の真相を描くという語り口でもあるけれど、それ以上に「あの時本当はこう思っていた」という登場人物たちのドラマ部分にフォーカスを当てている印象。

「こう思っていた」とセリフにし、その上で遡ってシーンを描き直す。言葉と映像で二重で説明しているのに退屈に感じなかったのも良い。作品自体がまったりしているからかな?  とはいえ、全てを知った上でもう一度本作を観たいと思わせる魅力にも繋がっている。感想を言い合えない分、劇場に足を運ぶことにしようかな。


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